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一匹狼の井浦新と初々しい窪田正孝ーー『アンナチュラル』で視聴者を虜にするギャップを比較

2018年03月16日 08:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 脚本の隅々に巧みなセンスが光る『アンナチュラル』(TBS系)。“赤い金魚”の謎が解き明かされるなか、中堂系(井浦新)、久部六郎(窪田正孝)が迎える結末にますます注目が集まっている。まったく違う人物像ながら、どちらも人を惹き付ける魅力にあふれる中堂と久部。最終回を前に、2人の魅力について考察したい。


参考:【画像】『アンナチュラル』最終話で追い詰められる窪田正孝と井浦新


 中堂は、約3000体の解剖経験を持つ一流の法医解剖医だが、ドSすぎる性格が難。彼と組んだ臨床検査技師らは最長3カ月、最短3日で辞めてしまったといい、同僚の東海林(市川実日子)から「触らぬ神にたたりなし。カオナシみたいなもん」と称されたこともある。


 無造作ヘアに飾り気のないシンプルなファッションをまとう中堂に当初存在したのは、ミステリアスな色気。「クソ」が口癖の中堂は、他を寄せ付けない独特の雰囲気を放ちながらも、ことある毎に明晰な頭脳でミコト(石原さとみ)をピンチから救出。一匹狼を装いつつ、自分が助けられる人を見捨てることのできない中堂の人柄に惹かれる女性が続出した。


 物語を追うごとに彼の過去が明かされ、中堂系という人が少しずつわかってきた。搬送された恋人の遺体を、真実を突き止めたい一心で黙って解剖したために誤認逮捕されたこと。今でも、心から彼女を愛していること……。他人に興味がない単なるクレイジーな男かと思われた中堂だが、愛する女性を思いひとり苦悩し続けてきた。そして、その事実をミコトに打ち明けたことで“強い”と思われた中堂の人間らしい“弱さ”が垣間見え、視聴者は一層心惹かれることとなる。


 一方の久部六郎も、順風満帆な人生を送ってきたわけではない。医者一家に生まれた六郎は、ふざけて父に「医者になるのをやめた」と告げたとき、「なら、私の子供じゃない」と返されたことを機に、医者になる理由を見失ってしまう。だが、UDIラボのメンバーに刺激を受け、徐々に自らの将来や法医学と真剣に向き合い始めるのだった。


 そんな六郎が抱くのは、ミコトに対する恋心。ミコトに「秋ちゃんに似てる」と言われれば、「秋ちゃん=元彼」という東海林からの嘘情報を鵜呑みにして内心大盛り上がり。さらに、中堂の家からエプロン姿で現れたミコトの姿に、中堂との仲を勘違いして動揺したりと、初々さが微笑ましい。だが、六郎の魅力は可愛らしさだけではない。


 第1話ではミコトを乗せて火葬場までバイクを走らせ、第2話では冷凍車ごと水没しそうになるミコトをかばい、第5話で電話の向こうで泣いているミコトのもとに駆けつけるなど男らしい一面を見せてきた。さらに第4話では、地図上のマンホールをチェックできる専用アプリを開発し、ITにも強い模様。単純だが、女性は機械に強い男性に弱い。東海林は「人畜無害」と称していたが、実は肉食系でもありそうな六郎は、ギャップ萌えの王道である。


 可愛いように見えて男らしい久部と、一匹狼に見えて繊細な心をもつ中堂。まったく逆のギャップを持つ2人だが、ともに感じるのは「弱った時には頼ってほしい」という母性本能。物語を観ていて湧き出すのは、共感というより「救ってあげたい」と心が締め付けられるような感覚で、この感情への持っていき方が『アンナチュラル』はとにかく巧い。そして当然ながら、その2人をナチュラルに演じる井浦と窪田の演技力には脱帽である。


 彼女を殺した犯人まであと一歩と迫る中堂が、心穏やかに「クソ」とつぶやける世界は訪れるのか。週刊誌の潜入記者という過ちのせいで、やっと見つけた“帰る場所”を失いかけている久部が、ミコトや東海林にからかわれる日常は戻ってくるのか。2人がともに過去から解放され、前を向ける結末を祈らずにいられない。


(nakamura omame)