ホンダにとって新しいパートナーチームとなるトロロッソ。その技術部門のトップでテクニカル・ディレクターを務めるのがジェームス・キーだ。現場レベルでのホンダとの開発作業はどのように進んでいるのか。第2回目はトロロッソとホンダのフィロソフィー、そして新車STR13の開発について聞いた。
──ホンダは自動車メーカーであり、レースは彼らのビジネスのプロモーション活動でもあり、技術向上の手段でもあるわけですが、彼らのモータースポーツ精神をどのように感じますか?
「私たちと仕事に当たっている人たちの中に、レーシングスピリットを感じている。何が心を打つかというと、ホンダのスタッフには自社と、その歴史やブランドに対する忠誠心とプライドがあるということだ。予想はしていたことだがね。そして彼らと話をすると、その部分が光り輝いて見えるのだと思う。彼らは私たちと成功したいと願っているし、プロジェクト全体の成功を願っている。彼ら全員がレーサーであるということに疑いの余地はない」
「このプロジェクトに関わるホンダのスタッフは若いが、トロロッソもまた若いチームだ。コンストラクターとして、それほど長く活動してきたわけではないし、前進しつつ自分たちの手順を学んでいる最中だ。ホンダはF1では長い歴史があるが、私たちはそうした体験を分かち合っている。そして、両者の間には、ともにレースで成功したいという非常に明確な望みがある。私たちが定期的に連絡を取り合うスタッフたちは、レーシングスピリットを持って懸命に仕事にあたっている」
──あなたは日本のHRD Sakuraの施設を訪問し、スタッフにも会い、これまでの数カ月間、ホンダと密に仕事を行なってきたわけですが、トロロッソとホンダの間で共通する考えや哲学はどんなものだと感じていますか?
「そのなかで最も重要なのは、私たちが共通の野望と目標を持っているということだ。2017年シーズン序盤からは効率良く復調してきたとはいえ、ホンダはここのところ問題を抱えていた。ただ、回復を遂げていることは私たちにとって非常に励みになる。私たちの2017年開幕時は、シーズン終了時よりも好調だった。なぜ望むような終わり方ができなかったのかという点で、私たちも多くの問題を抱えていた。結果として、私たちはどちらも2018年をより実りあるシーズンにしたいという強い願いがあるし、そこから2019年に向けてのプランを築き上げていきたい。共通のゴールや野望といったものは、私たちの間に強く根付いていると思う」
「また、働き方についても、ホンダが持つオープンな姿勢や取り組みは、私たちの持つもの同じだと思っている。私たちにとって、何かにアプローチをする際のやり方をシェアすることは難しいことではない。長期的な将来を見据えるうえで出てくる特定の課題や、短期的な進化につながることについて、正しい決定を下すという部分でも同じことが言える。その部分ではリンクするところが数多くあると考えている。私たちはどちらもまだ新しい組織で懸命に仕事にあたっている。ともに成功を追い求めているし、考え方やアプローチは非常によく似通っている。同じ課題を持っているのだから、パートナーシップはとても上手くいっている」
──2018年はパワーユニット規則が変わってから5年目、シャシーの規則が変わってから2年目の年です。STR13の設計を始めたとき、どの領域でより多くの進化が必要だと感じましたか?
「実際、いくつかの領域で改善が必要だったと思う。昨シーズンのマシンには何点かの強みがあったが、それと同時に弱点もあった。STR13に関して私たちが取り組もうとしていることは、レギュレーションの1年目から学んだことだ。STR12で得た強みはそのままに弱点に対処する。しかしライバルたちにも注意深く目を向け、彼らの(序列での)位置や、私たちがどうなっているかを理解したい」
「シャシーに関して言えば、サスペンションの設計ではかなりの部分でやり方を見直さなければならなかったが、それには対処した。現在のレギュレーションで上手く機能してきた部分については、もちろんそのまま維持していくが、すでに2019年に関しては大きな変更を見据えている。ホンダのパワーユニットを搭載することの、いい面を活かしたい。STR13はそれまでのアドバンテージを生かす設計を上手く施すことできた。それは当然ながら、ホンダのパワーユニットだからこそ成し得たことだ」
「昨シーズンの私たちにとって、シャシーのもっとも緊急の課題は空力だった。なぜならここしばらくは見たこともなかったような、大きな空力の規定変更があったからだ。ボディワークのレギュレーションが変わったからというだけでなく、タイヤのサイズも大きくなった。F1マシンのようなオープンホイールのマシンでは、空力面でタイヤが大きな役割を占める。昨シーズンは何が上手くいき、何が良くなかったのかを理解しなければならない。昨年の私たちはたしかに問題を抱えていて、それが速いマシン開発をするという望みの妨げとなっていた。正直に言うと、ライバルたちが私たちを上回る仕事をしていた場面も目にした。2018年のマシンでは、そのことを念頭に置いてやっていきたい」
「2018年のマシンにはいくつかの大きな変更を施したが、空力面でも同様のものを進行中だ。これはまだ完了していないもので、シーズンを通して継続していきたい。シャシーでは段階を踏んだアプローチを望んでいる。開幕戦のメルボルンに最終形態のマシンを持ち込むことはできない。そこでは、序列のできるだけ上位という、必要な位置へと私たちを導くマシンにつながるものを持ち込むことになると思う。前にも言ったようにアプローチは段階を踏んでいくが、すべて正しい状態になっていることを保証するために、今は開発時間の大部分を空力面に割いている」
──お話にあったように空力はかなり重要な要素です。それ以外で、今年の開発のなかで重要になるふたつの領域はどこですか?
「先程も言ったように、パワーユニットを搭載する作業は非常にうまく進んでいるし、短い時間のなかでホンダとともに最適化の作業をとてもうまく行なってきた。ある領域では新しいアプローチを考えついたことが助けになっているので、マシンのパッケージは間違いなく、そうした作業の恩恵を受けている。たとえばギヤボックスなど、新しい構造のなかでやってきたことは、間違いなく2017年のマシンに対する仕事よりも優れている。3つ目には、空力のコンセプト変更があげられるだろう。まだ進行中の作業ではあるが、正しい方向へと進んでいるようなので、今後の数カ月で恩恵を受けられると期待している」
──ホンダであなたと同様のポジションに就いているのは田辺(豊治)テクニカルディレクターです。彼とどのように仕事を進めていくことを期待していますか?
「これまでのところ、私たちは楽しく会話をできているよ。私たちが話し合ってきたことのなかのひとつが、このプロジェクトをもっとも効率良く回していくためには、どのように手を取り合っていけばいいのかということだった。そして、透明性のあるアプローチが最適だろうということで同意した。そうしていけば、健全な関係が築けると思う」
第3回につづく