スーパーGT岡山公式テストで行われたスタート練習でのGT300マシンたち。今季からシグナルが点灯する。 3月17~18日の2日間、岡山国際サーキットで開催されたスーパーGT公式テスト。2日間の走行のなかで、GT300クラスでもおぼろげながら開幕に向けた“勢力図”が見えはじめた。GT300では大いに重要な性能調整=参加条件によって変動する部分もあるだろうが、岡山公式テストの時点での上位陣の状況をまとめてみた。少々長文になってしまったのはご容赦願いたい。
■各々の課題を抱えるGT3勢。外国車ならではの苦労も
「路面のせいなのか、クルマなのかタイヤなのか、去年のタイムも出ないし……」と苦い表情でテストを振り返ったのは、2017年にチャンピオンを獲得したGOODSMILE RACING & Team UKYOの谷口信輝だ。
グッドスマイル 初音ミク AMGはすでにもてぎ、鈴鹿とメーカーテストに参加し、この岡山公式テストに臨んだ。ただ、じつは2018年のカラーリングをまとってこそいるものの、走行したメルセデスAMG GT3は、17年に戦っていた個体。しかも鈴鹿でミッショントラブルも抱え、交換したデフがいまひとつ。初日午前も十分に周回することができなかった。
「JAF-GT勢が速いね。初日もデフがダメだったし、ウチとしてはあまりいいテストができていない。GT3勢のなかではBMW、アウディが速そうだけど」と谷口。チームは富士公式テストから18年車両を投入する予定だが、ここから好転することを願うところだ。
今季はGT3もGT4もメルセデスの納期が遅れているそうで、昨年タイトルを争った同じメルセデスのLEON CVSTOS AMGも、諸事情により2018年に投入する新車がこの岡山公式テストに間に合わなかった。「気温とテストに持ち込んだタイヤがあまりマッチしていませんでしたね。トップと比べるとタイムは厳しいですけど、方向性は確認できたと思います」と蒲生尚弥が言うとおり、17年モデルでやれるメニューをこなしていった。
一方、谷口の発言にもあったとおり、今回のテストで好タイムをマークしていたのが、Hitotsuyama Audi R8 LMSとGD TAISAN Audi R8という2台のアウディR8 LMS。そもそも岡山はアウディに合っているコースだというが、Hitotsuyama Audi R8 LMSはそれに加え、ダンロップタイヤも今回合っていた様子だ。
「もともとコーナーが速いクルマが好きなタイプなんです。GT-Rでも頑張ってきましたけど、アウディは“何も考えずにできる”クルマですね」と今季チームに加わった富田竜一郎。ただ、まだまだ課題も多いようで、これがハマってきたときは面白い存在になるだろう。
外国車のGT3勢では、4回のセッションを通じてARTA BMW M6 GT3も好タイムをマークしていたが、それほど“好調”というわけでもなさそう。また、D'station Porscheも4セッションともタイムは出ていたものの、アップデートされた2018年仕様のフロントにセッティングを合わせることに時間を費やしていたようで、開幕に向けてやることは多そうだった。
■日本車GT3勢はまだまだこれから!? GT-R勢は浮かぬ顔
日本車のGT3勢のうち、レクサスRC F GT3勢はK-tunes RC F GT3が中山雄一がVLNのためニュルブルクリンクに向かっていたこともあり、新田守男がテストを担当。また、SYNTIUM LMcorsa RC F GT3もいまひとつタイヤやセットがマッチしない状況となった。
「今回のテストは実りの少ない結果となってしまいました。今年はこれまでいろいろなシチュエーションでテストを行ってきましたが、そこで得たデータが上手く活きてこなかったのが原因かもしれません」と吉本大樹はコメントを残している。
レクサス勢で言うと、リザルトでは下位かもしれないが、大きな進歩と言えたのがarto RC F GT3。昨年まではマザーシャシーを使用し、かなりの頻度でクラッシュに見舞われていたが、GT3にスイッチした今回は2日間のテストで一度もコースアウトやクラッシュ等がなかった。タイ人ドライバーふたりにマシンが合っていた様子で、チームもテスト終了後、安堵の表情をみせていた。
一方、かなり浮かない表情だったのは、2018年モデルのニッサンGT-RニスモGT3を2台投入したGAINERだ。チームはもてぎ、岡山とメーカーテストに参加してきたが、岡山ではトラブルもあり、11号車GAINER TANAX GT-Rがクラッシュ。なんとか公式テストには2台が参加したが、カラーリングは1台のみとなった。
そして、決して異常に遅い……というわけではないのだが、タイムが出ない。今回は新車ということもあり、チーム関係者のコメントは聞くことができなかったのだが、どうやら性能調整がかなり厳しいようで、ストレートスピードは15年モデルのGT-Rの方が速かった……という噂も聞こえてくる。
実際に、直前に行われていたブランパンGTシリーズのポールリカールテストでも、4セッション中3セッションで、15年モデルのGT-Rの方が18年モデルよりも速い状況が生まれている(しかも15年モデルはジェントルマンドライバーも乗り込んでいる)。こちらは性能調整次第で、今後も苦しいシーズンとなってしまうかもしれない。
また今季がGT300デビューとなるホンダNSX GT3勢は、着実にメニューをこなしつつ、デビューに向けたプログラムを進めている。鈴鹿メーカーテスト前に性能調整が出たようで、10mm車高が上げられたため、そのためのセッティングも進められた。
