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『金田一少年』や足利事件の要素も 『99.9』第8話に隠された“小ネタ以外”の面白み

2018年03月12日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 選挙事務所に届けられた羊羹を食べた議員の妻が重症になり、第一秘書が亡くなる。羊羹から検出された毒物と同じ成分の毒物を保有しており、羊羹の送り主でもあるメッキ会社の社長・西川五郎(おかやまはじめ)が逮捕され、起訴されるところから始まる3月11日放送の『99.9-刑事専門弁護士- SEASON II』第8話。最終回前の重要エピソードとなる今回は、今シーズンの中でもっとも“推理ドラマ”色の強いエピソードとなった。


参考:『99.9』最終回に出演する中島裕翔【写真】


 木箱に入った5個入りの羊羹の中からどれが選ばれるのか、そしてそれが4つに切り分けられた中から誰がどの部分を食べるのか。それを誘導することができる人物がおらず、無差別殺人の可能性が高い。それでも、死亡した秘書を殺害する動機を唯一持っていた議員の藤堂正彦(佐野史郎)の犯行だと証明するためには、どういう方法で毒入り羊羹を食べさせたのかというトリックを解明しなくてはならないのだ。


 羊羹から出た毒の成分が、被告・西川の会社が所有しているものと微妙に違うことを明らかにし、藤堂の異母兄弟が経営する会社のものだというところまでたどり着いた深山大翔(松本潤)。さらに藤堂が愛人に同じ羊羹を買わせていたことなどあらゆる状況証拠を固めていくが、裁判官の川上憲一郎(笑福亭鶴瓶)の巧みな話術によって証言があやふやなものとなり、西川はあえなく無期懲役の判断が下されてしまう。


 今回のエピソードでは判決の後にすべてを覆すという、これまでになかったタイプの展開が待ち受けていた。というのも、川上らが“あらかじめ決められた判決”に導くという描写が、最終回に向けての重要なファクターとなるからに違いないだろう。裁判員たちの評議の場面で川上は、鑑定の結果について論じようとする裁判員たちを誘導。法律の知識が乏しい一般人が参加する裁判員裁判で、もっとも危惧される状態が描き出されていたのは見逃せない。


 閑話休題、深山は羊羹ではなく、それを食べるための爪楊枝に毒が染み込ませてあったことに気がつく。しかも重症になった議員の妻も共犯で、疑われぬために致死量に満たない量の毒が塗り込まれた爪楊枝を使ったという体を張った犯行だったのだ。食べ物ではなく、それを食べるためのツールに毒が潜まれていたというのは、どことなく漫画『金田一少年の事件簿』の「銀幕の殺人鬼」での紙コップのトリックを想起させられてしまった。


 ところで今回のエピソードでは、ひそやかに司法の重要な問題についての言及があった。毒物の成分を再鑑定したぶっきらぼうな沢渡清志郎(白井晃)が登場する場面で、科捜研の方法では精度が低いという話題に触れ、斑目春彦(岸部一徳)は「確かにDNA鑑定のときもそうだったよね。犯人の該当者が12万人もいるようないい加減な方式だったのに、新しい鑑定方法を認めようとはしなかった」と語る。それは紛れもなく1990年に発生した「足利事件」のことだ。


 時代の流れとともに精度が増した鑑定によって、無期懲役が言い渡された男性の無実が証明された。事件当時は1,000人に1人の精度だった鑑定制度は、現在では4兆7,000億人に1人という高さまで飛躍的に伸びている。鑑定の精度が上がり、過去の判決が覆ることで揺らぐ司法の信頼性よりも、過去や現在、未来すべてを通して冤罪を生まないことが重要であることは言うまでもないだろう。


 クライマックスで無事に無期懲役の判決が覆り、現れた川上に深山が言い放つ「事実は最初からひとつでしたよ」という言葉の重さ。次週の最終回では「死刑囚の再審請求」が描かれるそうだ。必然的に、司法が下した過去の判決を覆す展開が予想される。またしてもこのドラマは、極めて重い「冤罪」というテーマでフィナーレを飾ることを選んだようだ。(久保田和馬)