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SAが新作で表現した、バンドの“気品”「窮地に陥ったときでもニヒルに笑える男でいたい」

2018年03月23日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 SAがまたやってくれた。3月21日にリリースするアルバム『GRACE UNDER PRESSURE』は「こんな武器まで持っていたのか」と思うほどに、どデカい懐を見せながら誇り高きSA流のロックを叩きつけてくる。強く熱き想いが込められた12曲はそれぞれにドラマがあって、濃厚で強靭で図太い音が次々と襲い掛かってくるのに、その時間はあっという間で。聴き終わったあと、なんだかスカッとした晴れやな気分になるのだから不思議だ。


 窮地と気品ーー。彼らほどキャリアのあるバンドがあえて選んだ言葉。そのタイトルにはどんな意味があるのだろうか。TAISEI(Vo)とNAOKI(Gt)に話を聞く。(冬将軍)


■「オレらの現状はいつだって窮地だと思ってる」(NAOKI)


ーー2017年9月6日にリリースしたシングル『MY ONLY LONELY WAR』のときに、「次のアルバムを見越して20曲くらい作った」とおっしゃってましたが、そのときの楽曲が今作のベースとなっているのでしょうか?


NAOKI:そうね、7割くらいかな。


TAISEI:シングルを作ってる時点で、アルバムのイメージは描いていたから。<攻めでゆけ!>じゃないけど、攻めで行くシングルだったし、そこからの流れでやってたね。あのとき持ち寄った曲も入ってるけど、また新しく作ったり。


ーーどんなイメージを描いてたのですか?


TAISEI:“強いSA“、それでいて、“あったかいSA”、そして、“優しいSA”。この3ワードは本来SAが持っているものだし、それをちゃんと形にしたかった。前回の『WAO!!!!』というアルバムがいろんな挑戦をした、非常に実験的なアルバムだったことを踏まえてね。でも、その実験がすごくよかったと、今になって思う。ああいうことをやれたからこそ、SAの本質にあるパンクであったり、ロックンロールであったりを、ギュっと凝縮できたアルバムになったと言えるね。


ーー音楽性の拡げ方に対するSA流の噛み砕き方、みたいなところが『WAO!!!!』とツアーを通してより深くなったように感じました。ストレートに見えて実は凄いことやってる、というような。


TAISEI:そうね。やっぱ経験値として、あれをやらなかったら、今回のこれはできなかっただろうし。


NAOKI:今回、時間がすごくなくて。TAISEIと2人で20~30曲持ち寄って、3時間のリハーサルをたった6回やっただけで、ここまでの形にしてるんですよ。リハやって、プリプロやって、すぐレコーディングに入ったんです。時間がなかったからこそ、みんなそれぞれの曲の解釈を共有しあって「ああやろう、こうやろう」とセッションっぽくやれたのはデカかったですね。年末だったし、ライブをやってからの流れもあって。


TAISEI:ライブからの流れで制作、レコーディング、となると、やっぱりそういうモードが自ずと出るよね。言葉があってるのかわからないけど、“闘いに挑む”気持ちでレコーディングに臨んだね。言葉は悪いけど「なめんなよ!」みたいなさ。


NAOKI:「50歳過ぎたSAの圧倒的な凄さ見せたろ!」というのはあったね。


TAISEI:そういう“挑む”意識というのは4人で共有できてたよね。「いいもの作るぞ」っていうさ。


ーーアルバムタイトル『GRACE UNDER PRESSURE』にはどういう意味が込められているのでしょう?


TAISEI:「“Courage is grace under pressure”=勇気とは、窮地に陥ったときに見せる気品のようなものだ」ーーこれはヘミングウェイ(アーネスト・ヘミングウェイ、アメリカの小説家・詩人)の言葉なんだけど。窮地に陥ったときでもニヒルに笑えるような男でいたいと思ったし、そんなバンドでいたいなと思った。じゃ、僕らにとっての窮地とはなんなのか? 現在立たされている状況、そしてこれから挑みゆく道なき道は、茨の道なのかもしれない。もっというならば、これまで挑戦してきたことに対する賛否両論いろんな意見。そこに立ち向かう心意気とでもいうか。それがすごく表れている言葉だなぁと思った。“Grace(=気品、優美)”っていうワードもすごくいい。この歳で“Grace”と言える。なんだか今の僕らにぴったりだなぁと思ってね。