「GT300はレベルも高いし、車種も豊富でそれぞれの特性もいっぱいある。まだ上位にいるとは思わないですけど、チームのレベルは上がっているので、開幕戦には合わせ込めるのではないかと。一発よりも、レースで勝負できるクルマを作りたいですね」とModulo DRAGO CORSEの道上龍は語っている。
■開幕戦の本命はJAF-GT勢か。ロータスも速さを取り戻す
そして、こちらも冒頭の谷口の言葉にもあるとおり、GT3勢が「絶対に開幕は来る」と予想するのがJAF-GT勢だ。平手晃平加入でスピードアップが望め、上位進出が予想される31号車TOYOTA PRIUS apr GT、さらに30号車もトラブルが減ったことでこちらも怖い存在。そしてライバルたちが警戒するのが2日目午後のトップタイムをマークしたSUBARU BRZ R&D SPORTだ。
「今回のテストでは良いところと悪いところのメリハリがすごくあり、悪い部分はとても厳しい状況なのでこれをどう改善していくかが今後の課題」と山内英輝はコメントを残しているが、スピードは向上している様子。ただ、鈴鹿でも岡山でもトラブルが起きているのが気になるところだろう。
今季は小林崇志が加入し、速さに磨きがかかると予想されるのがUPGARAGE 86 MC。鈴鹿ではテストには参加せず、ファン感謝デーで1時間の走行を行ったが、ここでマークされたタイムはライバルたちを大いに警戒させた。ただ、「鈴鹿では良かったんですが、岡山ではいまひとつ(小林)」と圧倒的なタイムをみせるには至らなかった。とはいえドライバー力とチーム力で、開幕までに上位に来ることも予想される。
同じくマザーシャシー勢では、シンティアム・アップル・ロータスが2日目午前にトップタイムを記録した。チームの渡邉信太郎エンジニアに聞くと、「今季はモノコックそのものを替えていますし、全部バラバラにしたので、ボディ以外はほぼ新車の状態です。エンジンもギヤボックスも新品にしました」という。
ロータスは昨年まで、相次ぐクラッシュによりモノコックを含めて各部に損傷を負っており、「つじつまが合わない状況」になってしまっていたという。ただ、実質新車になったことで、ドライバーからのインフォメーションやトラブルの解消、セッティング感度の向上など、大幅にパフォーマンスアップ。今回の岡山公式テストはトラブルフリーだったことで、タイヤの開発も進んだようだ。
開幕戦岡山でも要注目の存在だが、渡邉エンジニアは「オーナー次第(苦笑)」と、Aドライバーでオーナーでもあり、年齢を感じさせぬ挑戦を続ける高橋一穂に“プレッシャー”をかけていた。
■大本命は“過去最高の状態”のHoppy 86 MCか!?
そして、多くのチームから2018年の“大本命”と目されるのが、Hoppy 86 MCを走らせるつちやエンジニアリングだ。チームはもてぎから今季のテストをスタートさせたが、2017年最終戦から「マシンは何もいじっていない状態」だという。そしてもてぎでは、チーム代表にして監督、エンジニアも務める土屋武士がひさびさにマシンに乗り込んだが、「今までこんなレーシングカーには乗ったことがない」というほど、乗りやすいものに仕上がっているという。
これはマシンに初めて乗り込んだ坪井翔も、そして今季もドライブする松井孝允も口を揃えており、もてぎでも岡山でも、新たなパーツを実験的に投入するも、「元に戻して下さい」とドライバーたちが言うほど86 MCが煮詰まっているのだとか。岡山公式テストでも、タイムがその速さを証明している。
また、岡山公式テストは土屋がドライバーとしてニュルブルクリンクに向かう予定があったため、当初は「チームに任せるつもりだった」という。テストプログラムも完全に組まれており、まさに“非の打ち所がない”状況だろう。岡山ではトラブルもあったが、それ以外の状況を見ると、開幕戦の本命は間違いなくHoppy 86 MCだろう。
ただしこれで開幕戦はHoppy 86 MCが優勝か……!? というと、それを断言するのはまだ早そうだ。18日の走行2日目午後、スタート練習が行われたが、GT300の“ポールポジション”からスタートしたHoppy 86 MCのステアリングを握っていたのは坪井。土屋監督からの指示は、「これも練習だからな。絶対に抜かれてくるな」だった。
「なのに、すぐに7番手くらいまで落ちてしまって。(昨年乗っていた)RC Fだったらそんなことはなかったんですが、ストレートが速いということは偉大だな……と(苦笑)」
「マザーシャシーはひとりで走っていてる分には最高に楽しいし、速い。でも、できればレースはしたくないと思いましたね。昨年チームの皆さんが体験したことを身をもって知りました。RC F GT3に乗っていた立場からすると、MCは多少ストレートは遅かったですが、見た目そこまでじゃなかった。それでコーナーが速いから勝ち目ない……と思っていたんです」
「でも、今日実際にレース形式で走ってみたら、ストレートが遅い! アウディにもポルシェにもバンバン抜かれて、『こんなに抜かれるんだ!』って(苦笑)。予選で前に出ても、レースで一度抜かれたら抜き返せないし……。MCの難しいところを痛感しましたね。岡山でこれなら、富士ならどうなってしまうのかと……」
「MCはたしかに速いですが、GT300はそれぞれのマシンにいい点、悪い点があるので、それをどう活かせるかだと、よく理解しました」
2017年はGT3をドライブし、今季Hoppy 86 MCに乗り換えた坪井のこの言葉が、GT300の難しさを表現しているだろう。圧倒的に速いかもしれないHoppy 86 MCとて、レースではどうなるか分からない。集団に飲まれてしまったら、それを挽回するのは至難の業だ。結局今年も、決勝レースのなかで与えられた道具をフルに活かすことができるドライバー力、チーム力が秀でたチームが、シリーズをリードしていくことになるのだろう。