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『シェイプ・オブ・ウォーター』にみる、オスカー関連作品の正しい公開タイミングと宣伝方法

2018年03月15日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 前週に引き続き、先週末も圧倒的な映画動員ランキングを強さで制したのは『映画ドラえもん のび太の宝島』。土日2日間の動員59万9000人、興収7億400万円。先週末の時点で動員145万人、興収17億円を突破。昨年の『のび太の南極カチコチ大冒険』に続いて、今年もドラえもんが春興行の覇者となることは間違いないだろう。


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 今回注目したいのは、3月4日(現地時間)に開催された第90回アカデミー賞において作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の最多4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』。公開初週の週末の段階では受賞前、先週末は受賞後初の週末となったわけだが、土日2日間には動員7万7481人、興収1億621万円を記録。先週末公開の『北の桜守』と『去年の冬、きみと別れ』の影響を受けてランクこそ一つ下がったものの、興収は前週比で103.7%。上昇率が低いように思うかもしれないが、ギレルモ・デル・トロ監督作品の熱心なファンが初週に駆けつけていたことをふまえれば、2週目にしての上昇は快挙。アカデミー賞受賞が日本の興行に及ぼした効果は「大きかった」と言っていいだろう。


 近年、アメリカ国内では視聴率の低下が止まらないことが取り沙汰されているアカデミー賞。もちろん受賞者にとってはその後の人生やキャリアを大きく左右する大きな賞であることは変わらないが、短期的な興行に及ぼす影響という点においては、主要ノミネート作のほとんどが公開されてから時間が経過していることもあって、もはやほとんどなくなっている(ちなみに『シェイプ・オブ・ウォーター』の公開は12月8日だったので、3月4日の受賞式の時点ではもうほとんどの映画館で上映を終えていた)。数年前までならば、まだソフトの売り上げなどには多少貢献していたわけだが、CDほどではないもののフィジカルメディア自体をほとんど店頭で目にすることがなくなったアメリカにおいては、その影響もごく僅かだろう。


 そう考えると、「世界中で最も公開時期が遅い」と指摘されることも多い日本は、アカデミー賞が興行に影響をダイレクトに及ぼす貴重なマーケットとも言える。今回、事前の予想で作品賞の最有力候補とされた『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』(同作は主演女優賞と助演男優賞の2部門を受賞)は、たまたま同じフォックス傘下のインディー系作品のスタジオであるフォックス・サーチライトの作品で、日本でも同じ20世紀フォックスが配給することになった(これまで必ずしもフォックス・サーチライト作品のすべてを日本の20世紀フォックスが配給してきたわけではない)。


 『スリー・ビルボード』はアカデミー賞授賞式の約1か月前、11月10日のアメリカ公開から約3か月遅れの2月1日に公開。『シェイプ・オブ・ウォーター』は同授賞式直前の3月1日に公開。本来ならば観客層が限定されている熱心な映画ファン向けともいえる両作品だが、それぞれの観客を奪い合わないように、それでいて授賞式のタイミングでどちらもまだ劇場で公開中という、絶妙の間隔&時期での公開が実現した。新聞広告や地下鉄の中吊り広告といった、アカデミー賞に関わらなければきっと宣伝予算が捻出できなかったであろう広告を目にした人も多いはず。作品に恵まれなければなかなか真似のできないことではあるが、今年の『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』における日本の配給会社の積極的な仕掛けは、今後、アカデミー賞関連の作品を日本で配給する上で模範とすべき成功例となった。(宇野維正)