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ヨコハマのソフトタイヤ、ドライバー評は千差万別。スーパーフォーミュラの混戦要因に

2018年03月27日 06:11  AUTOSPORT web

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スーパーフォーミュラのヨコハマタイヤ
2018年の全日本スーパーフォーミュラ選手権における大きなトピックスのひとつ……と言えば、2スペックタイヤの導入だろう。従来使用されていたミディアムタイヤに加えて、新たに登場した2018年のソフトタイヤ。しかし、鈴鹿でのテストではドライバーのインプレッションがさまざまに分かれており、現段階ではソフト投入が“狙いどおり”の不確定要素となりそうな予感だ。

 今シーズンもさまざまなトピックスがあるスーパーフォーミュラでは、他のフォーミュラカーレース同様、レース内容を予測不可能かつ、見ごたえあるものにするためにいろいろなアイデアが試されているが、そのひとつがこのソフトタイヤ。ヨコハマタイヤ供給1年目となる2016年は第4戦ツインリンクもてぎで、2年目の2017年は第4戦もてぎに加えて第5戦オートポリスでも2スペックタイヤが導入された。

 17年まではソフトタイヤの耐久性が非常に高かったために、その狙いを“逆手”にとる戦略も数多く見られていたが、今季導入された横浜ゴムの2スペックタイヤは、狙いがくっきりしている。「ミディアムタイヤは2017年と一緒です。ソフトタイヤはコンパウンド、ゴムが路面に設置する部分が変わりました」と語るのはヨコハマの秋山一郎氏だ。

「ミディアムは、スーパーフォーミュラのレース距離を走りきれるくらいの性能を持っています。一方、ソフトはそれよりもピークグリップを高めるかわりに寿命が短く、少し摩耗が早く進む、そういうものを作り分けるようにしました」

 そのソフトタイヤは、17年12月のルーキーテストで初めて試されたが、3月12~13日に鈴鹿サーキットで行われた第1回公式合同テストが初の本格的な導入。レース戦略のなかでソフトタイヤがどれほど保つのかが重要になるが、ここで各ドライバーたちのソフトタイヤに対するコメントには、かなり“バラつき”がみられた。

■ドライバーのフィーリングは見事にバラバラ!?
 ここで、各ドライバーのタイヤに対するコメントを紹介していこう。なお、これから紹介する各コメントは、鈴鹿サーキットで3月10~11日に行われた鈴鹿サーキットモータースポーツファン感謝デーと12~13日に行われた第1回公式合同テストのときのものだ。コメントを聞いたのは同日ではないため気温、路面温度、コースコンディションが同じではないことをお伝えしておく。

・小林可夢偉/carrozzeria Team KCMG(3月12日午前のテスト走行後)
「僕はミディアムのグリップが足りなくて、ソフトの方が合っています。セットアップだとは思うんですが。ミディアムとソフトのタイム差はけっこうありますね。もう少しテストしてみないとわかりませんが、スタートはソフトの方が有利だと思いますよ」

・石浦宏明/P.MU/CERUMO・INGING(3月12日午後のテスト走行後)
「ソフトタイヤでアタックして、ピークグリップが1周もたないのか、というくらいのフィーリングでした。12月に履いたときと感覚が違いましたね。ソフトタイヤの使い方が難しくなってくると思います」

・山本尚貴/TEAM MUGEN(3月12日午後のテスト走行後)
「今日の感じだと、ソフトのもちはあまりに悪いです。一発タイムが出たところでグリップが落ちてしまいます。現状、今のクルマにソフトを使うとまったくリヤのグリップ感がなくて。アウトラップが一番グリップしてるんですよ。本来はタイヤが冷えていてグリップしないはずのアウトラップなのに。2周目と3周目のほうがグリップがないんです。フロントは、あまりグリップの落ちを感じないんですが……」

・松下信治/DOCOMO TEAM DANDELION RACING(3月12日・13日午後のテスト走行後)
「(3月12日午後のテスト走行後)ミディアムタイヤはけっこう好きです。バランスを合わせられました。ソフトにはグリップの違いをあまり感じていません。それなりにまとめても、コンマ4秒しか(タイムが)上がりませんでした。今日の僕はミディアムに合っていたのだと思います」

「(3月13日午後のテスト走行後)今回、ソフトを履いてトップタイムを出しました。ソフトでのロングランは20周で、もちは大丈夫です。グリップもうまくコントロールできました。タイムとしては1秒くらい落ちますが、キャラクターをつかめています」

