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米津玄師、『アンナチュラル』主題歌は新たな転機に? 脚本家 野木亜紀子氏との対談から紐解く

2018年03月08日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「職人になりたい」ーー3月4日に放送されたラジオ特番『米津玄師×野木亜紀子アンナチュラル対談』(TBSラジオ)で、米津玄師が語った言葉だ。


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 DAOKO×米津玄師名義でリリースした「打上花火」や、菅田将暉を迎えた、アルバム『BOOTLEG』収録曲「灰色と青(+菅田将暉)」など名曲を生み出し続けている米津。ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の中で実に絶妙なタイミングで流れる新曲「Lemon」は、新たな転機となりそうだ。


 先述した番組では、米津の口からそんな「Lemon」の制作秘話やドラマとの接点が語られた。米津にとって初のドラマ主題歌である「Lemon」。実はサビの最後を一度録り直していたという。“不自然な死”を扱う『アンナチュラル』にはシリアスな場面も多いが、暗くなりすぎず、毎回どこかに笑えるシーンも盛り込まれているのが魅力の一つだ。「ポップな側面が自分の中に少なかったというか、このままだと暗くなってしまう」という不安から、録り直しという判断に至ったという。米津のプロ意識の高さが滲み出た楽曲と言えるだろう。


 また本来であれば一気に集中して楽曲を作るという米津だが、ツアーの合間に少しずつ制作を進めていたところ、祖父の死をきっかけに「そこまで積み上げてきた、自分の中の“人が死ぬ”ことっていう価値観が一回ゼロになった」と語った。こうした言葉の端々から“不自然な死”を解明することで、残された人を救おうとする『アンナチュラル』に寄り添おうとする姿勢が窺える。「自分の曲であると同時にドラマの曲でもある」という言葉には、決意のようなものを感じた。


 「あんまり芸術とかアートという言葉が好きじゃなくて。そのものを否定するわけじゃないけど、自分の身の回りのミュージシャンとか見ててもそこに逃げ込む奴が多すぎる」、とは冒頭の言葉に続いた米津の発言だ。歌うこと、絵を描くこと、踊ること……様々な表現に挑戦し続ける彼には、シンガーソングライターという言葉では当てはまらない存在感がある。


 番組で松任谷由実の「ハローマイフレンド」に大きく影響を受けたと明かした「Lemon」は、ドラマ中の流れるタイミングやストーリー展開によって、ミコト(石原さとみ)、中堂(井浦新)、六郎(窪田正孝)など、異なるキャラクターの視点から歌われているように感じる。<夢ならばどれほどよかったでしょう>という冒頭の切ない歌詞に、それぞれの思いがこもっているようで毎回胸が締め付けられる。これも彼の“職人”技と言えるだろう。


 “頭の中で鳴っている”から、と人の声をサンプリングしたサウンドを曲中に入れ込むなど、テクニカルな一面も見せながら、「普遍的な音楽を作りたい」と語った米津。毎週作品を盛り上げると同時にお茶の間に浸透しつつある「Lemon」は、その目標に達した楽曲であり、彼にとって一つのブレイクスルーとなりそうだ。(村上夏菜)