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悩めるバトンへの荒療治。スーパーGT開幕直前テスト初日を任せたRAYBRIGと山本尚貴の決断

2018年03月18日 18:02  AUTOSPORT web

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スーパーGT開幕直前の岡山テストに参加したRAYBRIG NSX-GTのジェンソン・バトン
F1チャンピオンながら、今季のスーパーGTの大注目ルーキー、ジェンソン・バトンは実は悩んでいたという。初めてのハコ車のシリーズ参戦、そして異国の日本でのレース、スーパーGTという特殊なカテゴリー……RAYBRIG NSX-GTの伊与木仁エンジニアが話す。

「チームもJB(バトンの愛称)とコミュニケーションを取るなかでどうしたらいいのか苦労していたけど、おそらく、JBの方が一番悩んでいたんだと思う。GTマシンの走らせ方、チームとのコミュニケーションなど、いろいろ苦しんでいたんだろうね」

 開幕戦と同じサーキットで行われる岡山公式テスト。実戦に向けてのタイヤ選択やセットアップの確認がメニューの中心になり、開幕を迎えるにあたって、非常に重要な位置づけとなるのは言うまでもない。

 その貴重な2日間の1日4時間の走行時間を、RAYBRIGは文字どおりバトンのための占有時間とした。

 今までバトンがNSXで走行したサーキットはマレーシアのセパン、鈴鹿、富士とコース幅の広いサーキットばかり。しかも、テストはほとんど単独走行でGT300とのシビアな混走は昨年8月の鈴鹿1000km以来、経験していない。コース幅が大きくなく、1周の距離が短い岡山サーキットは、GT300との混走を練習するには絶好の機会となる。

 さらにGT300との混走以外にも、今回の岡山テストを迎えるに当たってもうひとつのテーマがあった。それが冒頭にあった、バトンの不安、そしてチームとのコミュニケーションの仕方だ。テストの進め方については、バトン側から提案があったようで、それをチームが受け入れ、メニューを作成したという。

「一度、JBのやり方で進めてみて、それで僕らも何かを変えなきゃいけないかもしれないよねという形で進めました」と伊与木エンジニア。

 そして貴重な2日間のテストの初日をすべてバトンが担当することになり、そしてバトンは最終的に91周を走り、総合6番手のタイムで初日を終えることになった。

 ホンダの佐伯昌浩GTプロジェクトリーダーも、「トップからのタイム差(コンマ4秒)を見ても、全然、ホンダのトップレベルのドライバーと変わらない。山本とほぼ同じレベルで走れるというのは分かった」と、わずか数回のテスト期間で順応が早いバトンのパフォーマンスを改めて評価している。

 チームにとっては、翌日の2日目にもうれしい出来事があった。初日にバトンが進めたセットアップのまま山本尚貴に乗り替わった途端、山本は走り始めで2番手タイムをマークしたのだ。

「バトンが進めたセットで山本が走ったら、ポンとあの2番手タイムが出た。JBのセットで乗れると山本も安心しただろうし、チームもクルマが変な方向に行っていないことも分かったし、何よりJBが安心したと思う」と伊与木エンジニア。

 結果的にバトンに初日を任せたのはポジティブな方向に進んだが、当然、大きなリスクもあった。何よりスーパーGT、ハコ車の経験がほとんどないバトンに任せるのを不安に思わざるを得ないのが、チームメイトの山本尚貴だろう。

 世界的にも特殊なカテゴリーであるスーパーGTの開幕直前のセットアップ、タイヤ選択を決める大事なテストの半分をルーキーのバトンに任せるという選択は、同じクルマをシェアする立場としては、リスクや不安を感じるのは当然だ。

「僕の立場としては、それについてはなかなかコメントしづらいですね(苦笑)」と話す山本。

「テストに来て、1日まったく乗らないなんてことは初めてだと思います。1台のクルマをふたりで走らせるのがスーパーGTですし、当然、セットアップの好みはそれぞれあるので、片方に任せたら、そちらの好みにどんどん偏っていく。だから、信じていくしかないし、僕としては何があってもその状態で乗らざるを得ない。どんな状況でも自分は上手く走れるという自信と勇気の必要な決断でした」と続ける山本。

