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少女漫画原作映画はもっと評価されるべきーー『プリンシパル』が操る“理想と現実”の絶妙なバランス

2018年03月11日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今年も少女漫画の実写映画化は止まらない。ここ数年、毎年10本前後のペースで公開され、主要ターゲットとなる学生の長期休み期間をねらって公開されることが多い中、先陣を切って3月頭から上映が開始されたのが映画『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』。まったく奇を衒わない恋愛・友情エピソードの数々に、正統派“キラキラ映画”であると宣言したくなるほどだ。


参考: 小瀧望ver,も!『プリンシパル』4種類のキャラクター映像【動画】


 東京で居場所をなくした主人公・住友糸真(黒島結菜)が、離婚した父の暮らす札幌に引っ越し、転校先の学校で初日から校内ツートップのモテ男子2人の間で揺れ動く。「転校」に「学校一のモテ男子」、そして「俺様キャラ」と「王子様キャラ」の登場。さらにこれを単なる三角関係に留めず、友人や教師を交えた五角関係や六角関係に発展させたり、親同士の再婚によって片想い相手と突然家族になってしまったりと、少女漫画的要素のオンパレード。


 ストーリーラインこそ、いかにもな理想像を余すところなく詰め込みながら、それ以外の部分で現実的な部分を生み出していく。あたかも「少女漫画は理想郷に過ぎない」という冷めた考え方を忘れ去らせてくれるかのように。登場人物が誰ひとりとして完璧じゃなく、映画としては破綻しているのではないかと思えるほどにドロドロと交錯していく人間関係。“キラキラ映画”に欲しかったのはこういうリアリティーだったのかもしれない。


 2013年に公開された岡田将生と長澤まさみ主演の『潔く柔く きよくやわく』、昨年旋風を巻き起こしたドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)に続いての、いくえみ綾原作の実写化だけあって、その妙に慌ただしくもあざといほどのリアリティーがユニークで心地よく映る。転校早々に舘林弦(小瀧望)と言い争う糸真のセリフであったり、桜井和央(高杉真宙)と初対面シーンでのやり取り、国重晴歌(川栄李奈)が叫びながら廊下をダッシュするところも実にいくえみ作品らしい。


 それらと同時に本作にリアリティーをさらに強めるのは、ピンポイントで定められたロケーションだ。それも大都会・東京ではなく、地方都市・札幌という味わい。徹底して札幌市内で行われたロケーションは、大通り公園や藻岩山展望台などの観光名所から何の変哲もない住宅街、さらに冒頭の広大な雪原の様子まで幅広く札幌という街の魅力と空気感を映し出す。


 監督の篠原哲雄といえば夕張を舞台にした『スイートハート・チョコレート』、釧路を舞台にした『起終点駅 ターミナル』と、北海道の情景を捕まえるのに関してはお手の物だ(もしやこれらも“北の三部作”と言っていいかもしれない)。観光要素と地元民に感化させる光景を織り交ぜ、さらにTEAM NACSのリーダー森崎博之もメインキャストで出演するという、生粋の“ご当地映画”としてのイメージづくりは、“理想郷”だった少女漫画の世界と観客との距離をより近いものにさせる。


 もっぱらこの3月にはバリエーション豊かな少女漫画原作映画が毎週のように公開されていく。幅広い年代層をターゲットに据えた広義の少女漫画で音楽青春映画の『坂道のアポロン』に、恋愛そっちのけで部活に熱を上げる『ちはやふる -結び-』、そして恋愛要素だけにフォーカスを置き理想郷としての“キラキラ映画”を貫く『honey』。それ以降も人気の高い作品が相次いで映画化されるだけに、そろそろ一種のプログラムピクチャーとしてのニュアンスで、これらの作品群が高く評価されてもいいのではないだろうか。(久保田和馬)