2018年03月16日 18:12 弁護士ドットコム
職場のパワハラ防止について、厚労省の有識者検討会で話し合いが進んでいる。パワハラ対策は必要で一致しているが、その度合いについて、企業の義務として法制化を求める労働者側と、慎重な対応を求める企業側とで意見が割れている。
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3月16日、9回目の検討会が開かれ、これまでの議論をまとめた報告書案が提示された。パワハラ対策として5段階の方向性が記されているが、検討会としてどれを推すのか、報告書案巻末の「まとめ」の項目はまだ白紙となっている。示された方向性は、以下の5つ。
(1)パワハラ行為者の刑事責任・民事責任を法律で明確にする
(2)パワハラ発生企業への損害賠償請求の根拠を規定する
(3)企業のパワハラ対策を義務化する(措置義務)
(4)ガイドライン作成
(5)社会への周知(社会機運の醸成)
労働者側は(1)~(3)の対応を、企業側は(4)~(5)を推している。ここまでの検討会の流れから、現実的な争点は(3)になるか(4)になるかだと言えそうだ。
16日の検討会では、企業側からも「パワハラ対策は当然」との声が上がる一方、対策を義務化することには反発が相次いだ。
悩ましいのは、定義の曖昧さだ。暴力など悪質なパワハラは判別が容易で、現行法でも法的な責任を問えることが多い。しかし、口頭での指導などの場合、適正とパワハラの境界は判別が困難だ。
大企業を中心にパワハラ対策は進んでいるものの、特に人数が少なく、ノウハウも乏しい中小企業にとって、義務化のハードルは高いようだ。ある委員は「中小企業で大いに混乱が起きるのではないか」として、ガイドラインに留め、事例を積み重ねていくのが現実的だと述べた。
一方、労働者側の委員からは「腹をくくって、法制化した上で、やるべきことやっていくべきでは」との反論もあった。
「労使の利害調整は、(検討会の次の段階に当たる)労働政策審議会でやるべきだ」。こう意見したのは、明治大学法科大学院の野川忍専任教授。検討会には3人の学者も参加しているが、いずれも防止措置の義務化を推す発言をした。
野川専任教授は「ガイドラインを実効性あるものにするなら、法的な根拠が必要だ」と強調する。義務化といっても「企業に窮屈な行為規範を課すものではない」という。
「窓口や責任者を置きましょう。研修をやりましょう。就業規則にパワハラはダメと書きましょう。具体的にどうすべきかはガイドラインで検討すべき」
慶應義塾大学の内藤恵教授は、セクハラではすでに措置義務が置かれていることも念頭に、「過度な負担、訴訟を乱発する状況を招くとは思えない」。
成蹊大学の原昌登教授は、義務化は企業にとってもメリットがあると指摘した。「(訴訟になったとき)法的義務を尽くしたと言える材料になる。最初は様々な困難があるかもしれないが、将来的に法的なリスクは軽減される」
検討会は次回が最後の予定。議論を踏まえ、報告書がまとめられる。
(弁護士ドットコムニュース)