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DJ RYOW × 般若が語り合う、時代の変化と作品をリリースし続ける意味

2018年03月25日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 日本のヒップホップシーンに無二の足跡を刻み、これまでも多くの話題を提供してきたDJ RYOW(最近で言えば「ビートモクソモネェカラキキナ 2016」のリミックスでZeebraとAK-69の初コラボを実現させた立役者だ)が、3月21日、20年の活動の節目に通算10枚目のアルバム『NEW X CLASSIC』をリリースした。DJ RYOWの名を最初にシーンに知らしめたのは、今では伝説と名高い故・TOKONA-Xを客演に迎えた「WHO ARE U?」(2005年)のプロデュースだろう。以来シーンではDJ RYOWの名は一つのブランドであり、今も変わらぬ精力的な活動を続けている。本作は収録楽曲のMVに加え、昨年行われたTOKONA-X追悼ツアーの模様を収めたDVDをコンパイルした永久仕様版。この新作のリリースに際し、本作にも参加し、DJ RYOWと同じく現在10枚目のアルバム『話半分』のリリースを控えた盟友・般若を迎えた対談を企画。新作や時代の変化の只中で自身の作品をリリースすることについてどう考えているのかなどを語ってもらった。(山田文大)


(関連:DJ RYOWはなぜ多くの仲間から愛される? AK-69、PUSHIMらアルバム参加者コメントから考察


■「いつも想像を超えた曲になって返ってくる」(DJ RYOW)


ーーお二人は付き合いも長いですし、“DJ RYOW”と“般若”の名前が並ぶのは良い意味で「毎度感」があります。ただ毎回それがどんな曲なのかは、いざ聴くまで本当に想像がつかない。実際の二人の間の空気感だったり、曲を作る時のやり取りはどんな感じなんですかね。


DJ RYOW:自分のアルバムに関していうと、僕はいまチームでビートを作っているんですけど、その時僕らが作りたいものに絶対般若君が入っているんですよね。やり取りとしてはまずできたビートを般若君に聴いてもらって、それに返してもらうんですけど、その時にいつも想像を超えた曲になって返ってくる。


ーー今までで特に印象に残ってる曲はありますか?


DJ RYOW:「孤独。~Second Season~」(2014年/※書くのが憚られるような「ヤれる/ヤれない」という男の本音を生々しく羅列したトピック)って曲があるんですけど、あれとかはもう……ビビりましたね(苦笑)。


般若:「孤独。」あったね(笑)。あれ書いたの映画『Zアイランド』の撮影中で、出番待ちの時だったんだ。佐渡島で100人くらいのゾンビの前で(笑)。


DJ RYOW:(笑)。それで「孤独。」をライブで初めてやったのが、般若君の子供が生まれた日でしたもんね。ギリギリで来てくれて、あのタイミングも凄かったですよね(笑)。


ーーいま話に出ました「孤独。」もそうですし、「カルマ」(2009年)もですが、般若さんはRYOWさんの客演時は特に振り切ってる印象があります。


DJ RYOW:どうなんすかね。そこはビートというより、般若君の凄さと僕は思ってますけど。


般若:俺の3rdアルバム『内部告発』で最後に作ったのがRYOWがトラックをくれた「その男、東京につき」って曲なんだけど、レコーディングまで含めて、あんなにストレートに曲を作ったことはあんまりないんだ。あれは自分の中でもベスト3に入ると思う。一気にリリックを書いて、ほぼほぼ一発で録った。実際良い曲になったし、自分の代表作になったんだけど。今度出る俺の新しいアルバムでは「百発百中」という曲をやってもらってるし、ずっと前から毎回RYOWの作品にも起用してもらっているし……もうお互い何曲やったかわかんないレベルだもんね。これだけコンスタントに作品を出している人だから、信用できるというのがまずある。


ーー今回の「モクメのGRIP」に関してはいかがでしたか?


