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イケメンは崩してなんぼ! 4つのパターン別に1月クールドラマを振り返る

2018年03月24日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 日頃、テレビドラマや映画の取材をしている筆者。特に最近は4月改編期ゆえにテレビまわりの仕事が忙しい。バタバタと取材に駆けずり回っていると、洋画の宣伝をしている人からこう言われた。


「えっ。テレビの取材もしているの。でも、ドラマって見るのしんどくない? よくそんなにたくさん見られるね」


参考:「動機だってどうだっていい」 法医学を描いた『アンナチュラル』が別格なドラマになった理由


 不意を突かれたのでリアクションできなかった。おっしゃりたいことは分かる。客観的に見れば、アカデミー賞の候補に挙がるような海外の映画はもちろん、アメリカの地上波ドラマに比べても、日本のドラマはエンタメとしての体力がなく、ありきたりなパターンに陥りがちで“ハズレ”も多い。ハズレばかりで見続けるのがしんどく、死んだ魚の目をして無の境地でテレビの前に座り続ける時期もある(たいてい7月クール)。


 しかし、この1月クールは決して「しんどく」なかった。“爆死”と揶揄されるような視聴率を取ってしまったドラマもいくつかあり、全体的に盛り上がっていたとは言えないが、俳優たちの演技が面白く、これまでのイメージを覆すものが多かったからである。


 もともとイケメンと呼ばれる二枚目俳優の役どころは、学園の王子様、フレッシュな新社会人、若手教師などが中心。ちょっとシャイだったりひねくれていたりはするが、基本的に真面目な人間で反社会的ではない。女性に対しても最初は上から目線だとしても結末を見ればちゃんと誠実な男に成長している。しかし、かっこいい彼らがかっこいい男を演じ続けても、見ているこちらは飽きてしまう。演じている本人たちも決まったパターンを踏襲するのに疲れてしまうこともあるだろう。その意味でこの1月クールは、演じる人にも見る人にとっても刺激的でウィンウィンの役どころが多かった。そのキャラクターを4つのパターンに分類して、振り返ってみる。


【パターンA:ミドルエイジの愛されキャラ爆誕】


『アンナチュラル』(TBS系)の井浦新/中堂系役
『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の木村拓哉/島崎章役


 全男性キャラクターの中で個人的に最も萌えたのが、危険な法医学者・中堂。解剖台で仮眠をとったり、オフィスで寝泊まりしていたりというアニメ的なキャラの立ち方や、ハスキーボイスで「クソ」を連発する不用意さも萌えポイント。一見、どこの職場にもいる、えらそうでひねくれた中年男だが、石原さとみ演じるミコトを始めUDIラボメンバーにそれを跳ね返す強さがあり、突っ込まれまくるのがよかった。松重豊演じる所長にも「中堂さんがこれまでにない素早い動き!」と茶化されるような愛でられ方をする。井浦新の役柄としては、『コントレール~罪と恋~』(NHK総合)でもそうだったように、過去に人が死んだ、人を死なせたという重いトラウマを抱えているのだが、中堂は正義を信じていないゆえに迷いがなく強い。そんなダークサイドまっしぐらの中堂をミコトたちがギリギリで引き戻すという展開に萌えた。


 『BG~身辺警護人~』の木村拓哉は、自分の力をひけらかさず進んでリーダーシップは取らないけれど実はすごくできる男というこれまでのパターンを踏襲しつつ、中年の情けなさを加味。斎藤工と間宮祥太朗という自分より若いイケメンをチーム内に配した潔さも好感が持てたし、子供が中学生の息子という設定も効いていた。「パパはすごい」と父親のファンになってくれる幼い娘や息子より、反抗期の息子は批判的精神を持って父親を見るからだ。そこにスーパーヒーローではない主人公の人間らしさが出ていた。女性に対するモテは健在のようでいて、最後に石田ゆり子演じる政治家が“吊り橋効果”から覚め、「やっぱ恋じゃなかった」とばかりに去っていく展開は絶妙。前作『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)でもヒロインと結ばれなかったが、しばらくは名作映画『カサブランカ』におけるハンフリー・ボガートのポジションが続きそう。


【パターンB:モラハラ男でどSキャラ炸裂】


『きみが心に棲みついた』(TBS系)の向井理/星名漣役
『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)の中村倫也/井筒渡役


