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広瀬すず、鑑別所で清水尋也との関係に終止符ーー『anone』最終話で描かれた後日談

2018年03月22日 14:32  リアルサウンド

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 通貨偽造の罪を1人で被り、林田亜乃音(田中裕子)は警察に捕まる。青羽るい子(小林聡美)は余命わずかの持本舵(阿部サダヲ)と逃亡生活を送っていた。1人残された辻沢ハリカ(広瀬すず)は重要参考人として鑑別所に入る。そこに紙野彦星(清水尋也)から手紙が届く。彦星はハリカが自分のために嘘をついたことをわかっていた。一方、中世古理市(瑛太)は偽札を使いながら逃亡生活を送っていた。


参考:広瀬すず、顔をぐちゃぐちゃにして泣き出す 『anone』で見せた渾身の芝居


 最終話では、ハリカたちの後日談が語られた。今まで入院生活をしていた彦星はハリカから外の世界の話を生きる糧としていたが、今度は鑑別所に入ったハリカのために彦星が手紙を書くことになる。2人の関係は反転し、再び交流がスタートする。しかし、彦星は治療が進むほどハリカが「遠ざかっている気がする」と言う。


 退院した彦星がハリカの面会に訪れる。仲良く話す2人だが、ハリカは鑑別所を出ても彦星とはもう会わないと言う。2人の関係は、生きるか死ぬかの極限状態だからこそ成立した濃密なものだった。だから、極限状態から開放されれば、いずれ終わることとなる。これは坂元裕二が描いてきた恋愛観であると同時に、ハリカと彦星の関係がテレビドラマと視聴者の関係を反映したものだからだろう。病気が治った彦星にとって、ハリカが届けてくれた外の世界の話は必要ではなくなったのだ。これは寂しいことだが、とても幸せなことだ。


 一方、ハリカと逆に青羽は持本の死を看取ることとなる。死んだ持本はアオバ(青羽るい子の生まれてこなかった子供)のように幽霊となって、最後に登場する。ハリカと彦星、青羽と持本の関係は正反対で、生き残ることで失うものと、死ぬことで獲得するものが描かれた。


 中世古は偽札を使いながら逃亡していた。ハリカは偽札が通用する両替機の場所を中世古に教えることで、自首させようとする。自首する前に青島陽人(守永伊吹)と会いたいという中世古は陽人の罪の意識を取り去るために、ライターで火をつけたのは自分だと嘘を付く。


 興味深いのはここに出てくる赤いライターと青いライターの話である。赤と青というと真っ先に思い浮かぶのがハリカの服装だろう。赤い服を着ていた幼少期に辛い体験をしたハリカは、青い服を着ているときに亜乃音たちと知り合い、血のつながらない家族という嘘の関係によって救われた。


 赤が火事に代表される救いのない現実だとすれば、青は嘘や虚構、つまりフィクションの世界のことだ。これは映画『マトリックス』に出てくる、本当の現実がわかる赤いカプセルと、仮想現実の中で生きられる青いカプセルが主人公のネオに差し出される場面を連想させる。テレビの街頭インタビューで持本は「好きな人を色に例えると?」という質問に「青羽さんの青」だと答える。青(偽物)がもたらす救いを描いてきた本作らしい終わり方だったと言えるだろう。


 脚本を担当した坂元裕二は自身のInstagramで、本作で連続ドラマを書くのはお休みにすると語っている。これは4年前から決めていたことだそうだ。残念だが、『anone』を見終わった後だと仕方がないことだと感じる。嘘や偽札をテーマにした結果、本作は坂元裕二のフィクション論とでも言うような自己言及的な作品となっていたが、同時にどこか視聴者を拒絶しているかのような息苦しさがあった。休止するからこそ突き進んでしまった面もあっただろうが、こういう作品を書いた後、ドラマを書き続けるのは相当、苦しいのではないかと思う。


 優れた脚本家だから、舞台や映画でも充分面白い作品は書けるだろう。しかし、坂元裕二が実力を最大限に発揮されるのは連続ドラマを置いて他にはないと思う。気長に次回作を待ちたい。(成馬零一)