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柄本佑×前田敦子が語る、役者として表舞台に立つこと 『素敵なダイナマイトスキャンダル』対談

2018年03月18日 09:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昭和のアンダーグラウンドカルチャーを牽引した稀代の雑誌編集長・末井昭の自伝的エッセイ『素敵なダイナマイトスキャンダル』が、『ローリング』『南瓜とマヨネーズ』の冨永昌敬監督によって映画化された。本作では、幼いときに実母がダイナマイト心中した、末井昭の波瀾万丈な半生を描き出す。リアルサウンド映画部では、主人公・末井役を演じた柄本佑と、その妻・牧子役を演じた前田敦子にインタビューを行い、作品の見どころや裏話、俳優として表舞台に立つことなどについて話を訊いた。


参考:【写真】柄本佑×前田敦子対談インタビューの様子(サイン入りチェキプレゼント企画あり)


■前田敦子「佑さんはそのままで昭和っぽい」


ーー末井昭さんの自伝的エッセイを映画化した本作ですが、あの時代特有の熱量のようなものが画面から伝わってくる作品でした。


柄本:僕にとっては、末井さんという身体を通して、60年代から80年代くらいまでの時代を映しているというよりも、末井さんの人生そのものを撮っていっている映画だと感じていました。この手の実在する人物の姿を描いた作品は、往々にして「こういう人がいました」みたいな映画になってしまうことも多い。ただ、この映画は末井さんが体験した実際のエピソードをやっていってるだけですけれど、あくまでそれを基にしたフィクションだなと。


前田:私としては、すごくコミカルだし、明るいし、普通に面白いと言いたいです。細かいところで言うと、出てくる男の人たちがほとんど眼鏡をかけている。どれだけ眼鏡キャラがいるんだ!っていう(笑)。そういう楽しみ方もあるなと思いました。


ーー初共演となるお互いの印象はいかがでした?


柄本:監督の「僕のあっちゃん」、「私のあっちゃん」という妄想に、彼女がグニャグニャと形を変えて反応する。女優・前田敦子さんにはそんな魅力があるんじゃないかと思います。


前田:私は佑さんにいいキャッチフレーズをつけてもらったので。


柄本:「色気のある真っ白いキャンバス」ね。いいキャッチフレーズだよね?


前田:うん、うれしいです。さすがに自分からは言えないですけど(笑)。


ーー前田さんは『苦役列車』、柄本さんは『人間失格』など、過去に昭和が舞台の作品にそれぞれ出演していますが、本作で改めて2人がちょっとレトロな感じの世界観が似合う印象を受けました。


前田:佑さんはそのままで昭和っぽいですからね。


柄本:すごーく失礼なことを言ってるね。気がついてるかい?


前田:昭和生まれですよね? 昭和って長いんだっけ?


柄本:俺は昭和61年生まれ、で昭和は64年までだから。お前…ばっかだな~(笑)。


前田:そうなんです(笑)。


柄本:(弟の柄本)時生が平成元年なのね。だから数えやすいのよ。俺が61年でしょ。62年、63年、そして平成元年にうちの弟が生まれているから。


前田:へー。


柄本:興味がないんだな。本当にそういうところあるよね。末井さんみたい。聞いておいてすぐ飽きる。やっておいてすぐ飽きる。


前田:じゃあ、私が末井さんやろうかな(笑)。


柄本:女版・末井昭。ヤバいだろうね。面白そう。


ーー実際に末井さんはどんな方なんでしょう?


前田:末井さんとは舞台挨拶でお会いしたときに、つかみどころのない面白い方だったので、作品を通して感じていた末井さんの印象と合致しました。本当に自然とそこにいらしていて、なんだか不思議な存在感でした。


柄本:末井さんの馴染み方、半端ないからね。末井さんは現場にも6日間いらっしゃってたし、稿が変わる度に台本を読まれてた。この作品には我々よりずっと前から関わっていて、現場でも時代考証してくださったり。取材などもたくさんされてきた方なので、馴染み方が半端なかったんだと思う。“現場に来た原作者”という立ち居振る舞いではなかったですね。


前田:たしかにそうでした。厳しさもゼロで、妖精みたいなんです(笑)。


柄本:本当にその通りで、なにかが漂っている方なんです。だから本当につかみどころがないんですよね。素敵な方です。作品自体は、試写で2回も観てると言ってました。末井さん自身、この作品の現場をとても楽しんでいる印象でした。


■柄本佑「衣装の似合い方が尋常じゃなかった」


ーー前田さんのセリフの独特な発音が印象的でした。昭和の映画などで見る、“肝の据わった女性像”みたいなものを感じたのですが、意識しましたか?