DJ RYOW:般若君にラップをお願いした「モクメのGRIP」は、元々“E”qualと一緒に100本限定でカセットだけで出した曲なんですよ。この曲を作った時にはもうリミックスを作ろうとは考えていたんですよね。もっというと、その時点でもう般若君にお願いすることまで頭にあった。今回考えたのは、もう一人をどうしようということでした。それで、いつか良いタイミングがあればと考えていた呂布カルマが思い浮かんだんです。それが今回ハマった感じでしたね。


ーー呂布カルマさんはRYOWさんと同じ名古屋出身のアーティストですが、一緒に曲を作るのは意外と今回が初ですよね。 


DJ RYOW:イベントではちょいちょい一緒になりますけど、曲を一緒にやるのは初です。昔、BALLERS(DJ RYOWが籍を置く名古屋のヒップホップクルー)でマイクコンテストをやっていたことがあるんですけど……フリースタイルバトルじゃなく、ライブのバトルですね。そこに呂布カルマはずっと出ていた。その頃からオールバックに柄シャツという格好で今と雰囲気は変わっていなくて。当時はみんな「こいつ誰なんだろ?」と言っていたんですけど、昔からラップはイケてました。


般若:今回は俺が最後に入れたんだよね。ヒロシ(“E”qual)と呂布のヴァースを聴いていたから、ちょっと変則的に入ろうというのは最初から俺の中でなんとなく頭にあった。自分のアルバムの作業があったから、その作業がひと段落つくまで待ってもらったんだけど、リリックは一気に書けたかな。


■「今の世代の子たちは、まずスタジオで作ることに集中」(DJ RYOW)


ーー今回はJP THE WAVY、Cz TIGER、BAD HOPの面々、唾奇といった若い世代のアーティストも起用しています。いざ一緒に作ってみて、世代間によっての違いなど、印象に残ってることはありますか?


DJ RYOW:アルバムには毎回初めて一緒にやるアーティストの楽曲を入れているんですけど、スタジオに入った感想でいえば、新鮮だなと思ったり、こんな作り方がありなんだと思うことはありましたね。僕もずっとやっているんで、こう作りたいとか、こうあるべきという自分の中の固定観念みたいなのがあるんですけど、そういうことを言いだしてたら今回は多分作れなかったです。


ーー具体的に何が新鮮で、どういう作業が違うんですか?


DJ RYOW:例えばヴァースを二小節ずつ録っていくとか(笑)。


般若:ホントそんな感じっぽいよね。


DJ RYOW:昔はこう……一本で録るのがカッコイイみたいな感覚があって、今も僕個人で言えばそう思ってるんですけど。


般若:それしかできねぇよ、俺(苦笑)。


DJ RYOW:(笑)。ライブのことを考えたらそういう録り方ってなかなかできないと思うんですけど、今の世代の子たちは、まずスタジオで作ることに集中している気がしました。色んな人がいるなと思いながら、今回は結構それぞれのアーティストのやり方を見て僕らが寄せていった感じでしたね。期日的にはマジでギリギリでしたが(笑)、基本的には作品としての完成度に問題がなければ何があっても良いと思って作っていました。


般若:ラッパーなんてどいつもこいつも人のいうことを聞かねぇヤツばっかだからね(笑)。時間の概念すらないような……。ねぇ? それをまとめてきっちり出していくのは並大抵のことじゃない。DJで10枚アルバムを出すのって、世界的に見てもすごいことだと思うよ。


ーーいま般若さんからも出ましたが、アルバムのタイトル『NEW X CLASSIC』の“X”は10枚目の作品ということですね。


DJ RYOW:今回10枚目ということと、アルバムタイトルに関しては新しいクラシックを生むという意味、世代をつなげる意味も含めですね。あとはTOKONA-Xの1st アルバム『トウカイXテイオー」の“X”にちなんだ意味もあります。


般若:『トウカイXテイオー』は衝撃的だった。TOKONA-Xとは1stアルバムが同時期に出るとわかって、「曲やるか」みたいな話になっていたんですよ。でも1stアルバム出してお互いの名前広めた後にやらないと、となって結局実現することができなかったんです。それ以来よほどのことがない限りオファーを断るのはやめて、やりたい人とはやっていこう、と思いました。彼は越すことができない人ですね。


