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新エアロ導入で競争激化のインディカー。開幕戦ゴール目前のクラッシュはなぜ起きたのか

2018年03月14日 20:42  AUTOSPORT web

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デビュー戦ウイン目前でクラッシュを喫したウィケンス
新エアロキット導入でエンジン以外がワンメイクになったインディカー・シリーズ。マシンの差を減らして競争激化を狙ったインディカーの思惑は見事当たり、開幕戦セント・ピーターズバーグの予選でファイナルに進んだ6人は別々の6チームから出場するドライバーとなった。

 ポールポジションをルーキーのロバート・ウィケンス(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)が獲得。予選3、4位にもジョーダン・キング(エド・カーペンター・レーシング)とマテウス・レイスト(AJ・フォイト・レーシング)が食い込んだ。チップ・ガナッシ・レーシングはトップ6に入れず。昨年度チャンピオンのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)はセカンドステージ進出を逃し、予選13位だった。

「技術力を活かせるエリアが無さ過ぎる」と早くも不満を口にしているのは、開発力でライバルたちを常にリードしてきたチーム・ペンスキーの社長ティム・シンドリックだ。

 技術競争もレースの重要な一部という指摘には頷けなくもないが、4年間で3回チャンピオンの彼らをもってしても苦戦をさせられている今の状況は歓迎する人の方が多いのではないか。

 レースは確実におもしろくなっていた。昨年よりダウンフォース20パーセント減のマシン、事前テストのできないストリートコースでの開幕戦、まだ新エアロの特性に完全にマッチさせられていないファイアストンタイヤなどの要素も絡んでのことだろう。


 ポールスタートだったウィケンスが本人も驚く安定したスピードとパフォーマンスを発揮し続けて優勝へと突き進んでいた。しかし、もうゴール目前でフルコースコーションが出され、3秒もあったリードはふいに。2番手につけていたアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)は、諦めかけていた勝利に再び闘志を燃やした。

 残り4周のリスタートでもウィケンスは危なげなくトップをキープ。そのラップの後半にはロッシに明確な差をつけるほど走りにキレがあった。しかし、そこでまたイエロー。次のリスタートはゴールまで2周で切られた。

 ここでウィケンスは加速が悪く、真後ろのロッシは絶妙のタイミングでアクセルを踏み込み、ウィケンスのリヤウイング下に潜り込むぐらい接近して最終コーナーを立ち上がった。

 スリップストリーム利用からロッシがインへとラインを変え、ウィケンスはラインをホールドしてターン1へアプローチ。ふたりはブレーキング競争をしながら、並んだままコーナーに飛び込んでいった。

 インサイドに入ってアドバンテージを得たかに見えたロッシだったが、ウィケンスはアウトからスピードを保ってコーナリング。狭められたイン側のスペースでロッシはリヤを滑らせ、右フロントが縁石に触れると更にスライドしてウィケンスにぶつかった。


 レース後、ふたりはその時の状況を振り返った。 

「普段はリスタートでプッシュトゥパス(P2P)は使えないが、あのラップではレースを再開させる決断が遅く、P2P使用が許可された。そのことを聞いたのはターン13と14の間だった」

「あれで僕はロバートに対して大ジャンプができた。彼はP2Pボタンを押すのがかなり遅れ、僕にとっては完璧な状態になった」とロッシ。

「ターン1に向かった。チャンスはここ以外にないと思ったから、スリップから抜け出した。相手は防御の動きを取った。そうする権利が彼にはある。しかし、こちらの動きに反応しての行動で、彼はコーナーの奥の奥で僕をタイヤかすの中に追いやった。とても不幸な結末になり、残念に思う」

「僕は優勝することができ、彼は2位フィニッシュできていたはずなのに……。ドライバーズミーティングで、相手の動きに反応したライン変更はブロッキングと見なすと明言されていた。最終コーナーの出口か、ストレートを半分行ったあたりででも彼がインサイドを守る走りをしていて、それでも僕がインに突っ込んでいったのなら、僕が自身のマシンを危険エリアに進入させたってことになるけどね」

