『第43回木村伊兵衛写真賞』の受賞者が発表された。
今年の受賞者に選出されたのは、小松浩子、藤岡亜弥。選考委員は石内都、鈴木理策、ホンマタカシ、平野啓一郎が務めた。3月20日発売の『アサヒカメラ 2018年4月号』には選評が掲載される。
1969年生まれ小松浩子は、2009年に個展を初開催。受賞の対象作品は、東京・ギャラリーαMで行なわれた個展『鏡と穴―彫刻と写真の界面 vol.4 小松浩子』で発表された『人格的自律処理』と、イタリアで行なわれた『THE POWER OF IMAGES』で展示された『The Wall, from 生体衛生保全, 2015』。
藤岡亜弥は1972年生まれ。2008年から2012年までニューヨークに滞在し、現在は広島・東広島に在住。受賞の対象作品は写真集『川はゆく』、東京・ガーディアン・ガーデンで行なわれた個展『アヤ子、形而上学的研究』となる。
授賞式は4月24日に東京・一ツ橋の如水会館で実施。受賞作品展は4月24日から東京・新宿のニコンプラザ新宿 THE GALLERY 1、6月14日から大阪・ニコンプラザ大阪 THE GALLERYで開催される。
『木村伊兵衛写真賞』は毎年優れた作品を発表した新人写真家を表彰。写真家・木村伊兵衛の業績を記念して1975年に創設され、「写真界の芥川賞」とも称されている。過去の受賞者には藤原新也、畠山直哉、ホンマタカシ、蜷川実花、HIROMIX、川内倫子、佐内正史、梅佳代、長島有里枝、浅田政志、石川竜一、川島小鳥らが名を連ね、昨年は原美樹子が受賞した。
■佐々木広人(『アサヒカメラ』編集長)のコメント
第43回木村伊兵衛写真賞は、小松浩子さん(展示「人格的自律処理」ほか)と藤岡亜弥さん(写真集『川はゆく』ほか)に決定しました。
今回、推薦人のみなさんが推挙した写真家は64人。そこから4人の選考委員が吟味してノミネート写真家を絞り込み、最終審査で小松さんと藤岡さんの2人が選ばれました。今年は写真に造詣の深い作家の平野啓一郎さんに選考に加わっていただきました。
選考のプロセスはこれまでと同様ですし、タイミングも変わりません。しかし、今年はノミネートされた写真家6人が全員女性だったため、驚きの声が上がりました。推挙された64人のうち、女性は18人しかいなかったことを考えると、かなり低い確率であったことは否めません。とはいえ、写真界に限らず女性の社会進出が顕著であるわけですから、長く賞の授与をしていれば、いずれこういう日は来るであろうことは確率的にも十分あり得ること。私としてはそこに驚きを感じてほしくないと思います。
むしろ、注目していただいきたいのは、昨今の写真家の作品展示・発表のありようです。木村伊兵衛写真賞の受賞対象者は「その年に優れた成果を出した新人写真家」。かつては写真集、写真展、雑誌で写真そのものを国内でストレートに発表するスタイルが多かったと思います。
ところが、今や写真を使ったインスタレーションは当たり前、展示は簡単に国境を超え、インターネット使った「電脳世界」でも繰り広げられるようになりました。選ぶ側はもちろん、「写真の現在」を伝えるメディアは、それまでの経験則に頼ることも、立ち止まることも許されない時代になったわけです。
本誌4月号特別付録「選考委員のことば」には、作品を選ぶ側の苦悩と、写真表現が置かれた現状が生々しく記されています。小松さん、藤岡さんの作品を堪能していただきつつ、これを機に写真表現の歴史的な立ち位置についても考えてみてはいかがでしょうか。