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【特別インタビュー】トロロッソ技術責任者ジェームス・キー(3)ホンダとの記憶とアプローチ、シーズン開幕に向けて

2018年03月21日 06:51  AUTOSPORT web

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イタリア、トロロッソのファクトリー内にある食堂
ホンダにとって新しいパートナーチームとなるトロロッソ。その技術部門のトップでテクニカル・ディレクターを務めるのがジェームス・キーだ。現場レベルでのホンダとの開発作業はどのように進んでいるのか。最終回はジェームス・キーとホンダのプライベートな関係、そしていよいよ始まる2018年シーズンの展望について聞いた。

──あなたはF1キャリアをスタートさせたころ、ホンダと仕事をしていましたね。16年前にあなたが見てきたホンダと、今の『新しいホンダ』や新しい人員たちに共通するものは何ですか?

「初めてホンダを訪問したときに、何人かの知った顔を見ることができたのは本当に良かった。あれは初回のミーティングのときだったと思う。すべてが決まった数日後に行われた、実質的な初めてのミーティングに参加するためにミルトンキーズンを初訪問したとき、すぐに見知った顔が現れて『また会ったね』と声をかけてきた。久しく会っていなかった元同僚たちと再開できたことは、本当に良かった。つまり随分前に共に仕事をしてきた人たちが、個人レベルで今も継続的に取り組んでいるということだ」

「技術面やレギュレーション以外でのアプローチはとても似通っていると思う。今でも熱心で野心あふれるエンジニアが多くいて、彼らは上手くやりたいと願っている。とても思いやりがあって一緒に仕事がしやすく、同時に自分たちの立場や、彼らの抱える問題点や、次に何をすればいいのかということについてもオープンな姿勢でいてくれる。私にとっても慣れ親しんだ職場環境であり、何年も前に楽しく仕事にあたっていた環境だ。ホンダの同僚たちと仕事しているときは常に分かりやすい状況にあったが、それはいまでも同じだ」

──F1でのホンダに関する、最も良い想い出はなんですか?

「ランチの間に、(ナイジェル)マンセルや(アイルトン)セナ、(アラン)プロストなどが現役だったF1の黄金期について話していた。最初はウイリアムズ、その後はマクラーレンと手を組んでいたため、ホンダはその時代に大きな役割を占めていた。この時のことを非常によく覚えているが、マンセルが『ウイリアムズ時代のホンダは、あるシーズンを攻めの姿勢で過ごしていて、エンジン全体を数週間で再設計してコースに持ち込んだ』などと話していたことが、どこまで本当なのかは知らない。その話については日本人にだけができることだと、いつも感心している」

「自分が仕事をしている時代よりも前のF1に関しては詳しくないけれど、フェラーリやロータスといったヨーロッパの有名どころがいて、ホンダもそこに名を連ねていた。彼らがどれだけ遠くから参戦しているかを考えたら、非常に感銘を受けたよ。本田(総一郎)さんは『F1をやるぞ』と言ってF1マシンを作り上げてしまった。それは素晴らしいことだと思ったし、ホンダはF1黎明期からの歴史の一部分でもある。そのことが常に、私の心に響いているのだ」

──プライベートでホンダ車を所有したことがありますか? もしあるならば、そのクルマはどんな車種でしたか?

「ある。妻と3人の幼い子供がいたから、6人乗りのホンダのFR-V(日本名はエディックス。6人乗りのミニバン)を持っていた。基本的には人を運ぶための車だったけれど、今までに所有してきたクルマのなかでもっとも多用途なクルマだったね。3人の子供のうち、ふたりはまだベビーカーが必要だったので、とても良いクルマだったよ。クルマとの関係という意味では、スポーティというよりもファミリーカーだった」


──ホンダの市販車かバイクのなかで、気に入っているモデルはありますか?

「いつだってNSXがお気に入りなんだ。初代NSXは、とても手に入れたいと思わせるクルマだった。スーパーカーがほんの少ししかなかった時代に、クルマに興味を持っていた若者たちにとって、NSXは憧れの1台だった。最新のシビックタイプRもかなり好きだよ。道で見かけたときには、なかなか素敵だった。コンパクトでスポーティなクルマというのがいいね」

──今シーズン、チーム内でもっともエキサイティングな展望というのはどんなことですか?

「1年を通してホンダと共通のアプローチや目標を分かち合えること。21戦という厳しいカレンダーで、多くの挑戦がある。しかし私たちはどちらも強く成功を求めているし、シーズンに向けては段階を踏みながら、分かりやすいアプローチをしていく必要がある。どんな一歩を踏み出すときでも、それが正しいことを確認しつつ、急ぎすぎないようにしていくことを期待している。このようなレベルで協力していくということは、これまでのエンジンパートナーとはできなかったことだ。ホンダは私たちにとって初めての、真のエンジンパートナーだ。このプロセスを進めていくことと、前進を遂げていくことを楽しみにしている」

──2018年、トロロッソ・ホンダにとって、もっとも大きな挑戦はどのようなことになると思いますか?

「ホンダに成り代わって話すことはできないが、私たちサイドとしてはまだやるべき仕事は多くあるので、これからシーズンを築き上げていく必要があるね。最終戦よりも開幕時のほうが好調だというのがSTRの傾向ではあるが、それには開発のタイミングやリソースが関係している。こういったことに対しては分かりやすいアプローチを取ることが必要なんだ。最初の目標は根本的な部分を外さないことであり、私たちは現在、基礎部分を間違わないよう集中しているところだ。そこに、昨年のマシンよりも開発の余地がより多くあるものを積み上げていく。シーズンに向けてバランスの良いアプローチをすることが、私達にとってのより良いアプローチとなる。確実にそうなるようにしていくことこそが挑戦だ」

──メルボルンのレースがスタートする前は、どんな気持ちでいるでしょう?

「いつものメルボルンと同じだ。シーズン開幕前の大きな期待、初戦で何が起きるかという興味。メルボルンで予選を走り終えるまでは、誰にも何も分からない。そして実質的にはレースが始まるまでは、それほど多くは分からない。そこで、誰がどこの位置にいるかが本当に分かるんだ。極めて大きな期待があるとは思うが、マシンの準備を整えるということへのプライドもある。ホンダとの初めてのシーズンに立ち向かっていこう」

──シーズン終了後、どのような結果が出ていれば満足ですか?

「目標は設定しないことにしている。なぜならまだ多くの問題が未解決のままだからだ。それでも、2017年は勢力図に興味深い動きがあった。もともとは2チームが勝利を争っていたところに、3番目のチームも勝てるようになった。そしてそれを、多くの他のチームが追う形だ。ポイントは分散したが、競争力という意味ではそれぞれが非常に近かったのだ。そこから考えると、シーズンを4位から8位の間で終わらせたグループは、少なくともそのなかでのトップに立ちたがるだろうし、トップ3に食い込むことを望むだろう。私たちと対峙するチームの多くが、明らかにそこを目標としている。2018年にもそうした動きが見られるだろうから、どうなっていくかは非常に興味深い。2017年には(チームが)ふたつのグループに分かれていたようなものだからね」

「私たちの目標は、そのグループのなかでできる限りの競争力を発揮することであり、トップ3にできる限り近づくことだ。しかしそれは、このグループの誰もが持つ野望なのだから、どのチームがどこでシーズンをスタートするか、そしてどこでシーズンを終えるかが興味深いところだ」

おわり