ーーSAらしい、底抜けな明るさをも感じるアルバムであるのに、“Under Pressure”という言葉をタイトルに選んだことが興味深かったんです。


NAOKI:オレらの現状はいつだって窮地だと思ってる。だけどね、いざそれを表現しようとすると、こうなるんだよね。


TAISEI:窮地やプレッシャーを感じてるからこそ、「よっしゃ行こう!」って挑んでるんだよな。何に挑んでるのかといえば、年齢もそうだし、ツアー、一本一本のライブ……正直しんどいことだってある。だけど、そこにオーディエンスやファンの連中が待っているから、まだまだやれるんだよね。で、終わった後に晴々とした気持ちになる。だから、アンダープレッシャーであろうとも「気品持ってやろうぜ」っていうさ。「歳取ってるから、オッサンなりのロックです」とか、もしくは「長年パンクロックをやってきたレジェンドだから」だなんておごらず、あぐらかかず、ぬるま湯に浸からず、常に挑んでるからこそ、このワードになったんだよね。


ーーリード曲「赤い光の中で」で歌っている<夢は今まだ五分咲き>というところにも繋がっていきますね。


TAISEI:満開になったら終わっちゃうもんね。あとは散るだけだし。桜も五分咲きが綺麗だったりするよね。


SA / 赤い光の中へ
ーーこの曲は詞といいメロディといい、SAにありそうでなかったタイプの楽曲ですよね。


TAISEI:やってそうで、やってないんだよね。


ーーメロに対する言葉の置き方がすごく綺麗で。


TASIEI:……これが天才たる所以なのかな。


NAOKI:知らんがなっ!


(一同爆笑)


NAOKI:でもこの曲に限らず、男として50年生きてきたからこその等身大のね、しっかりとした息づかいのある言霊が全曲に並んでると思います。毎回そうなんだけど、あがってきた歌詞を読むと「そうだ、そうだ」って頷くことが多いし。「よくぞ、言ってくれた!」と思ったりね。「うーん、これは……」っていうのはないもん。


ーー「攻めでゆけ!」もTAISEIさんらしい言葉だなと感じました。普通であれば「攻めてゆけ」だと思うんですよ。


TAISEI:そういうこだわりはものすごくあって。「攻めてゆけ」ではなく、「攻めでゆけ」。そこが、僕なりの一矢報いた形だろうね。これには、長く生きていれば、守りに入ることを選択しがちだけど、攻めでいかなきゃダメなんだよ、と自分を鼓舞する意味合いもある。それは音楽に対してもそうだし。今作の漠然としたキーワード、「SAは攻めで行くんだよ!」っていうさ。さっきの「なめんなよ!」っていうことでもあるし、<やったらんかい!>(「MY ONLY LONELY WAR」)もそうだしね。


NAOKI:<よっしゃ行こう!>(「赤い光の中で」)も。


TAISEI:そういう口語的なものに魅力を感じるし、生きてる言葉だなぁと思う。音楽における詞は、“歌の詞”なわけじゃん。自分の詞が“歌の詞”としてどうなのかはわからないけど、僕はこういう言葉で歌うことしか満足できないし、こういうことが僕のアイデンティティなんだろうなぁ、と思うね。


ーーそうした攻めの強さを見せつつも、反面で<青くせぇままの>と歌っている「フォーエバーキッズ」も独特の言葉選びで。


TAISEI:これ、NAOKIちゃんの曲なんだけど、仮タイトルが「フォーエバーキッズ」だったのね。いつもは大体、タイトル変えちゃうんだけど。これ、なんかちょっと幼稚な言葉じゃない? ホントはもっとカッコイイ言葉にしたほうがいいんだろうけど、それが今はいいなぁと思ったのよ。そこから派生していって、これは旅だなと。 <旅に出ようぜ>っていう。そういう風に作っていったね。やっぱり、なかなかすごいタイトルだよね。


