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「月9」主題歌がJポップシーンで果たしてきた3つの役割 放送開始30周年記念コンピから読み解く

2018年03月26日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 3月21日にリリースされた『月9ラブ』。フジテレビで月曜夜9時に放送される1時間ドラマ、通称「月9」の放送開始30周年を記念した作品で、ドラマの主題歌および挿入歌として使われた楽曲がアルバム2枚(「30th Anniversary春夏」「30th Anniversary秋冬」)に計24曲収録されている。どちらの作品も、様々なドラマのオリジナルサウンドトラックをまとめたCDと合わせての2枚組となっている。


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 収録されている24曲の楽曲のうち、その大半は90年代に放送された「月9」にて使われたもの(80年代の作品が5曲、2000年代が1曲、残り18曲が90年代)。意地悪な見方をすれば、「よくある90年代懐メロコンピレーションアルバム」として終わらせてしまえなくもない作品である。ただ、そこはやはり 「月9」という由緒あるコンテンツを扱っているわけで、「過去作品の主題歌を並べた」という形式の作品であっても「単なる寄せ集め」にとどまらない意義が自然と浮かび上がってくる。本稿では、ここに収録されている楽曲を通して、90年代のJポップシーンにおいて「月9」が果たした3つの役割について考えてみたい。


 まず指摘したいのが、「Jポップクラシックを作り出す場」としての月9の役割である。久保田利伸 with NAOMI CAMPBELL「LA・LA・LA LOVE SONG」(1996年『ロングバケーション』)、藤井フミヤ「TRUE LOVE」(1993年『あすなろ白書』)といった今では誰もが知っていると言っても決して過言ではない楽曲は、ドラマとの相乗効果によって生まれた。オープニングや印象的なシーンでタイミング良く流れるこれらの曲は、ドラマのストーリーと合わせて視聴者の心により深く突き刺さる。いわば「その曲を魅力的に見せる映像が、多くの人の目に触れる場所で3カ月間流れている」という状況が、楽曲の力をさらに増幅させた(もちろんそこには「素晴らしい楽曲がドラマのクライマックスを彩る」という逆のベクトルも存在している)。


 次に、佐野元春「約束の橋」(1992年『二十歳の約束』)、財津和夫「サボテンの花」(1993年『ひとつ屋根の下』)、REBECCA「フレンズ~remixed edition~」(1999年『リップスティック』)などの「Jポップ以前」とでも言うべき楽曲の起用に注目したい。必ずしも数が多いわけではないが、新しい流行りものを取り入れるだけでなく過去の日本の音楽の資産を掘り起こす、そんな機能も「月9」は自然と請け負っていた。個人的には『二十歳の約束』(稲垣吾郎の初主演ドラマで、今をときめく坂元裕二が脚本を務めている)をきっかけとして佐野元春のキャリアに興味を持ったのだが、そういった形で少し前の時代の音楽と出会った層もたくさんいたのではないかと思う。


 ところで、前述の2つの役割は、必ずしも「月9“のみ”が果たしていたもの」ではない。「テレビドラマとの相乗効果で音楽を売る」というヒット曲生成の仕組みは月9に限った話ではないし、過去曲の起用に関してもTBSの野島伸二作品を契機としたカーペンターズ(1995年『未成年』)やサイモン&ガーファンクル(1994年『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』)のリバイバルなど他局にも例がある。そんな中で最後に言及したいのが、「お墨付きを得る場」としての月9の存在意義である。この枠は、大物として定着したミュージシャンのみならず、まさに売り出し中といったフェーズのアーティストをタイムリーに主題歌に起用してきた。今作に収録されている楽曲で言えば、「ロマンスの神様」での大ヒットを経て月9主題歌を担当した広瀬香美「ドラマティックに恋して」、「HELLO, IT’S ME」のロングヒットを受けて抜擢されたL⇔R「KNOCKIN’ ON YOUR DOOR」、「There will be love there -愛のある場所-」「冷たい花」のヒットで勢いに乗っていたthe brilliant green「そのスピードで」などが該当する。ソロでのキャリアが板についてきたところで月9に起用された奥田民生「さすらい」もここに含めても良いかもしれない。世の中に浸透しつつあるタイミングで「月9の主題歌」という称号を獲得することで、そのアーティストは自らの「格」をひとつ上のステージに進める。


 そんな一時代を築き上げてきた月9には、今でも他の放送枠以上の注目と期待が常に集まる。だからこそ、「月9の呪い」(参考:https://www.oricon.co.jp/news/2107764/full/)といった解説が時にはなされるのだろうし、「インディーズのアーティストが月9ドラマの主題歌を担当するのは4月からのOfficial髭男dismが初」といったように誰が「月9」の主題歌を歌うのかが引き続き大きな話題になるのだろう。


 今作に収録されていない楽曲も含めて、「月9」は日本の音楽シーン、特に「CDが売れまくっていた時代」でもある90年代のマーケットを力強く牽引してきた。『月9ラブ』を聴きながらその功績を振り返ることで、日本の芸能の一時代について思いを馳せなおしてはいかがだろうか。(レジー)