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『海月姫』原作を再現する“以上”の質でフィナーレを飾る 芳根京子の次なる演技にも期待

2018年03月20日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 天水館から出ていくことになった“尼~ず”の5人。そのままバラバラになるのかと思いきや、結局ネットカフェで5人一緒に生活をしていた彼女たち。そんな中「ジェリーフィッシュ」を解散することを宣言した鯉淵蔵之介(瀬戸康史)に対し、倉下月海(芳根京子)は最後に“尼~ず”のみんなが着たい服を作ってファッションショーをすることを思いつくのだ。


 3月19日に放送された月9ドラマ『海月姫』(フジテレビ系)は、これまでハイテンションで駆け抜けてきたこのドラマの大団円に相応しい、見事なフィナーレを飾ったといってもいいだろう。“尼~ず”全員がランウェイを歩く鮮やかなファッションショー、“ノムさん”(安達祐実)や“ニーシャ”(江口のりこ)など強烈ゲストキャラの再登場、そして月海と鯉淵兄弟の三角関係に稲荷翔子(泉里香)も加わり、蔵之介と母親との物語もすくい上げていく。


参考:【画像】『海月姫』最終話の海月と蔵之介、“尼~ず”の面々


 若干詰め込みすぎのような雰囲気も感じさせないのは、これまですべてのエピソードが圧倒的な密度で進んでいたからに他ならない。すっかりテレビドラマは10話完結が主流になってきているが、おそらく12話になっていてもかなりの密度だったに違いない。それだけの量のエピソードや笑いの要素が、ぎゅっと濃縮された印象を受ける。


 その濃度を高めてきた個性の強いキャラクターたちがテンポの良い掛け合いを炸裂させてきた本作。最終話でも稲荷は予想外の可愛らしさを発揮し(しかも最後の最後でまさかのオチを飾るという)、花森よしお(要潤)は安定のボケを連発。2人が徹底的にかき回していく中で、期待通りにさりげなく登場した目白先生(滝藤賢一)もコメディーリリーフとして大健闘をみせた。


 さて、このドラマが始まると発表されたときから注目していたことは、ここ最近他のドラマ枠に押され気味となっていたフジテレビ連ドラの看板枠“月9”が復権を遂げるのか否か。そして主人公・月海を演じる芳根京子が初めて挑むコメディー演技でさらにパワーアップするかどうかという点だった。


 前者は判断が非常に難しいところではあるが、大成功とまでは呼べないのが正直なところだ。ここ最近は録画やタイムシフト視聴が主流になっているだけに、視聴率が直接的に結びつかないとはいえ、先週の第9話までで平均6%強というのは少々寂しい数字だ。それでも、作品の評価自体は決して悪いものではなかったことは忘れてはいけない。それを支えたのは、“全員コメディーリリーフ”という破綻しかねないスタイルをうまく捌き、原作を単に再現する“以上”の作品を目指したからだろう。


 そんな中で、やはり主人公を演じた芳根京子がコメディー演技を見事に開眼させたことはあまりにも大きい。連続ドラマ主演作としては『表参道高校合唱部!』(TBS系)と『べっぴんさん』(NHK)に続いて3作目となった彼女は、これまで役柄の“天真爛漫”さを体現するために使われてきたダイナミックな動きを、このドラマでは“スラップスティック性”、いわゆる“ドタバタ劇”に還元させることができた。


 画面に映っているだけで飽きさせない表情の変化や不可思議な動き。クラゲオタクという奇特なキャラクターを、設定負けにならないだけの演技で、周りのキャラクターに食われない存在感。これはある意味では“迫力”と言ってもいいレベルかもしれない。


 まもなく公開される海外アニメ映画『ボス・ベイビー』で吹き替えに挑戦し、3月18日から放送開始した『連続ドラマW イノセント・デイズ』(WOWOWプライム)でのシリアスな役柄など、その演技の幅がますます拡がっていく芳根。つい先日、篠原涼子と母娘を演じる映画『今日も嫌がらせ弁当』の制作が発表されたばかりだ。同作では喜劇タッチの作風も期待できるだけに、その演技に注目したい。いずれにしても、彼女のコメディー演技の原点となった『海月姫』は、芳根京子という女優のキャリアに欠かせない作品となったことは間違いない。


(久保田和馬)