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『99.9』最終話、真犯人を明かさなかった理由とは? 現実にも通ずる“司法の深い闇”を考える

2018年03月19日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『99.9-刑事専門弁護士- SEASON II』(TBS系)の最終話は、前シーズンと同様に“冤罪”をテーマに、ある放火殺人事件を取り上げる。母親が死亡し、父親が逮捕。被害者の息子であり、加害者の息子でもあるという十字架を背負い続けた青年・久世亮平(中島裕翔)からの依頼に、深山大翔(松本潤)は父親の事件を、そして尾崎舞子(木村文乃)は第6話で描かれた弟・雄大(佐藤勝利)を重ねていく。


参考:『99.9』最終話に登場した中島裕翔【写真】


 事件当時の調書から矛盾を探し、ガソリンスタンドで灯油を購入した時間の相違を見つけ出して再審請求を行う深山たちだが、そこに立ちはだかるのは裁判官の川上憲一郎(笑福亭鶴瓶)。彼は無理難題ともいえる証拠の提出を要求するのだ。さらに週刊誌の記事をきっかけに依頼人からの信頼を損ねてしまう佐田篤弘(香川照之)は、何としてでも“開かずの扉”である再審請求を通すための証拠を見つけることを誓う。


 最終話というだけあって、これまでのシリーズを総括するかのような小ネタが炸裂したことに、まず触れておこう。深山だけでなく尾崎までもダジャレを言い始めたり、ゲストとして登場する三四郎・小宮浩信の滑舌の悪さを仕掛けの1つとして使う。さらに定番のプロレスネタをはじめ豪華なゲスト陣の登場に、極め付けは、前シーズンのヒロイン・立花彩乃(榮倉奈々)のサプライズ登場ときた。


 また事件の鍵となる雑誌には一昨年(『99.9』のシーズン1と同じクールに)放送されていたドラマ『重版出来!』(TBS系)の「週刊バイブス」という作品を超えた小ネタ。そして火災の原因として“天かす”の自然発火を取り上げるという点は、つい先日福岡県のうどん店で実際に発生した火災を題材にしているのだろう。


 そんな中、今回のエピソードはこれまでの『99.9』との大きな違いを感じさせる部分があった。それは再審開始を勝ち取るために深山たちが火災の再現実験を行う場面。そこで深山は、これまでのエピソードと同様に真犯人の存在をあぶり出すのだ。ところが、深山が名指しした“真犯人”は「知らない」と否認したままそのシーンだけでなく物語自体からフェードアウトしていく。


 シーズン1のときから本作では、裁判の場で真犯人を導き出すという手法をとり続けてきた。弁護士ドラマというよりは探偵ドラマのような筋書きに、何度も疑問を抱いてきたのだが、シーズン1の最終話の記事でも言及した通り「依頼人の利益よりも事実」を求める深山の特性上、その“事実”とは他の犯人の存在とイコールになってきていたのだ。


 ところが今回はこれまでの“事実”とは異なる帰結点を迎える。真犯人だと思われた人物が果たして本当に罪を犯したのか。そして、依頼人の母親が別に発生した火災に伴う事故死であるという認定がされたのか。それらの答えが出ないまま、依頼人の父親が“無罪”であると再審の場で判決が下ることで終幕を迎える。


 つまり、この最終話のエピソードにおける“事実”とは「真犯人が誰か?」というテレビドラマで求められるような事柄ではなく、「無実の人間が無実である」という、実にシンプルでありながら本来最も重要とされなくてはならない事柄なのだ。その点に、今クールのドラマ『アンナチュラル』(TBS系)と同じような、事件とそこに関わった人々への冷徹でありながらも筋の通った向き合い方を感じさせる。


 ふとここで、シーズン1の最終話で深山が語った最終弁論の言葉を引用したい。「無罪が確定しても、生活は元通りになるわけではありません。何もなかった平穏な日々、幸せを、過ぎ去った時間を、取り戻すことはできません」。


 クライマックスシーン、再審により無罪判決が下った男性は息子と抱き合いながら、彼にこれからは好きなことをするように告げる。息子の目標であった父を救い出すことは達成されたが、事件当時少年だった彼が過ごしてきた8年間という時間は決して取り返すことはできない。8年以上の時間をかけたところで、絶対に戻らないのだ。


 現実の世界では、これまでも多くの事件の再審が開始され、無罪判決が下ってきた事例がある。その誰もが、奪われた時間を取り返すことはできていない。現在も1966年に起きた袴田事件と1979年に起きた大崎事件の再審開始を認める判決が出ながら抗告がなされ、未だ再審が開始されていない。他にも1988年に起きた鶴見事件など、多くの事件が再審請求を繰り返す中、昨年夏には1991年に発生した殺人事件について再審請求中だった死刑囚の刑が執行された。


 「司法への信頼は揺るがしたらいかん」と語る川上に問いかける深山の言葉が本作の、シーズン1と2を通しての最大のテーマだ。「司法とは一体誰のためにあると思っているんですか?」。今回のエピソードのように再審請求がスムーズに通ることは、非現実的かもしれない。それでも、より多くの事件が“事実”にたどり着くことができて初めて“司法への信頼”は生まれるものなのだろう。(久保田和馬)