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a flood of circleは4つ目のピースを取り戻した 主催ライブイベントから感じた快進撃の始まり

2018年03月13日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2月17日、a flood of circle(AFOC)主催のライブイベント『A FLOOD OF CIRCUS 2018』が開催された。「AFOC流のフェスティバル」「AFOC流のロックンロール・サーカス」と銘打っているこのイベントは2016年以来2度目の開催。今回は、1月から行われていたツーマンツアー『A FLOOD OF CIRCUS 大巡業 2018』のツアーファイナル的な位置付けだ。


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 トップバッターはSIX LOUNGE。ここ最近AFOCと対バンする機会は増えているものの、ヤマグチユウモリ(Gt./Vo.)が言っていたように、2バンドの付き合いは決して長いわけではない。しかし「俺のロックンロール」「STARSHIP」「ふたりでこのまま」と3曲続けた冒頭から歓声が大きく、フロアが歓迎ムードだったのは、前のめりに転がっていくエネルギッシュなサウンドに若き日のAFOCの面影を感じた人が多かったからだろうか。「大きかれ小さかれここはライブハウス。思いっきりやって帰ります」(ヤマグチ)という言葉通り、この日も彼らは、自らのスタンスを堂々と貫くステージをやってみせた。


 2番手は、佐々木亮介(Vo./Gt./AFOC)、Yasu(Ba/DOES)、キョウスケ(Gt/爆弾ジョニー)、ジェットセイヤ(Dr/go!go!vanillas)による4ピースバンド、The Hosomes。ドレスコードなのかメンバーは揃って革ジャンとサングラスを着用。BPMが速く、パンキッシュな勢いのあるロックンロールナンバーを掻き鳴らす。彼らは、オリジナル曲、各所属バンドのカバー曲、そしてRamones「電撃バップ」の日本語カバーといった8曲を披露。Yasuこと赤塚ヤスシがDOES活動休止以来1年半ぶりにステージに現れたこと、かつてAFOCのサポートを務めたキョウスケが佐々木と並んでギターを鳴らすのを見られる機会が再び生まれたことなど、とにかくトピックが多かったこのステージ。しかし「バンド名以外はマジだから!」という佐々木のMCからもわかるように、オリジナル曲のクオリティが高く、この場限りで終わらせる感じのしなかったところがファンにとって一番嬉しかったポイントではないだろうか。今後の活動に期待。


 髭は、ストレートなギターロック「もっとすげーすげー」でライブを始めたかと思えば、「ネヴァーランド・クルージング」でフロアを横に揺らし、「黒にそめろ」を経てサイケデリックな「S.O.D.A.」へと繋げていった。全体としてタイプの異なる曲を繋げていき、心身もろとも聴き手を揺さぶるようなセットリスト。様々なタイプの楽曲を持っているバンドならばイベントの空気に寄せる選曲をすることも可能なはずだが、そういう選択をしないことによって、このバンドの多角的な魅力がより活かされていた。裏を返すと、SIX LOUNGE、The Hosomes――とロックンロール色の強いアクトが続き、ある程度会場の空気が固まった場面にこのバンドが配置されていたのは、旧知の仲であるAFOCからの「信頼」の表れなのでは、とも思う。


 変幻自在の髭サウンドに揺さぶられたフロアをさらにかき乱していったのがCHAI。双子のツインボーカル・マナ(Vo&Key)とカナ(Vo&Gt)によるハスキー気味のスウィートボイス。ユウキ(Ba&Cho)とユナ(Dr&Cho)によるゴリッとしたぶっといグルーヴ。ピンク色の衣装。シュールな歌詞。オーディエンスに対するいじり――ととにかく情報量が多い。短いステージの中にこのバンドの特殊性やメンバーのキャラクターが存分に詰め込まれていた。オーディエンスの様子を見る限りだとこの日初めてCHAIを観る人も少なくはなかったようだが、ラストの「sayonara complex」に差し掛かる頃には、音の波に身を委ね、身体を揺らす人の姿が多く見受けられた。