 「怖い怖い!」とTwitterなどでリアルタイム視聴を賑わせたのがこの2人。向井理はこれまで高飛車な上から目線の男を演じることはあっても、女性に実際にダメージを加えるモラハラ男を演じることはなかった。しかし、今回演じた星名は、ヒロインを裸で歩かせたり下着姿で歩かせたり、「好きです」とばかりにアプローチしてきた部下をパクっと食ってしまったりと、とにかく極悪非道。「向井くん、よく引き受けたな~」と感心するほどの悪魔のような役だった。しかし、星名が美しい外見(整形済)を利用して女性を思うままに操る様、少年時代までの体験で歪んでしまったという弱い面を見せる演技は彼の新境地と言えるのでは。


 『ホリデイラブ』の中村倫也は、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)のまぬけなおまわりさんと同一人物とは思えないほどの変貌ぶり。妻の不倫を知ってキレまくるエリートサラリーマンになりきっていた。タレ目で童顔の彼にこの“冬彦さん”ポジションを演じさせたキャスティングがグッジョブ。妻役の松本まりかとともに「俺たちは嫌われに行くぞ」と意気込んでいたということだが、松本の怪演もあいまって完全に主人公夫婦を食ってしまっていた。最終回では、自分がモラハラ夫だったから妻を狂わせたということをきちんと反省し、脱“冬彦さん”。再婚を目指しけなげに婚活する姿には思わず胸キュンしてしまった。


【パターンC:そこまでやるか!? とことんダメ男を熱演】


『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日本テレビ系)の山田涼介/北沢秀作役
『トドメの接吻』(日本テレビ系)の山崎賢人/堂島旺太郎役


 最も落差の激しかったのがこの2人。山田涼介は月9『カインとアベル』(フジテレビ系)でクラシカルなお屋敷に住む財閥の次男をシリアスに演じていたが、まさかセルフパロディのような役柄を日テレ土曜枠でやるとは! 毎回『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)風のイントロとともにショックを受けて顔を崩し、泥棒となって目出し帽を被りまくった捨て身ぶりに拍手。最終2話で実は名門・北沢家の子ではなかったことが分かり、本当の家族とこたつでくつろいで綿入り半てんを着ている姿には思わず爆笑してしまった。


 『トドメの接吻』の山崎賢人は、これまで少女漫画原作の映画で千本ノックのように王子様役を演じ続けてきたことを逆手に取るようなホスト役。ラブホで上半身裸になるシーンも頻出し、これまでのイメージを打ち破りたいという本気度を感じさせた。ターゲットの女性を口説くときのあまーい顔やヘラっと笑ってクズ男の本性を見せる表情から、肩を落としただらしない歩き方まで、この役を楽しんで演じていたことがよく分かる。終盤、真実の愛を知ってからの感情のこもった表現も、それまでのギャップがあったからこそ胸を打った。


【パターンD:女子的ルックスで美人力開花】


『海月姫』(フジテレビ系)の瀬戸康史/鯉淵蔵之介役
『女子的生活』(NHK総合)の志尊淳/小川みき役


 『海月姫』で女装男子を演じた瀬戸康史はとにかく美しかった。原作コミックのイメージには映画版の菅田将暉の方がつり目気味で合っているのだが、くらげドレスの下からのぞかせた美脚も含め、体重を落としてフィジカルにこの役になりきった。役柄としては女装好きだが、性的指向はヘテロ。そんな女装男子とヒロインが結ばれるなんて、まさに恋愛ドラマの文明開化や!


 それに対して『女子的生活』の志尊淳は、外見が女性的で心も女性、しかし恋愛相手としては男性ではなく女性を選ぶというメンタル面が難しい役どころだった。同時に『トドメの接吻』でもストーカー気質のゲイを演じていて、子育て中の母親世代としては「戦隊ヒーローのレッドがこういう役を演じる時代になったんだなぁ」という感慨もひとしお。4月スタートの朝ドラことNHK連続テレビ小説『半分、青い。』ではまたもやゲイ役を演じるので、当分、志尊淳から目が離せない。


 女装男子は性的マイノリティの役でもあるので、一概に面白がってはいけないのだけれど、見た目の意外性と楽しさがあるし、設定上も新しいドラマの可能性を示してくれたのではないかと思う。


 こうして見てきても1月クールは、刺激的だった。対して来たる4月クールは、ゴールデンタイムのドラマの半数近くが刑事ものと推理もの。キャラクターとしてもこれまであった造形が多く、“新しいなにか”を見せてくれるかどうか? そこは挑戦作と言える月9『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)や『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)などに期待したい。(小田慶子)


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記