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『初音ミクシンフォニー』が繋ぐボーカロイドとクラシックの未来 映像作品&CD発売から振り返る

2018年03月14日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ボーカロイド楽曲をフルオーケストラで奏でる『初音ミクシンフォニー2017』の初の映像作品、ならびにオーケストラライブCDが発売中だ。


 昨年で2年目を迎えた『初音ミクシンフォニー』。昨年11月29日に開催された東京公演(東京国際フォーラム・ホールA)を収めたBlu-rayは、ボーカロイドカルチャーを追いかけてきたファンはもちろん、クラシック/オーケストラに日頃から親しんでいる音楽ファンにとっても、新鮮な驚きのある一枚だろう。


 ボカロシーンへのリスペクトに溢れたアンセム「未来序曲(フルver.)」(Mitchie M)から始まり、「千本桜」(黒うさP)のようなオーケストラ映えする壮大な楽曲、また「初音ミクの消失」、「初音ミクの激唱」(cosMo@暴走P)、「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」(ika)、「levan Polkka」、「Nyan Cat」(daniwellP)、「子猫のパヤパヤ」(ワンカップP)など、アレンジの妙で新たな魅力を獲得しているボカロならではの楽曲たちも聴き逃せない。


 一方、初音ミクと同じく10周年を迎えた鏡音リン・レンの楽曲メドレーでは、その物語性がオーケストラによって増幅される名演が続く。「炉心融解」(iroha)、「ココロ」(トラボルタ)、「悪ノ娘、悪ノ召使」(mothy_悪ノP)、 「ロストワンの号哭」(Neru)、「四季折の羽」(ひとしずく×やま△)といずれ劣らない名曲が次々と演奏され、「Fire◎Flower」(halyosy)がまさに打ち上げ花火のように、アニバーサリーを盛り上げた。昨年に引き続き設けられた『SEGA Project DIVAコーナー』ではryo(supercell)の「ODDS&ENDS」&「メルト」という、ボカロファンなら誰もが知る人気曲が取り上げられ、そこから、DECO*27によるメガヒット曲「ゴーストルール」につなぐ流れも見事。息つく間もなく、画面に集中する時間が続くだろう。


 前年に行われた初公演においては、ライブCDのみのリリースになり、映像化が待望されていたが、ビジュアルを伴って迫るオーケストラの迫力は、また格別だ。部屋の明かりを落とし、画面に注目すれば、老若男女を一様に笑顔にした、あの日のホールにいつでも舞い戻ることができる。公演を通しで観ると、感動あり、笑いあり、ジャンルレスのボーカロイド楽曲が観客の感情を縦横に揺さぶり、一般のオーケストラコンサートではなかなか味わえない、瑞々しいエンターテインメントを提供していることがよくわかる。また、繰り返しの視聴で各奏者に注目できるのも、映像ならではの楽しみ方だ。


 なかでも、ナユタン星人をフィーチャーした「ボカロP ピックアップコーナー」はぜひ楽しんでほしい一幕だ。音楽ゲーム『初音ミク and Future Stars Project mirai』の公式キャラクターとして愛されている「ミクダヨー」のサプライズ出演が観客を沸かせ、それ以上に、「アンドロメダアンドロメダ」、「ダンスロボットダンス」、「リバースユニバース」、「エイリアンエイリアン」と、キャッチーなデジタルロックが違和感なくオーケストラと融合していることに驚かされる。


 他にも見どころ、聴きどころは満載だ。「脱げばいいってモンじゃない!」(デッドボールP)、「ぽっぴっぽー」(ラマーズP)、「ルカルカ★ナイトフィーバー」(samfree)と、否応なく盛り上がる楽曲のメドレー。また、ボーカロイドカルチャーの黎明期から多くのファンを感動させている「歌に形はないけれど」(doriko)、「ハジメテノオト」(malo)の名演もあり、さらに、クリエイターのコラボを加速させた「Connecting」(halyosy)は、コーラス隊も交えて豪華に展開された。先行して映像が公開されていた「桜ノ雨」(halyosy)も、公演の流れの中で聴けば、その感動もひとしおだ。


 一方で、合わせてぜひチェックしたのが、オーケストラライブCDの初回限定盤に付属している、特典DVDだ。こちらには、Blu-rayに収録されていない大阪公演の模様が、ダイジェストで収められている。PAを介さない生音で披露した大阪 フェスティバルホールでの公演は、東京公演とまた違った味わいのあるものになっている。昨年の公演で大反響を呼んだ、kz(livetune)の「Tell Your World」、またジミーサムPの名曲「from Y to Y」「Reboot」「Starduster」をつなぐメドレーは、大阪公演でのみ演奏されており、このDVDでしか楽しめない貴重な映像になっている。


 そしてすでに、『初音ミクシンフォニー2018-2019』の開催が決定している。東京公演は11月24日にパシフィコ横浜 国立大ホールで、大阪公演は年をまたぎ、2019年1月25日にオリックス劇場でそれぞれ開催。『初音ミクシンフォニー』は、オーケストラ/クラシック音楽にとっても、ボーカロイドカルチャーにとっても意味のある取り組みだ。チケット情報など詳細は後日発表となるが、気になるけれど会場に足を運んだことがない、という人は、ぜひBlu-ray&CDでその魅力を確認し、一度生演奏の迫力を味わってほしい。(文=橋川良寛)