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『となかぞ』多くの人を救う正義のドラマに 最終回で提示した“幸せ”への答え

2018年03月23日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 待望の子供を授かったものの残念ながら流産してしまった五十嵐奈々(深田恭子)&大器(松山ケンイチ)夫婦。3月22日に放送された『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)最終回第10話は、大器を“パパにしてあげられなかった”悲しみに耐えきれず、奈々が伊豆の実家に戻ってしまった。


参考:写真と振り返る『隣の家族は青く見える』最終回


 コーポラティブハウスに住む他3家庭が幸せの道を歩み始めていた最中の出来事。離れ離れになってしまった五十嵐夫婦だったが、そんな2人を救ったのは、大器の母・聡子(高畑淳子)の温かい言葉だった。奈々のいる伊豆を訪ねてきた聡子は、大器の元に戻ってきてほしいと猛説得。しかし奈々は、戻ったところで大器に辛い思いをさせてしまうと悩みを打ち明ける。


 結婚だけじゃなく、他人と共存していくことは難しい。友達、恋人、夫婦、家族……人間同士の関係性にはさまざまな肩書きがあるが、相手を思いやれば思いやるほど自分が窮屈になっていく。愛しているがゆえに大器の元に戻れなかった奈々。そんな彼女に聡子は、優しくこう語りかけた。


「嬉しいことや楽しいことは誰とでも共有できるけど、辛いことや悲しいことは一番大事な相手としか共有できないんじゃないの」


 このシーンでは夫婦や結婚についての言葉だったが、未婚の人々にも刺さったであろう。そこに恋愛感情があろうがなかろうが、生きていれば大事にしたい存在に出会うことがある。しかし、好意を持っているからゆえ、思い切って相手の心に踏み込めずにいると、互いの遠慮が逆に距離を生んでしまい、フラストレーションが溜まってしまう。


 聡子の言葉を受け、心を入れ替えた奈々は「会いたくてたまらなくなった」と素直な気持ちとともに大器の胸に飛び込んでいった。赤ちゃんを授かることに重きをおきすぎて、盲点になっていた“出会えた奇跡”を改めて感じる2人。「大好き、大好き……!」と連呼する彼女は、本作を通して一番輝いており、肩の荷が下りたようにも見えた。


 最終回を迎えて、青木朔(北村匠海)と広瀬渉(眞島秀和)以外のカップルは、第1話で掲げていた考えをがらりと変えていった。五十嵐夫婦は子供のいない人生に向き合い、事実婚カップル・川村亮司(平山浩行)&杉崎ちひろ(高橋メアリージュン)は亮太(和田庵)を招き入れ、結婚。小宮山深雪(真飛聖)は、娘の思う人生を歩ませることに決め、さらには働きにも出た。


 理想と幸せは、別物だ。自分の夢が叶えることだけが幸福ではなく、固定観念に囚われず、寄り道しながらでも、相手と自分が納得のいく方法を探していくのが何よりも幸せを手にする上で重要になってくるのだろう。ちなみに、「隣の芝は青く見える」ということわざは、物理的にも検証されており、自分の家の芝生は真上から見ているから汚く感じてしまうそうだ。物の見方の角度さえ変えれば、自分の手元の幸せに気付くことができるかもしれない。


 不妊治療やゲイカップル、子供を望まぬ夫婦の形などドラマ化するには重すぎる問題と真摯に向き合ってきた本作。多様性が重要な現代において知っておくべき事柄を、クセの強いキャラクターと抜群のテンポでコミカルに描き、視聴者に丁寧に教えてくれた。


 2ケタ台には届かなかったものの、最終回の視聴率は最高の7.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。殺人が起きたり、電気が走るような恋に落ちたりといった劇的な展開はなかったが、多くの人々を救う正義のドラマが放送されたことが何よりもうれしい。(阿部桜子)