前田:現代とは語尾が全く違いました。「~よね」とか、「~だわ」とか。なので、普通には喋れなかったんです。台本を読んでいて、会話が確実に現代とは違うテイストだったので、普通の言葉に変えてしまうのも違うんじゃないかと思ったんです。だから自然に喋ったら、あんな感じになっていました。いい違和感になっているならうれしいです。


ーー60年代からバブル期までという時代設定の中で、幅広い年代を演じてどんどん変わっていく2人の様子も印象的でした。


柄本:あっちゃんは出番が結構とんでるもんね。一気に老けているところは、あの衣装の似合い方が尋常じゃなかった。衣装合わせのときに現場で話題になるくらいだったんです。あのセーターにあの眼鏡で、これはすごいぞって(笑)。


前田:私も衣装合わせのときにびっくりしました。牧子さんはもうちょっと女性らしいキャラクターをイメージしていたのですが、全然違いましたね(笑)。潔い演出が気持ちよかったです。


柄本:アルパカのセーターに肩パット入ってて、妙に四角いんだよね。似合ってたなぁ。


前田:裏テーマで、衣装に動物の柄を入れようというのがあったんです。監督がそこにすごくこだわって、牧子さんは全部動物にしましょうって。イルカとかワニとか。


柄本:髪型とかもすごいですよ。こういうのやるのって楽しいんです。ポスタービジュアルでの写真はエクステで、地毛で出演しているところはだいぶ青年期のところかな。


前田:(松重豊さん演じる)警察に呼び出されているところは?


柄本:あれはカツラ。メイクさんに作り込んでもらったんですけど、クオリティが高いんですよ。この作品では、地毛で登場するところがほとんどなくて、美術とか髪型とか衣装とか、これだけお膳立てしていただいているので、そういう世界がもうでき上がっちゃっていて。だから現場に身を任せておけばいいという感じでした。そこでセリフを言うことで何かが生まれてくるという。


前田:たしかに、完璧でしたね。


柄本:作品の世界観を細かく作ってくださっているので、何の違和感もなく演じることができました。


■前田敦子「ネット社会は冷たい声がやっぱり目立ってしまいます」


ーー柄本さんの演じる末井というキャラクターが、世間の母親たちから「『写真時代』を本屋に置くな」と抗議を受けても一切動じずに、気にせず流す姿が印象的でした。2人は役者として表舞台に立っていますが、周囲の声はどのように受け止めているのでしょう。


柄本:こちらの方、元AKB48ですからね。


前田:ネット社会は冷たい声がやっぱり目立ってしまいますからね。寂しい時代だとは思います。だからネットで誰かの悪口を見かけたら、すごく同情しますし、そういう言葉に対して敏感になったかもしれないです。でも私は基本的に見ないです。友達が送ってきてくれて知ることはありますけど、私自身から知ることはないです。


柄本:それは経験した人の言葉だね。冷たい声の方が目立つよね。


前田:ちょっと離れたところで私は生きてます。佑さんは別に何も気にしないですよね?


柄本:もし俺がそれをすごく気にする人間だったらどうするんだよ。Twitterでエゴサーチとかしている人間だったら傷ついていたよ。ただ幸いなことに、そういう人間じゃなかったから傷つかなかった。


前田:(笑)。佑さんこそ、そういうのとは全然関係ないところに生きていそうです。


柄本:全然関係なさ過ぎて……。いわゆるTPO的なこと? 誰かの結婚式にジャージで行こうとして、すげー怒られたりとか(笑)。だからそういう意味では常識がない。


前田:いや、でも佑さんがジャージで来てもびっくりしないですよ。「すごいなぁ!」くらい(笑)。


柄本:でも嫌なことを言われたら、人間なのでもちろんやっぱり嫌です。それ以上にやらなきゃいけないことが目の前にあるので、気にしているどころじゃないというか。それ以上に俺が気にしなきゃいけないのが、結婚式は大人としてスーツをちゃんと着ていかないといけないなと。そっちの方が大変です。


ーーそれは誰かに指摘されて気付いたんですか?


柄本:うちの妻にです。結婚する前の付き合っている頃の話ですけど、一緒に出かけるときに、「その格好で行くの? 恥ずかしいんだけど」と言われて。そのときに“TPO”という言葉を初めて知りました。以前、映画『初恋』の舞台挨拶に、下駄に短パン、Tシャツの格好で行ったんです。そしたら周りはみんなきちんとした格好で、僕だけ悪目立ちしてしまいまして。それなのに、「みんなオシャレしちゃって~」とか言ってたんですよ。


前田:ヤバい(笑)。


柄本:そういうときに「佑はそういう奴だから!」みたいな言葉を言われて。それに甘えてたんだよね。でもやっぱりダメなんだと。30歳過ぎた大人は悪目立ちになっちゃうので、その辺はしっかりしないといけないなと感じています。


前田:気にするも何もないところにいますよね、本当に。


柄本:でも根本は気にしなくていいんじゃないかと思ってる。気にする人は気にすればいいし、気にしない人は気にしなくていいのかなって。要するにそれって好き嫌いの問題。好きだったらやればいいし、どっちでもいいと思ってるならやらなくてもいいと思っています。これが60歳、70歳までいけば関係ないところにいけるんでしょうけど、まだ今30代なので。そこは大人としてちゃんとするところはちゃんとしようぜと、癖づけようという感じですね。


(折田侑駿)