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欅坂46、なぜ「ガラスを割れ!」が表題曲に? 収録曲に共通するイメージに迫る

2018年03月18日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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参考:週間CDシングルランキング2018年3月19日付(2018年3月5日~2018年3月11日・ORICON NEWS)


 2018年3月19日付の週間CDシングルランキングの1位は、欅坂46の『ガラスを割れ!』。平手友梨奈の不在が目立つようになった欅坂46ですが、彼女がセンターを務める楽曲が6作連続となる1位を獲得しました。


(関連:欅坂46に『坂道合同新規メンバーオーディション』が与える影響は? グループ体制強化への期待


 「ガラスを割れ!」という曲名を見た瞬間、割れ窓理論(軽微な犯罪も厳しく取り締まることにより凶悪犯罪を防げるという理論です)の歌でも作ったのかと思いましたが、実際には「抑圧のガラスを割れ!」という一節にほぼ集約されるシンプルなメッセージソングでした。


 MVでは、廃工場でロングMA-1を着た欅坂46が激しいダンスを踊り、さらにスタンドマイクで歌っています。ストレートに「ロック」をイメージさせる映像です。


 「欅坂46こそがロック」と言わんばかりの一部メディアによる言説に私は冷笑的です。しかし、ある雑誌の編集者と話したとき、欅坂46を登場させると若者たちからハガキが寄せられ、彼らの目には欅坂46がロックスターとして映っている……という話を聞き、私は真顔になってしまいました。


 また、欅坂46を見ていると、リアリティショーの文脈も感じます。メンバーが追い込まれて、そこで新たな魅力を発揮していくわけです。秋元康は『AKB48選抜総選挙』という巨大なリアリティショーを構築してしまった人物でもあります。そしてそれは、人間としての「リアル」が滲みでているアイドルが注目を集めるというシステムの構築でもありました。


 平手友梨奈の不在もそのシステムの弊害が生みだしたもののようにも感じますが、この記事の本題ではないので、楽曲について話題を進めたいと思います。


 「ガラスを割れ!」の作詞は言うまでもなく秋元康。作曲は、シンガーソングライターの前迫潤哉と、乃木坂46や欅坂46などへの楽曲提供や編曲で知られるYasutaka.Ishioによる共作です。編曲のAPAZZIの名は、乃木坂46の「インフルエンサー」などの編曲で知っている人も多いでしょう。


 「ガラスを割れ!」は、ギターが前面に押し出されているのですが、男性のボイスの多様、惜しみなく響くストリングスの音色なども特徴的です。女性アイドルポップスのサウンドプロダクションそのもので、ロックバンドのサウンドプロダクションとは異なります。


 また、楽曲の構造も優れています。<OH OH OH OH OH…>と繰り返される部分では、ライブでファンが一緒にシンガロングしている光景が目に浮かびます。現在のアイドルシーンでは、MIXやヲタ芸といった形で、ファンがコミットできる楽曲ほど現場で人気を集め、アンセム化していきます。おとなしく「拝聴」するようなタイプのアイドルソングが一番聴かれづらいのです。「ガラスを割れ!」はロックナンバーの意匠でありながら、ファンがコミットできる構造になっています。


 さて、ここで注目したいのはカップリングの「もう森へ帰ろうか?」です。河原健介作編曲による、北欧的な冷ややかさをたたえた、メランコリックな楽曲。サビの前にはEDMの要素もあります。欅坂46のダンスが美しいMVも含めて、非常に秀逸な作品です。これほどレベルの高い楽曲をカップリングにとどめた意味を考えると、欅坂46はやはり「ロック」なイメージを押しだしたかったのでしょう。


 TYPE-Aに収録されている「夜明けの孤独」は平手友梨奈のソロ曲。なんとバラードです。不器用さと孤独と覚悟を歌い、アコースティックギターやオルガンの音色も響きます。同世代が抱える不安をメンバーに投影させる構造なのは、他のカップリング曲と同様です。


 TYPE-Bに収録されている、けやき坂46 1期生が歌う「イマニミテイロ」はシリアスな曲調。<大人たち>というワードが登場することがすべてを物語っています。けやき坂46 2期生が歌う通常盤収録の「半分の記憶」の緊張感といい、けやき坂46にはこうした曲調の楽曲が与えられています。


 TYPE-C収録の「ゼンマイ仕掛けの夢」は、”ゆいちゃんず”の今泉佑唯と小林由依による楽曲。オールディーズ調のサウンドですが、メロディ自体は1970年代のような歌謡性があります。今泉佑唯と小林由依の歌のうまさも光ります。TYPE-D収録の「バスルームトラベル」は、尾関梨香、小池美波、長濱ねるによる楽曲。冷静に考えると、今回のリリースで唯一アイドルポップス然としている楽曲でもあります。


 逆に言うと、「大人=抑圧」というイメージを堅持しているのが『ガラスを割れ!』の収録曲たち。タイトル曲として「ガラスを割れ!」が選ばれた意味もそこにあるのでしょう。(宗像明将)