トップへ

ベッテル優勝のチャンスを引き寄せたライコネンの働き【今宮純のF1オーストラリアGP決勝分析】

2018年03月26日 12:31  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

F1オーストラリアGP決勝 優勝したセバスチャン・ベッテルと3位のキミ・ライコネン
2018年F1開幕戦オーストラリアGP、予選で圧倒的な速さを見せたルイス・ハミルトンだったが、決勝ではまさかの2位という結果に。F1ジャーナリストの今宮純氏がオーストラリアGPを振り返り、その深層に迫る──。 

------------------------------------

 豪速を見せつけたルイス・ハミルトンの予選PPショーと、強運を引き寄せたセバスチャン・ベッテルの逆転決勝ドラマ。見どころたっぷりな幕開きだった――。

 勝機を逃さないフェラーリ、正しいタイミングでやるべきことをやった。25周目途中でバーチャルセーフティカー(VSC)状態になったとき、首位ベッテルは2位ハミルトンをコントロールラインでは11.306秒リードして通過。

 ここまで引っ張ったウルトラソフトを即26周目にソフトに交換、ピットストップ所要時間21.787秒。一方ハミルトンは後方で“VSC走行モード”を遵守、この26周目は1分57秒688かかった。単純な言い方として、2位ハミルトンは首位ベッテルより長いコース距離を、そのVSCモードで行かねばならない。

 フェラーリは手際よくタイヤ交換、ベッテルの26周目ラップは2分05秒108。7秒以上ハミルトンよりラップタイムは劣るがリードタイム分の“11.306秒”で十分にカバーでき、首位安泰のまま1コーナーに向かった。VSCチャンスをものにしたのだ。

 我々の手元にリアルタイム表示の“GPSポジション・データ”は無い。だがビッグチームは多数の専門スタッフが現場や、ファクトリーでそれを監視している。ここぞと動いて勝機を握りしめたフェラーリ、油断していたのはメルセデスか……。

 彼らはベッテルに対するギャップを詰めておくべきだったのだ。でもハミルトン自身はロング・スティントを意識せざるを得ず、あまりペースを上げないままでいた。


 ベッテルはフレッシュなソフト、この違いを意識するのは当然だ。メルセデスがPUを“パワーモード”に高めて追ってきても、ハミルトンの7周分オールドなタイヤは厳しくなるだろうと読める。案の定、47周目の9コーナーでワイドに膨らんだハミルトン、それでも再びプッシュして52周目に1.018秒差まで迫ってきた。18年シーズン最初のこの攻防に観客達はチケット料金に値するものを見られた(と思う)。

 予選では5年連続PPを豪速で決めたハミルトンも、53周目にはガクンとペースダウン。コクピットでステアリングのダイアルを次々に操作、“OFFサイン”がパネル状に連続表示された。

 昨年も起きた症状、リヤタイヤのオーバーヒートによって毎周1秒遅れていく。夕闇が近づいたアルバートパーク、彼のハロ越しに見える視界からフェラーリは消えていった。

 もう一つ、フェラーリは正しいことをやっていた。PPハミルトンにくいさがるミッションをライコネンに指示、最年長ベテランは17周目まで追走(この間、3位ベッテルはタイヤをセーブし中盤にそなえた)。

 そして18周目、早々にライコネンにピットインの指示。交換したソフトで残り50周もカバーすることになるのに彼は、無線で文句を言わずにこの“陽動作戦”を遂行する。

 フェラーリ陣営の予想通り、メルセデスはつられて次の19周目に首位ハミルトンを呼び込んだ。これからソフトで49周を戦うことになるのに対応して動いた。先頭ベッテルは2位ハミルトンと3位ライコネンを従えたまま、タイヤと燃費をケアしながら何かが起こるのを待っているように見えた……。


 開幕戦に嵐を吹き込んだのはハース。ゲームメーカーになりうるだけのスピードがケビン・マグヌッセンにも、ロマン・グロージャンにもあった。だが彼らは悔やみきれないエラーをピット・ワークで犯してしてしまう。

 22周目に4位マグヌッセンの左リヤタイヤが、24周目にグロージャンも左フロントタイヤが緩み、2コーナー出口の左側にストップ。

 そこは微妙な所だった。マーシャルが人力で排除しようとしていったん“VSC”になったもののそれは無理。重機を入れるためにセーフティカー導入、今季からの新車メルセデスAMG・GTRがデビューする事態に。なんとも皮肉だ。フェラーリ系チームのハースがメルセデスSC導入のきっかけをつくり、結果的にそれが開幕戦フェラーリ2年連続逆転勝利へとつながったのだから……。

 総括的に言うと、フェラーリはパフォーマンスで勝ったのではなく、メルセデスもそれで負けたとも思わないままに終わった。『21分の一の闘い』、今年最初から濃厚な味が香り立つ――。