NAOKI:わははは(笑)。


TAISEI:でも、この歌詞が好きでね、噓偽りないし。この歳になって学生時代の仲間と会うと、「仕事が、子どもが……」という話の中で「いいよな、TAISEIはミュージシャンでさ」なんて言われたりもするんだけど、僕には僕なりのアンダープレッシャーがあるわけで。そういう会話の中で、ガキの頃のあのときみたいに、もう一回なんかやりたいよな、という気持ちが出てくるわけ。それを<旅に出よう>というワードにしたわけなんだけど……。同世代の連中も言わないだけで、絶対思ってるんだよね。だから、これ聴いて「やれるかもしれない」と思ってくれたらこんな嬉しいことはない。僕らは大好きなロックをずっとやってこられたけど、志し半ばで夢を諦めた連中もごまんといるわけで。そういうヤツらに伝わってくれたらいいな。


ーーSAのようなバンドがこういう歌を歌えることって、素敵だなと思います。


TAISEI:去年50歳になったということがね、ただの数字だけど、すごく区切りだった気がするね。


ーー50歳を迎えたことで、歌詞の書き方は変わりました?


TAISEI:んー、何が変わったというわけではないんだけど、より単純明快に書くようになったというか。だから、最近歌詞を書くのは早いね。


ーー「hi-lite BLUE」も、どこか少年心を持った大人のような曲ですよね。


NAOKI:歌詞が大人げない(笑)。


TAISEI:歌詞書いてるとき、1ワード「やったらんかい」みたいな言葉が出て来たとき「勝った!」と思うんだけど、これは<黙っとけボケ!>が来たときに「……勝ったな」と思ったんだよ。


NAOKI:サビのコーラスの掛け合いも大人げないんだけど、歌って楽しいんだよ。コーラス録りしてるときも、耳障りの良い英語を言ってるより、気持ちが入るんですよ。「負けねぇぜ!」って、すっごく楽しい。これ、ライブで客も楽しくなると思うよ。


■「気品を持って余裕を見せたいよね」(TAISEI)
ーーそんな“大人げなさ”とは対極にあるような、硬派なSAパンクの真骨頂「NEVER END」があったり。


TAISEI:「NEVER END」は、パンクロックで始まったSAだから、本物のパンクを作ろうと。何年もパンクを掲げてやってきたら、誰でもパンクロックっぽいものはできるのよ。だけど、僕らがドキドキしたあの時代の、あの音で、っていうさ。そこを意識したね。だから非常に乱暴なレコーディングだったよね。ギターがバッキングだけで4本入ってたり、ドラムがポコポコの音だったりとか。80年代のイギリスの、ヘタクソなんだけど味があるっていう、あの匂い。


ーー先ほど、「ライブからの流れ」「セッションっぽく」という話が出ましたが、そういったライブバンドらしい生々しいサウンドが感じられる楽曲ですよね。


TAISEI:これはレコーディングの技術的なところでね。今回、アナログに落とす作業をしたんだ。今はデジタルのレコーディングでね、リズムトラックを録って、ギターを重ねて、歌を録って、コーラスを入れて……、というやり方なんだけど。今回はリズムを録ったら、一回アナログテープに落として、そこからまたデジタルに戻して、ギターを録ったんだよね。それで、最後のトラックダウンの作業を終えたら、もう一度アナログに落としてから、マスタリングへ、という作業をね。だから音像的にはアナログのあたたかみ、昔レコード針を落として聴いていた音に近づけるような。実は、インディーの頃にもやったことがあったんだけど、そのときは、わからなかったんだよ。アナログに落とす意味が。


ーー若い頃にはわからなかったことだけど、あらためてサウンドを追求していく上で導いた答えがそこだったと。


TAISEI:「なんで、あの好きな音にならないのかなぁ」とは思ってたから。今回、ずっと一緒にやってきたエンジニアとの話で、「アナログに落としてみよう」というアイデアが出てね。最初はおっかなびっくりだった。自分が言い出したことなんだけど「本当に成功すっかな?」って。でも、結果としていい感じになったし、やっぱ、こういう音が好きなんだなと思ったし。「MY ONLY LONELY WAR」も入ってるけど、シングル盤と聴き比べると面白いよ。全然変わってる。


