2018年からのF1活動に向けて運営体制を変更したホンダが、その意図と現在の状況について説明した。
マクラーレンと提携していた3年間は、ホンダF1プロジェクト総責任者が開発面と現場指揮の両方の責任を担っていたが、スクーデリア・トロロッソとともに新たなスタートを切るにあたり、ホンダは体制を変更。開発現場とレース現場、それぞれの責任を分離することを決めた。
これにより、昨年までF1プロジェクト総責任者を務めた長谷川祐介氏の後任としてふたつのポジションが設けられた。HRDさくらで新たに浅木泰昭氏が研究開発を統括する一方、現場のトップとしてF1テクニカルディレクターの職が新設、田辺豊治氏がその任に就いた。田辺氏は1990年代前半からモータースポーツに携わり、F1ではゲルハルト・ベルガー担当エンジニア、ジェンソン・バトン担当チーフエンジニアの役割も果たした後、昨年まではインディカープロジェクトに当たっていた。
ホンダが「変革の年」と呼ぶ2018年に向けて行った体制変更について、執行役員でありブランド・コミュニケーション本部長を務める森山克英氏は、ホンダの公式サイト上のインタビューでこう説明した。
「これまで、F1プロジェクト総責任者は、技術開発と現場でのチーム指揮の両方を担ってきました。この責任範囲を分離することで、開発とレースおよびテスト現場それぞれが、よりスピーディーに業務を遂行できる体制へと進化させます」
過去3年間は、マクラーレンのレーシングディレクター、エリック・ブーリエとホンダF1プロジェクト総責任者が並立してチームを指揮していたが、トロロッソ・ホンダでは、チーム代表のフランツ・トストがチームを率い、その下で田辺氏がパワーユニットの運用など技術面について、トロロッソ側のテクニカルディレクターであるジェームズ・キーと直接連携する形になったということだ。
ホンダモータースポーツ部長の山本雅史氏は、新たに研究開発を統括する役割に就いた浅木氏について、こう語っている。
「浅木さんはこれまでもホンダで苦境にあったプロジェクトをいくつも立て直し、大きな成功に導いてきたリーダー。取捨選択がうまい人で、今何をやらなくてはいけないかについて明確に判断を下せることが強みです」
「今回もさくらでは、これまで行われてきた開発内容を整理し、焦点を当てるべき部分を明確にしました。一部の開発については止める判断を下し、結果として集中的に開発を進めたい部分に人材や投資を集める体制が築けています」
山本モータースポーツ部長は、田辺F1テクニカルディレクターについては、以下のように述べた。
「田辺さんは第二期、第三期のF1、そして直近ではインディカープロジェクトと、レース現場での経験が非常に豊富です。その経験を生かし、リーダーとしてエンジニアたちの作業に入り込み、情報を収集しながら判断を下すタイプで、エンジニアたちやトロロッソのメンバーととても近い距離で仕事ができることが強みだと思います」
田辺F1テクニカルディレクターは、現在の役割について、サーキットオペレーションのより細かな部分まで見ることができている、と語っている。
「パフォーマンスを向上させるためには、さくらのチームが緻密な開発をする必要があり、それには現場からの正確な情報伝達が不可欠だと考えています。開発陣へ情報を届けることで、さくら側はそれに素早く反応し、仕事に優先順位をつけて対応できます」
「F1の世界は、昔と変わっていない部分もありますが、エンジンから新たにパワーユニットというシステムに変更されたことで、多くの変更が必要になっています。私はまだスタート地点にいるようなものですが、まずは自分の現在地を確認することから始めました。また、トロロッソという新たなチームと仕事をするという意味では、全員が私と同じ状態です。『これがトロロッソのやり方だから』と言う人間はいませんし、現場でのオペレーションをどう作り上げていくかを、日々模索していかなければいけません」
田辺氏は、体制変更には「いい面も悪い面もあります」とも語った。
「過去3年間のやり方を大きく変えるわけですから、慣例化していたこともあるわけで、時間はかかるかもしれません。でも、この新しい体制では、何がベストなのかを突き詰めて議論することができています。我々はこれが最善の手法だと思っていますし、トロロッソもそう感じてくれていますから、このやり方がうまくいくと思います」
「トロロッソとのチーム結成が決まってから、たくさんのことを話し合ってきましたしチームとして効率を上げていくために毎日議論を重ねました。現時点では、問題なく非常にうまく連携できていると感じています」
トロロッソ・ホンダは非常に順調なプレシーズンテストを過ごし、ポジティブな形で開幕戦に臨む。
「トロロッソ・ホンダで働くスタッフは、全員情熱を胸に宿して戦っていますし、お互いをよく知ろうと努力しています」と田辺氏。
「自分たちの立ち位置はメルボルンまで分かりませんし、そのポジションが最終順位となるわけでもありませんが、オフシーズンに取り組んできたことの結果を垣間見ることはできると思います。同じ情熱を持って仕事をしてきたメンバーにとって、自分たちの仕事の成果を初めて見られる瞬間です」
「お互いの関係とパフォーマンスの両面を進化させていくことは、とても重要です。そのために協力し、日々懸命に取り組んでいます」
「テストを終えて、基本的にここまでの結果にはとりあえず満足しています。ただ、次は開幕戦に向けた緊張感が襲ってくるでしょう。そのときこそ、真価が試されるはずです。テストは順調でしたが、あくまでテストに過ぎず、レース本番とは異なります。レースでの結果こそがすべてです」
「最初のテストのための準備は重ねていましたが、ここからはレースに向けて動かなければなりません。開幕戦に向けて気持ちを切り替える時期です。スタートは順調でしたが、先は長く、まだまだ進化していく必要があります。全21戦という長いシーズンが待っています」