「それでもGTはふたりで戦うものなので、JBがまだ充分なフィーリングを得られていないところを見ると、彼に頑張って慣れてもらわなきゃいけない部分もある。本音をいうと、このタイミングで任せる怖さはありました」と山本は今回のテストを振り返る。

 それでもチームメイト、そしてチーム、そしてホンダ側にメニューを認めさせることができたのも、バトンの実力と人間性か。伊与木エンジニアは、そのバトンのキャラクターを以下のように話す。

「JBはああ見えてかなりシャイなところがあって、自分から強く言うタイプではないし、そういうところでコンサバなところに入りかけていたので、今回のテストでお互いの意思疎通というところですごく進歩したと思います。まあ、まだGT300が絡んだ時のタイムとか課題はありますが、それはコース上で体感して対応してもらうしかない」

「外見からはファンサービスもいいし、ジェントルマン、スターのような雰囲気ですが、乗っているときはとにかく真面目ですよ。すごい真面目。今回はJBから提案してきたというのもあるかもしれないですけど、アバウトで済ませるところがなくて、全部、きっちりと評価する。クルマを降りれば、すごくフランクなパーソナリティになるけど、仕事に関してはとにかく真面目ですね。今はF1やフォーミュラの感覚をすべて入れ替えて、スーパーGTのマシン、レースを吸収しようとしています」

 一方のバトンは、ファンがつねにRAYBRIGのガレージを取り囲み、厳戒態勢で取材ができない状況ながら、セッション合間の場内放送のインタビューでは「ロングラン、ショートランといろいろなメニューをこなすことができた。まだまだ本番のレースに向けてやらなきゃいけないことは多いけど、予選から速さを見せられるようにしたいね」とコメント。

 さらにサーキットを訪れたファンには「岡山はあまり知らない土地だし、都会じゃないということくらいしかまだわかっていないけど、たくさんのファンが来てくれてとてもファンタスティックだ。開幕戦でも応援してもらえるよう頑張ります。アリガトウゴザイマシタ!」と、最後は日本語で締めた。

 同じF1で優勝経験があるDENSO KOBELCO SARD LC500のヘイキ・コバライネンがスーパーGTで安定して上位を走れるようになったのは2シーズン目。世界のどのカテゴリーとも似ても似つかない日本のスーパーGTの特殊性は、たとえ世界トップのドライバーであろうと簡単に馴染めるものではない。

「やっぱり、GTマシンはフォーミュラカーとは違いますので、ある程度、我慢して走ってもらわなければならない部分が出てきます。そのあたりは本人もそれを理解しながら走れたんじゃないかなと感じます。特に、フォーミュラに乗っていたドライバーは、パッとセットアップされたクルマに乗るというのは、やっぱり満足できない部分が出てくる。そこはもう、チームのエンジニアと結構、やり合いながら進めています」と話すのはホンダ佐伯GTプロジェクトリーダー

「これがハコ車のレース、日本のGTレースというのは初日に4時間乗ったので、だいぶ理解してもらえたんじゃないかなと思いますし、自分のポジションも見えたと思うので、レースになっても期待できると思います」と佐伯GTプロジェクトリーダーは続ける。

 2日目を終えて、RAYBRIGは総合2番手のタイムをマークすることになった。山本も「これまで他メーカーがスピードがある、特にレクサスが手強いと思っていたんですけど、NSXがリザルトの上位に来ることが多かったので、うれしい驚きがありました。クルマのフィーリングも良くなっている部分もあるので、今回のリザルトが本当ならば、開幕戦に向けてポジティブになれますね」と、手応えを感じている様子。

 バトンの可能性を信じて、貴重なテストの1日を任せたRAYBRIGのチームと山本尚貴。今回のテストメニューが英断となるかどうかは、開幕戦の結果を見なければ判断はできないが、ひとまず、このコンビが開幕戦でもっとも注目を浴びることはたしかだろう。