NAOKI:ボトムがシマるんよね、ぶっとい! 本来同じはずなのに、アナログ通しただけでこれだけ変わるからね。音がグッと前に出てくるというか、立体的になるんだよね。


ーー「MORE MORE MORE」は、「NEVER END」とはまた違うテイストのアグレッシブなパンクナンバーですよね。


NAOKI:これはギャリンギャリンの音で暴力的に演ったんだけど、そしたらベースがもっと暴力的になって来てさ、タイコも暴力的で、歌も暴力的で、アウトレイジみたいな(笑)。


TAISEI:こういうサウンドが、僕らが聴いてきたパンクロックのカッコよさだと思うし、あの頃をリアルタイムで聴いてた僕らだからこそできるパンクロックなんだとも思うね。後追いじゃなくて、体感してきた音だから。「ジャパニーズパンクって、こういう感じだよ」っていう、なんかカミソリっぽいっていうかさ。音自体がガーッとしてるんじゃなくて、持ってるもの自体がブン殴ってくるみたいな。


NAOKI:あのビート感って独自なもんだよね。だから、とくにSHOHEI(Dr)はつらかったと思うよ(笑)。


TAISEI:今回プリプロ、1日で録ったのよ、12曲。で、一番最後に録ったのがこの曲でさ。もうね、叩けないんだよ(笑)。ちょっとヨレてたり、走ったりとかさ。でもそういうスリリングさ、その感じがまた、僕らの好きだったパンクだったりするわけよ。そこはすごく意識した。


ーーライブ感のあるリアルなグルーヴですね。


TAISEI:「KEEP THE FLAG FLYING」も最初はアタマの部分なかったんだけど。NAOKIちゃんが作ってきて、いきなり合唱で<KEEP!THE FLAG!FLYING!>って、「これ、聴け!」って感じで始まる、みたいな。


NAOKI:アルバム一発目、いきなり声から出てくるって勢いつくよね。


TAISEI:で、フロア(タム)じゃん。ドドダダ、ドドダダ、って。パンクロックってフロアが命だと思ってるから。フロアビート。若いヤツには出せないね、この感じ。


NAOKI:洗練されたビートしか知らない世代には難しいやろねぇ。


ーー濃厚な12曲が詰まってるんだけど、それでいて流れがよくて聴きやすくて、絶妙なアルバムだと思いました。


NAOKI:曲間もいいでしょ? 今回、TAISEIが書いた曲とオレが書いた曲がイーブンな感じで、TAISEIの書く抒情的なメロディの部分と、オレの書くロックンロールのC調なバランスがすげーよくて、どっちも際立たせてる効果を持ってる気がしてるんですよ。そこに乱暴なアウトレイジが2曲入ってるでしょ(笑)? これも、いいバランスでね。散々泣かした後にアウトレイジが出て来る。


TASEI:めちゃくちゃだよな。情緒不安定(笑)。


NAOKI:曲のバリエーションが豊富にあるわけじゃないんだけど、いいピースが揃ってる。SAが本来やって来た曲ばっかりだし。


TASEI:このご時世、プレイリストだ、シャッフルだ、音楽の聴き方もいろいろあるだろうけど。“アルバム通しての世代”ならではのもの、というさ、そういうことは意識して行きたいよね。


ーージャケット写真もアーティスト写真もここまでキメられる日本のバンドはSA以外にいないだろうな、というくらいカッコいいです。


NAOKI:いいねぇ。カッコええねぇ、カッコええ4人組やね。


TAISEI:アー写はわざとちょっとブレてる写真を選んでね、ここもアナログ感というか。昔の洋楽のレコードを裏返したときの写真って、そんなにバシッとは写ってないんだよね。あの感じにしたくてね。


ーーThe WhoやThe Jamの往年のアルバムと並べたくなります。


TASEI:そこは意識したよね、The Rolling Stonesとかね。


ーーライブ映えしそうな楽曲ばかりですが、4月から始まるツアーはどんな感じになりそうですか?


TASEI:もう1回ギラギラで行きたいな、というのはあるね。でも、笑うとこは笑いたいし。強くて、あったかくて、優しいSAを見せられたらいいね。そして、気品を持って余裕を見せたいよね、ギラギラだけど余裕。(取材・文=冬将軍)