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AI活用で進むニュースの自動生成、報道現場が直面する「進化」と「衰退」の道

2018年03月18日 10:22  弁護士ドットコム

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「AI記者」という言葉を聞くようになった。最近、メディア業界で一番インパクトがあったのは、日本経済新聞社が発表した「決算サマリー」だろう。上場企業が発表する決算データをもとにAIが文章を作成するもので、完全自動で数分で記事が出来上がるという。


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●ツイッターのつぶやきを「ニュース」に

こうしたAIによる技術は、報道現場にも少しずつ活用され始めている。「JX通信社」(東京都千代田区)は2016年9月、SNSを監視し、国内外の事件・事故情報やニュース速報を検知する「FASTALERT」をリリースし、現在、NHKと全ての民放キー局が導入している。



「FASTALERT」はAIがSNSでつぶやかれた緊急情報を自動検知し、いつどこで何が起きたのかをまとめて報道機関に通知する。例えば、「横浜駅で非常停止ブザー的みたいなものがなってて帰れなくなっている」「え、線路に人倒れてる」「誰だ、横浜駅で非常停止押したの」といったツイッターのつぶやきが複数あれば、それをまとめて「神奈川県横浜市で鉄道トラブル」と判定。ゆくゆくはこうしたつぶやきから自動で草稿をアウトプットするところまで目指すという。


「消費者にとって必要な情報は時間軸によって変わってくる。どこで何が起きたかという必要最低限の情報であっても、それがリアルタイムで手元に届くことが大事」



こう話すのは、同社代表取締役の米重克洋さん。「FASTALERT」と同じシステムを使った、一般消費者向けのニュース速報アプリ「NewsDigest」も提供している。報道機関での勤務経験がない米重さんは、消費者の目線からニュースを捉え直した。


米重さんは「出される情報が整えば、本質的にはどのストレートニュースも自動化できるが、行政の情報の出し方がすぐに全国的に整うものではない。それを待つよりも、まず民間で吸い上げた情報をプラットフォーム化することが必要」と強調する。


●人間とAIの役割分担が大切

今後AIはニュース作成をどこまで機械化してくれるのだろうか。東北大学の乾健太郎教授は「AIができるところは、皆さんが想像するよりは多くはない」と前置きした上で、「既にデータになっているもので、そのデータの解釈の仕方がパターン化できるものであれば機械化できる可能性がある」と話す。



「株価や企業の業績など、定型的な情報から記事を作るような場合、元のデータとそれによって作られた記事のペアをデータとして貯めておけば、人工知能によって少なくともドラフト作成のような形で支援することができる」


日本経済新聞の報道(2月20日)によれば、政府はAIを使った分析を想定し、国の統計などの情報について書式や用語を統一するという。このように日々蓄積されていく膨大なデータの形式や書式を整える動きは、今後加速していくだろう。将来的には行政から出されるプレスリリースも整えられれば、事件事故の原稿もあらかた自動生成できるようになるかもしれない。


一方でAIもまだ専門家のようにデータを解釈したり、記者のように言葉を正確に使えるわけではない。あくまで補助的な位置付けであり、世間でよく言われる「AIによって記者の仕事がなくなる」というのは考えにくいと乾教授は指摘する。


「100%自動化できる仕事はありません。人間である記者に何をさせて、機械に何をやらせるか。人間とAIがうまく協調するよう役割分担を設計することが重要です。ルーチン的な仕事と、AIが当面歯が立たない取材や深い考察の部分とを分けて省力化を図っていくべきでしょう」


●「スジでネタが取れないから新しいものに逃げてる」現場の声も

AIを使うことで、事務作業に近い仕事の省力化が期待できる。前出の米重さんも、「今は人件費を始めとしたコストと収益が釣り合わなくなっている。ベースのコストを減らすためにテクノロジーを使わなければいけない」と指摘する。


労働時間も短縮され、より記者がそれぞれ興味のある取材に時間を割けるようになれば一石二鳥だ。今は記者が手作業で行っている公的文書のチェックも、いずれAIが大量の資料を読み込み不正を指摘してくれるようになるかもしれない。


ただ、新しいステージへは、AIの活用で一足飛びに進めるものではなく、これまでに取り組んできた情報技術の活用の延長線上にあるものだ。


例えば、日本語版サービスが始まって今年で10年になるツイッターは、今では情報源の1つとして活用されている。事件や事故が起きた時、関連するつぶやきを見つけて投稿者にコンタクトを取り、現地で取材も進めながら情報を集める記者もいれば、そのようなやり方に対してネガティブな記者もいる。


ある若手の新聞記者(20代男性)はある若手新聞記者(20代男性)は「上司はツイッターについて、『スジ(事件などの本筋に関連する情報)でネタが取れないから新しいものに逃げてる』『ツイッターが金になるのか?なってないだろう」などと言ってくる。こういう上司とやり合っても疲れるだけ」と話す。と嘆く。新しいものに批判的で、頑なに取り入れようとしない層も現場にはまだ多くいるようだ。


AIはこれからの10年でより一層浸透していくだろう。新しい技術に対応せず、昔ながらの考え方を「根性論」で押し通して取り残されるのか、それとも、新しい流れを自ら生み出して進化していけるのか。同じ報道現場の中でも、大きな差が出るのかもしれない。


(弁護士ドットコムニュース)