 続いては、AFOCとは10年以上の付き合いだというUNISON SQUARE GARDEN。アルバム『MODE MOOD MODE』リリース直後のためその収録曲が披露されたほか、「マスターボリューム」(2009年リリースのシングル表題曲)がライブで久々に演奏されたこと、斎藤宏介(Vo/Gt)が「(AFOCの)佐々木くんがバイトしていたフレッシュネスバーガーに行って、『おはようございます! 泥水のコーヒーください』と冷やかしに行ったら嫌な顔一つせずアイスコーヒーを出してくれた」というエピソードを話していたことがこの日ならではのポイントだろうか。1月末にツアーを終えたばかりというだけあって、バンドサウンドは緩急のレンジが広く、切れ味抜群。隅々まで神経の行きわたった演奏からはバンドの好調っぷりが窺えた。


 トリ前を任せられたLarge House Satisfactionは、「『A FLOOD OF CIRCUS』に悪さをしにやってきました!」と小林要司(Vo/Gt)の不敵な宣言からスタート。「出番が遅え! 酒が飲めねえ!」と悪態をつきつつ他バンドのライブを楽しんでいたのだとメンバーは話していたが、共演者に刺激を受けたのか、重心の低いリフにもしゃがれ声のボーカルにも気合いのほどがよく表れている。しかしそのサウンドはただ泥臭いだけではなく、ポップなメロディライン、小粋なコード進行などが時折光っているから心憎い。特に中盤に披露されたミドルバラード「ニヤ」の懐の深い響きは、初見のオーディエンスたちの意表をついたのでは。


 ここまでの6組を観て思ったのは、bloodthirsty butchers・吉村秀樹の言い間違いが元々の由来だったとはいえ、「A FLOOD OF CIRCUS」とは言い得て妙だなということ。「無責任なことを言いますが、みなさん好きなことをやってください。だって今日はサーカスでしょ?」という要司の言葉も象徴的だったが、例えば「どこだろうとライブハウスはライブハウス」という姿勢で臨んだSIX LOUNGE然り、ライブのやり方に関して独自の美学を持つUNISON SQUARE GARDEN然り、この日の出演者はバンドの“軸”にあたる部分を打ち出すライブをするような、何か一つの“芸”を持つバンドばかりだった。おそらくAFOCは出演バンドのそういう点に敬意を持っていて、付き合いの長さやバンドのキャリア、音楽的なジャンルなどではなく、“リスペクトできるかどうか”という点を基準に出演をオファーしていったからこそ、結果的に幅の広く、しかしイベントを通して観た時にどこか統一感のあるようなラインナップが実現したのではないだろうか。


 そして、本日のホスト・a flood of circle。すでにニュースも出ている通り、一般公募で選出されサポートを務めていたアオキテツ(Gt)の正式加入が、このライブ中に発表された。その時の「……入る?」(佐々木)、「軽いよおお! 入るよおお!」(アオキ)というやりとりは多くの人の記憶に残るであろう瞬間だったが、その直後、佐々木が言った「いろいろな歴史をひっくるめて進もうとしている」という話も印象深かった。なぜなら、この日の演奏がまさにそれを証明するようなものだったからだ。「フェルディナン・グリフォン・サーカス」(2010年)、「Dancing Zombiez」(2013年)、「泥水のメロディー」(2008年)、「NEW TRIBE」(2017年)とリリース時期の異なる曲を連続し、疾走した前半戦。弥吉淳二追悼の意を込めて佐々木が冒頭をアカペラで歌った「Honey Moon Song」。AFOCの得意技と新しい要素が絡み合う、UNISON SQUARE GARDEN・田淵智也プロデュースの新曲「ミッドナイト・クローラー」――。様々なギタリストに支えられ、愛されながら転がり続けたバンドの歩みを凝縮するようなライブのラストシーンで、メンバーに促される形でオーディエンスが歌声を張り上げる場面はあまりに感動的だった。


 終演後、会場外には4人揃った新バージョンのアーティスト写真がたくさん貼られていた。翌週にリリースされた8thアルバムが二度目のセルフタイトルだったのは、このタイミングでバンドが生まれ変わったから、ということだろう。4つ目のピースを取り戻したAFOCの快進撃が、ここから始まっていく。


■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。