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BTS(防弾少年団)、欧米圏での人気拡大の理由は? ネットを通してつながる“ファンドム”が鍵に

2018年03月12日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今年2月に、米ビルボードの表紙を飾り、PSY以来の韓国人AMAパフォーマーとなったBTS(防弾少年団)。彼らが北米で最も注目を浴びるきっかけとなったのは、『Billboard Music Awards 2017』のトップ・ソーシャル・アーティストの受賞だ。2017年リリースの「DNA」はHOT100で67位を記録し、PSYの「カンナムスタイル」に続く記録となった。RIAA(アメリカレコード協会)では「DNA」「MIC DROP」の2曲がGOLD認定されている。ワールドチャートではK-POPはチャート上位の常連であるが、その中でも特にBTSに注目が集まるのは、”ファンドム”の存在に鍵がある。


 ビルボード200で7位に入ったアルバム「LYS」の初週売上ポイントは1万9千であり、デビューシングル「NO MORE DREAM」の日本での売上の半分程度だが、同時にキャパ1万人前後の米国内ツアーも完売させている。つまり流動的ではない固定のファンが万単位でついているということだろう。


 ARMYという名称を持つ防弾少年団のファンドムは、デビュー当時からその名の通り韓国内でも献身的かつ過激なファンドムの一つとして知られている。欧米のファンは、韓国ファンのアティチュードを引き継ぎ、SNSなどでも熱狂的な様子を見せており、“インターネット火力”が強いファンドムを形成している。


 韓国ではアワードや音楽ランキング番組が多く、近年、一般的な音楽流通形態が月額制の音源ストリーミングメインに移行。アイドルファンがアワードやランキングのために“推しドル”の曲を無限に繰り返しストリーミングする「スミン」という行為がファン活動として一般的に行われている。日本では“CDを積む”のが一般的であるが、スミンはCD購入より金銭的負担は少ないため、まさに“ファンドムの頑張り次第”のファン活動と言える。


 一方、ビルボードやRIAAの換算基準は「純粋なアルバムの売上」というよりは「どれだけ聴かれているか」という点に重きが置かれている。2018年3月現在、ビルボードではアルバムに収録された楽曲のストリーミング合計1500回=アルバム1枚分として、RIAAでは1曲あたり100ストリーミング=1DLとして換算。ラジオでのエアプレイポイントやSportifyやYouTubeのような無料音源ポータルでのストリーミング回数もポイントに含まれるため、上記の「スミン」と、ある意味で非常に相性が良いとも言える。


 前述のとおり、BTSのファンドムはウェブ上での団結力が非常に強い。韓国のファンドムは、SNS上で主に国内ランキングに関係のある音源ポータルでのスミンを呼びかけるが、同様に欧米圏のファンアカウントがSportifyやYouTubeのストリーミング運動を奨励する姿も珍しくはない。2017年YouTubeが発表した「韓国内で最も視聴されたK-POP MV」のランキングではBTSは10位内に入っていないが、「世界で最も視聴されたK-POP MV」ランキングでは2位「DNA」、3位「NOT TODAY」、5位「春の日」と3曲ランクインしており、いずれも再生数は1億回越えだ。


 また、特に欧米のウェブメディア系アワードでよく行われているハッシュタグ活動も活発であり、こちらに関しては国境を越えてファンが団結した行動が、実際にビルボードのトップ・ソーシャル・アーティスト受賞として結実したとも言えるだろう。特に欧米や南米のファンドムはハッシュタグやストリーミングにはとりわけ熱心なようで、韓国のアイドルが頻繁に公演を行うアジア圏よりも実物を見る機会が少ない地域ならではの“ファン活動”なのかもしれない。


 この熱烈な行動力は、ファンドムの名称も相まって欧米圏では本人同様に注目を集めている部分もあるようだ。実際に欧米のメディアはビルボードアワードやAMAの時も会場に押し寄せたファンにインタビューをしたり、出演したラジオやTV番組でもファンドムに関する質問が必ずあった。ビルボード「ARMYが最高のファンドムである5つの理由」NYLON「ARMYを知ろう」などファン自体にスポットを当てた記事も少なくない。表紙になったビルボードマガジンのメンバー別カバーも、ファンドムを意識したリリース形式と言えるだろう。


 ではなぜBTSはこのような献身的なファンドムを、欧米エリアでも一定の規模で形成できたのだろうか。


 まず、以前より言われているバイラルマーケティングの結果的な成功が挙げられるだろう。BTSは大手事務所に所属しているわけではないため、当初TVでの露出に限界があったと考えられる。故に、ウェブコンテンツに力を入れざるを得なかったのかもしれないが、ウェブコンテンツは多言語化がファンの手で行いやすいため言語の壁を超えて少ないタイムラグで広がりやすい。ファン字幕の投稿が可能なV Liveでは1週間以内に15カ国語以上の字幕が投稿されており、これは他の人気グループと比較してもかなり多い方だ。


 しかし、それよりも大きいのはBTSがデビュー当時から毎年北米で何かしらのライブを行っていることではないだろうか。K-POPアーティストの来訪が少ない欧米のK-POPファンシーンでは、アメリカを中心に毎年開催されるKCONの存在が大きい。KCONはCJ E&Mが主催する海外向けのK-POP&Kカルチャー紹介イベントで、2017年度はロサンゼルスだけで3日間で8万5千人を集客するまでに成長した。イベントの目玉は複数の人気アーティストが出演するライブ公演であり、ここで初めて生でK-POPアーティストを見る人も多数いるはずだ。BTSはデビュー以降、2014~2016年のロサンゼルス、2016年のニュージャージー、2017年のメキシコシティと欠かさず出演しており、その他にも2014~2015年にはSCツアー、2015年のRed Bulletツアー、2017年のWINGSツアーと、定期的にアメリカでのライブ活動を続けている。他国でのライブ数と比べれば決して多くはないが、これだけ継続的に北米でライブを行っているグループは珍しい。さらに初期には現在よりも欧米のティーン向け音楽と相性の良いHIPHOPジャンルの曲が多かったため、デビュー直後からすでに欧米圏のK-POPファンからの注目度が高かった。その時期に地道に欧米でのライブを行った下地は大きいのではなかろうか。


 AMAでのライブや有名トーク番組への出演により、今BTSは一般層への認知も広がりつつある。しかし、2018年からはビルボードの集計基準からYouTubeやSportifyなど音源ポータルの無料プランでのストリーミングを除外することが発表されており、トロントの人気ラジオ局が企画したK-POP特集番組が、BTS以外の曲を流すなというファンドムの抗議により中止になるなど、一部過激な欧米圏ファンによる問題行動もニュースになってきている。このような環境の変化の中で、2018年はどのような動きが見られるのか、新たな欧米でのK-POP像を体現する存在として、今後もBTSの活躍から目が離せなさそうだ。(文=DJ泡沫)