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『リメンバー・ミー』共同監督が語る、作品における音楽の役割 「キャラクターの心情が表現されている」

2018年03月13日 16:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ピクサー・アニメーション・スタジオ最新作『リメンバー・ミー』が3月16日に公開される。本作は、カラフルな“死者の国”に迷い込んだミュージシャンを夢見る少年ミゲルと、彼が出会ったガイコツのヘクターとの冒険の模様を描いたファンタジー・アドベンチャー。第90回アカデミー賞では、長編アニメーション賞と主題歌賞の2部門で受賞を果たした。今回リアルサウンド映画部では、本作の共同監督を務めたエイドリアン・モリーナ監督にインタビュー。ストーリーや音楽を軸に、本作の魅力について話を訊いた。


参考:シシド・カフカ×スカパラ 『リメンバー・ミー』日本版予告編【動画】


ーー監督を務めたリー・アンクリッチとはどのように役割分担をして制作を行ったのでしょう?


エイドリアン・モリーナ共同監督(以下、モリーナ):どの制作過程でも互いに補い合う関係で携わっていたんだ。僕は元々ストーリーアーティストだった経緯もあって、ストーリーテリングを主に担当した。ストーリー上の問題を解決していくために、いろいろな材料やアイデアを提供していく。反対にリーは編集マンとしてのバックグラウンドを持っていたから、時間の流れや音楽、声など、作品には欠かせない要素をキュレーションして組み合わせていくという過程を担当していたんだ。僕が生の材料をどんどん作り、リーがそれらを組み合わせて、最終的なストーリーにしていく。その作業をしていく中で、僕たち2人はとてもいい組み合わせだと感じたよ。


ーーピクサーでは1つの作品の制作過程において、その4分の3の時間をストーリー作りにつぎ込むということを『スタジオ設立30周年記念 ピクサー展』で知って驚きました。


モリーナ:『リメンバー・ミー』も同じくらいかかったね。この映画を作るのに6年を費やしたのだけれど、アニメーションの制作を始めたのが封切り日の1年半くらい前だったから、4年半はストーリー作りの時間だった。最初の段階はメキシコでのリサーチに費やし、その後いろいろなストーリーのバージョンを作って、暫定的なものをスタジオに見せ、フィードバックをもらう。やはりストーリーをしっかり作るというのが一番の要になっているんだ。これまでの作品も同じで、主人公がどんなチャレンジに直面していくのかという旅路について考えるとき、それが非常に面白いものであってほしいし、観客が引き込まれるものであってほしい。様々な物語のバージョンを作って、トライ&エラーを繰り返しながら、どんどんストーリーを強くしていくわけなんだ。


ーーこれまで監督が携わってきたピクサー作品と本作とではどんな違いがありましたか?


モリーナ:僕はこれまで『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などのシリーズものの制作に携わってきたんだけど、本作が初めてのオリジナル映画なんだ。初めてキャラクターを作り上げ、キャストとのアンサンブルや作り上げるダイナミックスを考えるのが非常に面白いということを実感したよ。また、初めて実際にある文化や伝統に基づいた話を作るということにも取り組んでいる。史実に基づいているからたくさんリサーチをするわけなんだけれども、世界中の人々が観て元の文化も理解できるようにするために、リサーチで得たことをストーリーに組み込んでいったんだ。今回は、“祖先を忘れない”ということがハイライトになっているよ。


ーーメキシコをという国をモチーフにした経緯にはどのようなきっかけがあったのでしょう。


モリーナ:はじめはリーが“死者の日”をテーマにした物語が作りたいと言ったことが始まりだった。“死者の日”というホリデーはメキシコのものだから、メキシコを舞台にするは非常に自然な選択だったんだ。リサーチを進めていく中で知り得たメキシコのさまざまな歴史や文化を映画の中に盛り込んでいき、エキサイティングなものに仕上げていった。ストーリーの舞台としてもメキシコは素晴らしいし、家族や祖先を忘れないというテーマにもつながっているよ。


ーー監督は劇中歌の制作にも携わっているそうですね。


モリーナ:曲を書くときは歌っているキャラクターの心情を表そうと考えている。この作品ではほとんどの場合、僕が作った歌はミゲルが歌っていて、ミゲルがそのときにどんな状態だったかを表すようにしているんだ。緊張していたり勇気を感じていたりというミゲルの感情の変化を反映させるような歌詞を書こうと考えて作ったよ。


ーーピクサーの作品はどれも音楽が重要な役割を果たしていると感じるのですが、『リメンバー・ミー』ではその中でも特に音楽に強いこだわりを持っている印象があります。


モリーナ:音楽は作品にとってさまざまな役割を果たすものだけど、『リメンバー・ミー』では特に3つの役割があるんだ。ひとつは、ミゲルが住んでいる世界を反映するソースミュージックとしての役割。メキシコの伝統的な音楽を使って、現実世界を反映させるという意味も込めている。もうひとつは映画音楽として、キャラクターの感情的な旅路をより深く理解するため。これにはキャラクターが感じている感情をより拡張させる役割がある。今回はその2つに加えて、音楽そのものの力をそれぞれのキャラクターに感じさせるという描き方で、劇中で重要な役割を担っているんだ。


ーー音楽はどのようにして作品に加えられていくんでしょうか?


モリーナ:ミゲルが抱える問題がほとんど音楽に関わっていることで音楽を演奏する、あるいは音楽がその問題を解決するようにと、脚本を書いているときに考えていたよ。ミゲルの問題がどこにあるのかを、常に音楽を使うチャンスを考えながら、脚本を書いていったんだ。それと、ミゲルの声を担当したアンソニー・ゴンザレスが歌える人だと分かってからは、歌をもっと入れようと考えた。音楽がテーマでもある作品だから、ストーリー上の問題を解決すると同時に、主題である音楽になるべくチャンスを与えるようにしようと考えながら、脚本に音楽を盛り込んでいったんだ。


「忘れたくない人の写真を飾りました」
ーーエンドロールの後ろでたくさんの人々の顔写真がスクリーン全面に映し出されたのもと非常に印象的でした。


モリーナ:エンドロールの最後のシーンには、デジタル版オフレンダーを作ったんだ。この作品に関わったアーティストたち自身が、ずっと考えていたい人、思い出したい人、忘れたくない人の写真を飾っている。本当に自分がこの映画を捧げたいと思っている、この人をしのびたいと思っている人の写真を掲げていて、祭壇の役目を果たしているんだ。


ーー最後に、日本の観客に『リメンバー・ミー』を通して伝えたいメッセージをお願いします。


モリーナ:この作品が、自分が情熱を抱いているものにより一層真剣に取り組んでもらえるきっかけになれたらいいなと思う。そして、家族のなかであなたをサポートしてくれる人をぜひ探してほしいね。ミゲルにとっては非常に長い旅路になってしまったけれど、家族からのサポートを得るための方法がいずれ見つかることを願っている。純粋にストーリーを楽しんでもらって、皆さんがどう感じたのかの感想も聞いてみたいね。


(取材・文・写真=大和田茉椰)