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井浦新×「Lemon」が切ない 『アンナチュラル』ラストへ向けて鳥肌級の伏線回収を見せる

2018年03月10日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 第1話放送前の1月9日に行われた『アンナチュラル』(TBS系)の制作発表会見で、「本当にいろんな伏線が張り巡らされていて……」とUDIラボの所長・神倉保夫役を務める松重豊から絶賛されていた野木亜紀子が手掛ける本作の脚本。それからちょうど2か月後の3月9日に放送された第9話「敵の姿」では、至る所に張り巡らされた伏線が、最終回を迎えるにあたり徐々に回収されていった。


参考:写真と振り返る『アンナチュラル』第9話


 今回UDIラボに運び込まれてきたのは、スーツケースの中から発見された若い女性の遺体。しかも、中堂系(井浦新)の死んだ恋人・糀谷夕希子(橋本真実)の口内にもあった、“赤い金魚”と呼ばれる魚の形をした印が入っていた。これまでに共通の印を持つ遺体は3体見つかっており、UDIラボは連続殺人だと毛利忠治刑事(大倉孝二)に訴えるが、正式な証拠がないと訴えを却下される。それでも三澄ミコト(石原さとみ)たちは、犯人につながるヒントを見つけるため、死因究明を進めた。


 ここで今回明かされた“赤い金魚”事件の犯人について述べる前に、一旦前回の第8話を遡ってみたい。雑居ビルの火災で亡くなった10体の遺体の謎を解明した第8話では、事件と同時進行で、UDIラボに預けられている妻の遺骨を頑なに引き取らない、ごみ屋敷の老人(ミッキー・カーチス)の姿も描かれた。


 同回では、ろくな亭主じゃないから妻が死んだのだと自責の念に駆られていた老人に、神倉は「死ぬのにいい人も悪い人もない。たまたま命を落とすんです。そして私たちはたまたま生きている」と熱弁したのが印象的だったが、実はこのせりふが今回の伏線になっていたのだ。


 本題に戻ると、“赤い金魚”事件の犯人は、前回のビル火災唯一の生存者・高瀬(尾上寛之)。“たまたま生き延びてしまった”高瀬は、アルファベット表を埋めるために殺人を犯してきた人物だった。作家アガサ・クリスティの小説『ABC殺人事件』を彷彿させる設定だが、彼は不気味な笑みを浮かべ、表の最後の欄“A”に「Asunder(バラバラ)」の文字を記入する。


 しかしひとつ気になるのが、表にある各アルファベットの筆跡だ。SNS上でも話題になっているが、それぞれで文字の太さや形が異なっている。もちろん小道具を作った際にたまたま違うスタッフが表を埋めていった可能性はあるが、もしかすると犯人は高瀬だけではなく、複数人おり、最悪26人いる見込みすら立てられる。ちなみに、『ABC殺人事件』は真犯人が殺人を隠すために、別人に暗示をかけて殺させていたというトリックだった。


 これまで二転三転するストーリーと疾走感で、視聴者の読みを見事裏切ってきた野木脚本。10分拡大で放送される最終回でも、きっと一筋縄ではいかないのであろう。


 また、特に今回印象的だったのは、米津玄師による主題歌「Lemon」のタイミングだ。いつもなら死因が判明した終盤の絶妙なタイミングで流れる同曲は、第9話の中盤で中堂系(井浦新)の死んだ恋人・糀谷夕希子(橋本真実)との回想シーンに挿入された。これまでも「夢ならばどれほど良かったでしょう」という歌詞はストーリーとリンクしてきたが、その後に続く「未だにあなたのことを夢に見る」という部分は、夕希子が殺される瞬間の夢を何度も見ると言う中堂の心情とマッチ。さらに、何たる偶然だろうか。レモンの花言葉は“誠実な愛”だ。


 中堂の口ぐせ「クソ」は、夕希子と出会う前から使われていたりと微笑ましい過去が明らかになる一方、夕希子を失ってからこれまで“赤い金魚”を探し続け、今回犯人探しのために全力疾走する彼の姿から感じられたのは、まさに“誠実な愛”。第10話では、殺人の証拠がない中、高瀬を殺人罪で裁くため検証を続けるUDIラボの姿が描かれる。今まで穿いてきた“誠実な愛”のためにも、彼がどうか報われる展開になることを祈るばかりだ。あと1週間で、『アンナチュラル』が放送されない“クソ”な世界が訪れてしまうことが、心から残念でならない。(阿部桜子)