「彼はブレーキングゾーンでもラインをこちらに寄せてきた。それで僕は更にタイヤかすの中へと追いやられた。僕はブレーキをロックさせておらず、あのコーナーをクリアできるはずだった」

 映像ではロッシのリヤはロックしているように映っていたが……。

■勝利目前でのリタイアを悔やむルーキー
 デビュー戦ウインを逃したウィケンスは、「残念な結末だ。最後のリスタートでインディカーは何をしたかったのか? それがわからない。ペースカーはライトを消さずに走っていた。その前までとまったく違った手順でのリスタートになっていた」

「レースリーダーとして、僕にはペースをコントロールする機会が与えられるべきだが、あのラップはずっとペースカーのすぐ後ろを走っていた。それが急にピットロードに向かった。インディカーにはちゃんとした説明をして欲しい」

 ターン13とターン14の間でウィケンス、加減速を繰り返してロッシを振り切ろうとトライしていたように見えていた。ラップの大半でペースカーがライトを点けていたのは事実。リスタートが必ず切られるとチームから無線で聞かされても、心も含めた全部の準備を整え切るには時間が足りなかったのだろう。だからP2Pの操作も遅れた。

 インディカーの見解は、「リスタートの指示は明確に伝えたし、準備に費やす時間も十分にあった」というものだ。

「スタートの手順については完全に理解をしていた。レース中のチームからの指示も完璧だった。P2Pを使っていいことも即座に知らされていた。僕が理解できないのは、ペースカーのライトが消えなかったところ。それで僕は後続の動きをコントロールさせてもらえなかった。とても不利な状況に陥れられてしまった感じだった」

「ロッシがインに行ったので自分はアウトから行くことにしたが、ブレーキングはギリギリまで遅らせた。スペースは十分に与えていた。こっちの視点から言えば、彼はブレーキングを遅らせ過ぎた」

「ラインを外れたらタイヤかすでコースはひどく汚れている。そういう状態なのはずっと変わらなかった。彼はコーナーの奥まで突っ込み過ぎ、リヤをロックさせ、滑って僕に突っ込んできた。それ以外に説明のしようはないはずだ」

「残念なのは、相手はゴールして表彰台に上り、こっちは壁にぶつかってレース終了となったところだ。ガッカリしている。ルーキーとしての開幕戦だったから。だからこそ僕はそこまでハードにはレースをしていなかった」


「ロッシにはインサイドに十分以上のスペースを与えた。僕は2位フィニッシュとなったっておおいにハッピーだったからね。いい1日になっていたのに。週末全体が素晴らしかった。サプライズのPPは僕自身にとっても驚きだった。この走りが110ラップでも可能か? と自分自身考えたよ。それが可能だとレースでは証明した」

「ゾーンに入れていたんだと思う。ペースをコントロールして、差をつけたい時につけることができ、燃費の数字もバッチリで、それでも後続を突き放すことができていた。あの109周目までは何もかもが順調だった」

 ウィケンスの主張に分があるように思えるのは、彼がとても不幸な目に遭ったからだ。いずれにせよインディカーのレースコントロールがドタバタしたことでルーキーに混乱を与えてしまったようだ。

 リスタートはもう1周後にすべきだった。ファイナルラップ一発勝負が嫌だった? 放送時間終了が迫っていた? 本当の理由は何だったのだろう。

 P2P使用許可の意図は、おそらくオーバーテイク増を期待してのことだったろうが、リスタート前の半周切ってからの告知は遅過ぎだ。その前の時点までのレースはもう十分エキサイティングなものになっていたのに……。

 新エアロ導入を成功させたインディカーには、即座にレース自体の運営強化、安定に尽力して欲しい。ウィケンスのような不運に遭うドライバーがこれ以上生まれないように。