どうやら、レクサスLC500も今季からプレチャンバー(エンジンの副燃焼室/点火プラグとインジェクターの先、シリンダーとの間にある通路のような空間を設け、急速燃焼によって熱効率、燃費と出力を向上させる技術で数年前からF1で先行投入されている)を投入したようだ。
その速度アップと勢力模様をたしかめるため、3月17、18日のスーパーGT公式テストが行われた岡山国際サーキットで、コーナリング速度をオートスポーツ本誌スタッフが計測した。
プレチャンバーはホンダNSX-GTは昨年から投入しており、ニッサンGT-Rも別の手法で同様の効果を得ているとみられる。それぞれが飛び道具を使ってレベル違いのパワーアップを果たしながら拮抗しているのが、スーパーGT500クラス最新状況の恐ろしいところだ。
例年、開幕直前の合同テストでは“三味線”疑惑が取り沙汰されたり、GT300と混走するためクリアラップがとれずタイムだけ見ていても実力差が明確にならないこともあるので、最終コーナー手前で速度計測をしてみた。
ダブルヘアピンから立ち上がり、4速までシフトアップ、予選アタックでは一瞬スロットルを戻すだけで全開のまま抜けるマイクナイトコーナーの先、最終コーナー手前で計測すれば、加速性能と空力性能両方の実力を計る判断材料になると考えてのことだ。それに、もしも三味線を弾いてエンジン出力を絞っていたとしても、ここならその影響は少ない。
テスト開始からすぐに180km/hを超えたのが1号車(KeePer TOM'S LC500)と17号車(KEIHIN NSX-GT)。ともに184km/hを記録した。1日目の最後、クラス占有時間には多くの車両がニュータイヤを投入してアタックした。ここで測定速度1位は6号車(WAKO'S 4CR LC500)で190km/h、2位は17号車の189km/hとラップタイムを反映する結果となった。
最初に180km/hを突破した1号車は占有時間にニュータイヤを投入していなかったようで、1日を通して180km/h台を記録する回数が多かったものの180km/h後半の記録はなく、実力をライバルに見せずにテストを淡々と進めている様子が最高速の推移からも感じられた。
ニッサンGT-Rでは23号車(MOTUL AUTECH GT-R)が184km/hと、計測できた範囲ではトップと5~6km/h差がつく形となった。観ていると、最終コーナーでGT-Rは全般にブレーキをコーナーの中まで引きずっている時間が長く、ややアンダー傾向が強いように感じた。といっても大きく挙動が乱れるわけではなく、路面温度などの条件でタイヤが路面に合えば状況は好転するかもしれない。現に2日目午後のトップタイムは12号車(カルソニック IMPUL GT-R)。ブリヂストンタイヤと18年仕様空力の合わせ込みに手ごたえを得ているようだった。
それに計測速度でLC500とNSXが並びGT-Rが遅れている状況は、予選想定のタイムアタックをした時のみだ。これが決勝想定のロングランとなると差はほぼなくなる。多くの車両が175km/h前後の速度を記録していた。
テスト2日目午後のラップタイム推移を見ても1分21秒台での周回が多く車種間の差は感じられない。もしもこの速度やラップタイム通り、決勝ペースに差がないのだとすると、ドライバーやチームは予選において想像を超えた重圧にさらされることになるだろう。
決勝ペースが僅差であれば、岡山の狭いコース上でのオーバーテイクは不可能に近い。優勝するためには予選で前にいくしかない。どこまでタイヤ選択でリスクを負いソフトを選ぶか、どこまでエンジンライフにリスクを負いブースト圧を上げるか、相手の出方を読みながらのせめぎあいとなる。
当然セットアップにもドライビングにもミスは許されない。オーバーテイクはピットインの前後に絞られるので戦略にも隙を見せることはできない。昨年の開幕戦はLC500同士、陣営内でそうした厳しいとなったが、さらにスピードが増した上で3車種の差もなくなり、二次曲線を描くように緊張度は高まっている。その渦中に突然飛び込んだジェンソン・バトンの戸惑いと驚きも当然だ。
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