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向井理演じる星名に幸あれ! 『きみが心に棲みついた』最終回に込めれられたテーマとは?

2018年03月21日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『きみが心に棲みついた』(TBS系)が、ついに最終回を迎えた。キョドコ(吉岡里帆)は、共依存関係の星名(向井理)と闇に堕ちていくのか。一番の味方であろうとしてくれた吉崎(桐谷健太)と明るい未来を歩むのか……と注目された結末は、キョドコと吉崎の結婚式に星名と思われる匿名の花束が届き、星名は街の中に消えていくというやりきれないエンディングとなった。


参考:向井理演じる“完璧男”の弱さに視聴者釘付け 『きみが心に棲みついた』星名役で見えた意外な一面


 数話に渡って星名の過去が描かれてきただけに、視聴者の同情は星名に集まっていたところだった。しかし、キョドコからは「星名さんのために生きられないし、死ぬこともできません」と関係を断ち切られ、吉崎からは「彼女の人生から消えてください」と存在を否定され……1年後、あっさりキョドコと吉崎は結婚。なんだか星名だけが救われなかった印象だ。あまりに星名が心に棲みついてしまったので、こんな解釈をしてみることにした。


 キョドコにとって母親に「傷ついてきたんだ」と意思表示ができたことが大きな一歩だったように、星名も親と対峙する必要があったのではないか。愛されたいと願った母親はもちろんのこと、本当に超えるべきは人格を否定してきた父親の存在だったのかもしれない。父親を殺めてしまった星名は、そのチャンスを永遠に失ってしまった。自分のしたことを悪魔という架空の存在に押し付けた星名。それは第7話で星名が自ら放った「弱いやつはそうやってすぐ人のせいにする」ということばがそのまま当てはまる。


 自我を確立させるために反抗期は欠かせない。だが、父親からの暴力に怯えて育った星名は、本心を伝えることができずに成長した。母親が罪をかぶったことで、弱みを握って人を操る術だけを覚えた。同じような哀しみを持つキョドコの心は手に取るように操作できたはずだ。「無理しなくていい、頑張ったな、わかるよ」自分が言ってもらいたかった言葉を並べればいい。自分を理解してくれる存在になることそのものが、失いたくないという弱みになることもわかっていた。そして、キョドコもまた無意識に「あなたのために生きます」と自分が欲しい言葉を返し、共依存が成立していた。そんな誰も見破ることのなかった星名の中の闇を、面と向かって指摘した男性は吉崎が初めて。声を荒げて「うぜぇーなーっ!」と言い返したのは、父親と果たせなかった対峙と重なり、初めての反抗だった。「うぜーんですよ、俺。でも、誰でも大切な人にはうざくなるもんでしょ」そう怯まずに諭す吉崎に「お幸せに」と、捨て台詞を吐く星名は、反抗期の少年のようにも見えた。


「あの子は人を好きになったり、誰かに恋をしたことがあるのかしらね……あってほしい……」。この星名の母親の言葉で、キョドコは星名と自分の間にあったのは、恋ではなかったことを悟る。もちろん、それは吉崎との恋を知ったからこそできた判断だ。そして、母親の死をきっかけに自殺に踏み切った星名を見て、彼の中にいるのは母親を求める小さな男の子だと気付く。「クソみたいな世界に飽きた」という星名は、きっとイヤイヤ期ほどに心が後退していたのだろう。自ら命を断つことで、母親のお腹の中に戻ろうとしているかのようだ。キョドコは、そんな星名を抱き寄せ「私は、星名さんのお母さんじゃありません」とハッキリ伝えることで、星名が実の母親とできなかった精神的離乳をしたのだ。


 成長の通過儀礼は、いつだって切ない。ときには心が押しつぶされそうな思いで、親と子の領域を線引きする。「ただ、助けにきたんです」というキョドコに対して、少し微笑んで「うぜぇなぁ」と呟いた星名の言葉は、吉崎の「誰でも大切な人にはうざくなるもんでしょ」と連動して聞こえる。星名はキョドコを大切に思いながらも、個と個であるという認識ができたのではないだろうか。キョドコに母親像を、吉崎に父親像を投影させた星名にとって、ふたりの結婚式が親離れのイニシエーションとなり、いつか彼が誰かに恋する日がきてほしいと願うばかりだ。


 このドラマが描きたかったテーマは、劇中で披露されたスズキ次郎(ムロツヨシ)のスピーチに収束していたように思う。“普通”から外れた“変だ”と言われる人の普通の人生。わかろうとする、わからなくても味方でいてくれる。それが“無理!”、“ない!”というひとことで切り捨てられてきた人間にとって、どれだけの救いになるか……というものだった。街に紛れ込んだ星名のように、表面的にはなかなか理解されにくい“こっち側“の人間は思っている以上にたくさんいるのかもしれない。そんな想像力の種を蒔いてくれた意欲作だったのではないだろうか。(佐藤結衣)