ーー『NEW X CLASSIC』はここまで伺ったお話が集約されたタイトルなんですね。そして、“X”はもちろんTOKONA-Xの“X”でもある。そして、この記念すべき10作目のタイミングで、般若さんも10枚目のオリジナルアルバム『話半分』のリリースを控えているという……。


DJ RYOW:般若君のアルバムはほぼ客演なしで、それを10枚続けられるというのがまず凄い。自分はラッパーじゃないんで何とも言えないんですが、僕の周りでも、みんな頑張って曲を作ってはいるんですけど……それでも実際アルバムの完成まではなかなかいかないですよね。例えば「新しいビートを聴きたい」と言われたら、僕らはどんどん渡すわけですけど、そうやってアルバム2、3枚分のビートを渡しても普通は1枚作ることもできない。


般若:客演なしということに関して言うと、一応みんなにオファーしたけど断られたっていう建前があるんだけど(笑)。


■「俺の本音は楽曲で伝えていきたい」(般若)


ーー(笑)。お二人のようにアルバムをコンスタントに作っていけるアーティストと、それができないアーティストの違いってどこにあるんですかね?


DJ RYOW:“本気度”なんじゃないですかね。般若君やAK君(AK–69)はCDの売り上げ以外の目標がある。例えばライブをどこでやりたいとか、そういう目標がある人とない人で違うというか。僕も自分の作品があってDJのツアーをやるわけですけど、ちゃんとツアーファイナルに向かっていって、そこに落とし込みたいというのがあるんですよね。強い思いがあるからやれるというのはあると思います。


ーー現在は音楽のマーケット自体が劇的に変化している時代で、ストリーミングで聴くことが一般的になっていますし、音楽を楽曲単位で摂取するのがメインになっているように思います。アルバム自体の意味が失われているようにも思えるのですが、アルバムを作り続けているお二人はその辺りについてどう認識しているのですか?


般若:俺はこれからもアルバムを出し続けると思うよ。そうすることが聴いてくれる人、CDを買ってくれた人に対する恩返しだと思ってるし、それは自分が提示していくものだから。意見をSNSで言うようなラッパーがごまんといるけど、俺の本音は楽曲で伝えていきたいと思ってる。じゃないと音楽の力が失われていくと思うし、俺は音楽の力を信じているからね。もっと音楽を信じられる世の中になればいいとは、すごい思ってるけど。


DJ RYOW:この10年でも時代がすごい変わったじゃないないですか。この後の10年がどうなるのかわからないですけど、アーティストにしてもCDを作らない人がどんどん増えていくだろうし、YouTubeとかストリーミングとか、もちろんそういう聴き方も良いと思うんですよ。ただジャケットにしてもそうだし、今回俺も付けているんですけどDVDを一緒に入れたり……そこに意味をくっつけるというか、ストリーミングではできないことでも、CDで表現できることはあると思いますね。CDを持っている人が本当のファンというと言い過ぎかもしれないですけど、それがコアな層という一面はあると思います。最近は「いつもYouTubeで聴いてます」とか言われたりしますけど(苦笑)。


般若:平気な顔で言ってくるからね。おまえら来世ねぇぞって(笑)。俺は誰も信用してないよ。


DJ RYOW:はははは(笑)。


般若:ヒップホップ好きだけど、別になんだろ……ヒップホップを担っていくとか、シーンをどうこうしたいとかそういう気持ちは俺には一切ないし、興味ないからね。それでも聴いてくれてる人に対しては、ちゃんと感謝の気持ちはあるよ。


DJ RYOW:俺も一曲聴いて良かったと言われるより、一枚聴いて良かったという作品にしたいと常に思ってますね。やっぱり作品をゲットしてもらいたいし、そう思えるような音楽をこれからもやりたいと思ってます。


(取材・文=山田文大)