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堺雅人×篠原涼子が語る、吉永小百合から学んだ役者の覚悟「分かったふりをせず、常に体当たりで」

2018年03月11日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『北の零年』、『北のカナリア』たちに続く、北海道を舞台に繰り広げられる“北の三部作”最終章『北の桜守』が現在公開中だ。吉永小百合が主演を務める本作は、1945年以降と、1970年代初頭がシンクロしながら、人々の記憶に残る“昭和”を映し出した人間ドラマ。終戦直後の北の大地で懸命に生きた母・江蓮てつと息子・修二郎が、長年にわたる別離を経て、家族の記憶を巡る旅に出る模様を描き出す。


 リアルサウンド映画部では、吉永演じるてつの息子・修二郎役の堺雅人と、修二郎の妻・真理を演じた篠原涼子にツーショットインタビューを行った。日本映画界の伝説とも言える吉永との共演の印象や、お互いの演技について、たっぷりと語ってもらった。


■堺「吉永さんと篠原さんが別々の魅力を放っている」


ーー2人は本作が初共演となります。お互いの印象は?


篠原涼子(以下、篠原):以前からご一緒してみたいと思っていた俳優さんなので、最初はすごく緊張しました。逆に私と違って、堺さんは常に冷静で全く緊張していないんです。だから私の緊張を見抜かれたらどうしようという思いはありました。でも、待ち時間も私がリラックスできるように話しかけてくださって、本当に助けられました。堺さんが演じる修二郎と同じように、強い意志で、演技も現場の空気も引っ張ってくださって、素敵だなと改めて思いました。


堺雅人(以下、堺):いえいえ、とんでもないです。篠原さんはすごく可愛らしい奥さんでした。


篠原:“可愛らしい”という年齢でもないですけど(笑)。


堺:そんなことないです(笑)。篠原さんが演じる真理は、台本を読んだときの印象よりもすごく可愛らしかったんです。吉永さん演じるてつとは違う生命力が真理に表れている。てつが“桜”だとすると、真理は“梅”のイメージ。色の桜に対して、香りを放つ梅の色気というか。2人が別々の魅力を放っているのが、この映画の大きな魅力になっていると感じました。


篠原:帰国子女でなおかつピンクの服ばかり着ているんです。それでキャラも濃いから、もうちょっとキャラを控えめにしてもよかったのかなと少し反省してます(笑)。


ーー母1人子1人の環境で必死に生き抜いた修二郎と、豊かな家庭で愛情を受けアメリカで育った真理は全く真逆な立場です。2人の馴れ初めは劇中では描かれていませんが、どういった経緯があったと考えますか。


堺:謎ですよね。修二郎はなぜ結婚したんですかね。


篠原:真理からすると、修二郎さんの仕事に対しての熱意や、お母さんへの思い、そんなところが尊敬できたんじゃないかな。もちろん、修二郎は真理に対してもものすごく愛情が深い。修二郎は会社の部下たちにも厳しくあたりますが、一方で誰に対しても愛がある。堺さんご自身もそういう方なのかなと感じました。


堺:喋りますね~(笑)。でも、自分では全然似ていると思いません。


篠原:でも、堺さんの仕事に対する思いや、家族に対する思いには力強さを感じるんです。その力強さは通ずるものがあるのかなと。


堺:それを言うと、真理と篠原さんも可愛らしさという点で通ずるものがあると思いますよ。真理の父であり、修二郎の上司でもある岡部大吉(中村雅俊)が、修二郎が経営するミネソタ24(※コンビニ)の視察にやってきます。でも、修二郎は母を追いかけて、その訪問をすっぽかします。真理がうまく誤魔化してくれればいいのに、あっさりお父さんに事実を報告する。あれは台本で読んだときは嫌なシーンだなと思っていたんです。でも、篠原さんが実際に演じるとイメージが全く変わりました。「ちょっと聞いてよ、パパ!」って(笑)。この手があったのかと。


篠原:そう言ってもらえるとうれしいです。「可愛くやっちゃって!」と滝田監督からアドバイスを受けて、思いっきりやりました(笑)。


■吉永小百合から学んだ役者としての責任


ーー滝田監督は現場では?


堺:僕は2003年公開作『壬生義士伝』でご一緒させていただいたのですが、滝田さんは本当に映画の現場を楽しんでいらっしゃるんです。あれだけの作品を手がけてきた監督なのに、慢心している様子はいっさいなく、子供のように現場を楽しんでおられて。知った気になって格好付けている自分が怒られているような感じがありました。


篠原:私の滝田監督作品のイメージは“力強さ”だったんです。でも、一緒にお仕事をさせていただくと、柔らかさと優しさをすごく持ち合わせていらっしゃいました。本作では、戦争の痛みを描いていますが、それを劇中劇に組み込んだり、今までにない新しい試みに挑戦されている。完成した作品を観たときは、その斬新さにびっくりしました。


ーー劇中劇はケラリーノ・サンドロヴィッチさんが演出を手がけるなど、まさに実験的な試みが行われています。舞台劇と通常のドラマが混ざり合う終盤のシーンには思わず涙が出てしまいました。


篠原:そう言っていただけるとうれしいです。私は堺さんと吉永さんが海に入っていく本作のクライマックスとも言える場面で涙が出ました。修二郎のお母さんを思う気持ちが溢れ出ていて、グッとくるものがありました。


堺:台本には、あの海の中で泣くと書いてあったんです。でも、涙が出なかった。そして、その後に病院で山岡さん(岸部一徳)に声をかけられるところで、なぜか涙が溢れてしまって。先にそのシーンを撮ってしまっていたので、どうしようかと思いました。


篠原:でも、とてもいいシーンだったと思います。私は堺さんが吉永さんとふたりで演じているシーンのほとんどでグッときていました。てつさんが、鏡の中の自分に向かって「久しぶり」と語りかけるシーンは、もう切なくて切なくて。


ーー吉永小百合さんは本作が120本目の出演作となるまさに“生きる伝説”です。親子役として共演されていかがでしたか。


堺:吉永さんはいるだけで芝居が成立します。1回、怒られるのを覚悟で2人のシーンでも喋らなかったんですが、吉永さんはしゃべらなくても“間”が持つんです。いつまでも見ていたい、本当にすごい俳優さんです。完成披露試写会の記者会見で、吉永さんは「私は素人ですから」とおっしゃっていました。吉永さんほどの大ベテランの方が、“素人”と自分を評する。それはすごいプロ意識の裏返しだと思います。分かったふりをせずに、常に体当たりで一つひとつの作品にぶつかる。その言葉に覚悟と役者として仕事をすることの重みを強く感じました。


篠原:私にとって吉永小百合さんは絶対に会えない人だと思っていたんです。共演なんて絶対にできないと。だから、一緒に演技をしたことはもちろん、義理の母と娘という形で共演できたなんて、今思い返しても信じられないぐらい幸せな時間でした。こういう仕事をしていると、謙虚な気持ちを持っていても、無意識のうちにそれが崩れてしまうこともあるじゃないですか。


堺:篠原さんは他の現場ではピュー(鼻が伸びていくジェスチャー)ってなってます?(笑)。


篠原:そうそう、だから(伸びた鼻を)チョキチョキしてくださいって感じで(笑)。


堺:(笑)。


篠原:そんな私とは全く違って、吉永さんは本当に謙虚なんです。仕事への向き合い方など、とても勉強になりました。吉永さん、堺さん、そしてスタッフ・キャストの方々と本作を作ることができたことを改めてうれしく思います。


(取材・文=石井達也)