・福住仁嶺/TEAM MUGEN(3月12日午後のテスト走行後)
「ソフトタイヤを履いてスピンしてしまったんですが、クラッシュする前のユーズド・ミディアムの感じだと、そんなに(フィーリングは)悪くはないです。僕ははっきりとした違いがわかりませんでしたが、ミディアムに比べてソフトの方がグリップ感は感じました」

■大嶋、「両方のタイヤを使いこなせるクルマを造ることが重要」
・大嶋和也/UOMO SUNOCO TEAM LEMANS(3月13日午前のテスト走行後)
「感じているグリップが、思いのほかタイムに反映されていないんです。セットアップにもよると思うんですが。ソフトでバランスが悪いとミディアムの方が速かったり。ソフトはフィーリングとしてグリップ感は高いけど、使いこなすのがすごく難しいですね」

「ソフトで速いクルマとミディアムで速いクルマがばらばらで、ドライバーによってはミディアムでソフトと変わらないくらいのタイムで走ったりもする。ミディアムでは遅いのにソフトで速く走るドライバーもいますから、両方のタイヤをきちんと使いこなせるクルマを造らないといけないと思います」

・塚越広大/REAL RACING(3月13日午前のテスト走行後)
「ソフトタイヤに関しては、いいところが1周しかないですね。アタック2周目だとグリップダウンしちゃう。ミディアムの方がアタックしたときにもちますが、ソフトの方がタイムは出ます。使い方が難しいです。乗り心地としてはソフトが好みなんですけど、ライフがもたない。いかに使えるようにするかが課題です。グリップは急激にガクンと落ちますね」

・山下健太/KONDO RACING(3月13日午後のテスト走行後)
「セットアップが詰め切れてなくて、ミディアムとソフトも僕には現在、どちらも合っていない状態です。ソフトは、2017年のタイヤよりもタレそうでグリップは高そうという感じはあります。ミディアムとソフトの違いはそんなに感じません。コンディションにもよるかなという感じです。ソフトでロングランしましたが、合計10周くらいで終わりました。グリップは少しずつ落ちますが、一回滑り始めると終わっちゃいますね」

・千代勝正/B-MAX RACING TEAM(3月13日午後のテスト走行後)
「ソフトだと、1発のタイムを出そうとすると1周で終わってしまい、2周目は少しリヤのグリップが落ちるように感じましたね。クルマのバランスもあるのかもしれませんが、2周続けてアタックは難しいと思います」

■各陣営が特性をつかむまでは混戦に……!?
 こうしたドライバーの声について「たしかに、ポジティブなコメントのドライバーとあまりフィーリングが良くない、タイムが出ない、というコメントはあります」と認めた上で、秋山氏はこう語る。

「僕らもまた、タイヤの特性をつかみきれていないところがあります。クルマ側のセットと路面状況の組み合わせのなかで、いろいろなフィーリング、タイムを含めていろいろな結果が出ているのだと思います。セッティングを詰めていくと、ある程度のところには収れんしていくのだと思いますが」

「いずれにしろ、特性の違うふたつのタイヤは、レース戦略やドライバーのタイヤマネジメントといったレースの演出になるでしょう。今回のタイヤに対しては、まだチームも戸惑っているところがあるのだと思います」

「じつは現在のミディアムは昨年構造変更したのですが、はじめから好意的に受け入れられたわけではありませんでした。それを1年間かけてチームが特性、使い方を見極めてくれたんだと思います。なので、今年のソフトタイヤも、走行を重ねるなかでタイヤの特性を見極めて、上手に使ってくれるのではないかと期待しています」

 秋山氏の語るとおり、現在のミディアムについては各チームが特性をつかみ、いち早くつかんだチームがシーズンをリードしていくが、同時に全チームがつかみ出すと、“ある程度のところに収れん”してレースはある種の膠着状態に陥る。

 2018年に導入されるソフトタイヤは、現在インプレッションがさまざまであるとおり、少なくとも序盤戦まではレースを盛り上げるスパイスになることは間違いなさそう。ちなみに、ソフトタイヤのグリップの落ち込み方については、いわゆる“クリフ”があるとするドライバーもいる。スーパーフォーミュラルーキーとして参戦し、昨年までFIA F2やGP3で戦った松下信治、福住仁嶺にとっては、ある意味ピレリの“クリフ”を知っていることが有利に働くかもしれない。