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米国ではヒーロー映画史上1位確実? 『ブラックパンサー』の日本興行はどこまで伸びるか?

2018年03月07日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 マーベル・シネマティック・ユニバースの新作『ブラックパンサー』、クリント・イーストウッド監督の新作『15時17分、パリ行き』、そしてアカデミー賞作品賞最有力候補との前評判の高かった(そして先日見事に受賞した)『シェイプ・オブ・ウォーター』。2018年を代表する3作品の公開日が重なった興奮で、映画ファンが浮き足立っていた先週木曜日の映画サービスデー。もっとも、その週末の興行を圧倒的な強さで制したのは土曜日公開の『映画ドラえもん のび太の宝島』だった。


参考:社会現象にまでなった『ブラックパンサー』は何が画期的だったのか? 背景にある社会状況から考察


 配給の東宝に所属する川村元気が脚本を担当、星野源による主題歌も話題となっている『映画ドラえもん のび太の宝島』。土日2日間の動員は71万7000人、興収は8億4300万円。これは昨年同時期に公開された『のび太の南極カチコチ大冒険』との動員比、興収比いずれも約122%という成績。1980年から始まる長寿シリーズの映画版『ドラえもん』だが、2015年の『のび太の宇宙英雄記』から3年連続で興収は右肩上がり。前作はシリーズ最高興収の44億3000万円を記録したばかりだが、今回の『のび太の宝島』は作品の評判も非常に高く、シリーズ記録の更新、そして初の興収50億円突破が期待できる絶好のすべり出しとなった。


 2位の『ブラックパンサー』の土日2日間の成績は動員19万9000人、興収3億1000万円。初日の木曜日からの4日間累計では、動員34万3000人、興収5億300万円。ブラックカルチャー全般への関心や理解が遅れている日本での成績としては、十分健闘しているといっていい数字だろう。直近のマーベル・シネマティック・ユニバース作品『マイティ・ソー バトルロイヤル』との興収比では、土日2日の成績で134%。初の黒人監督による黒人ヒーロー映画であることから比較されることも多い、初の女性監督による女性ヒーロー映画『ワンダーウーマン』(DCエクステンデッド・ユニバース作品)との興収比では、同じく土日2日間の成績で116%。『マイティ・ソー バトルロイヤル』も『ワンダーウーマン』も金曜公開だったことをふまえると、公開3日目以降が週末と重なった今回の『ブラックパンサー』の成績は、それらの興収比以上のポテンシャルの高さを示している。


 もっとも、米国ではそんな日本人観客の想像を絶するほどの『ブラックパンサー』フィーバーが現在も継続中だ。公開3週目の週末で興収5億170万ドル(約552億円)に到達し、2015年の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』を超えて2012年の『アベンジャーズ』1作目に次ぐアメコミ映画歴代2位に。驚異的な2週目以降の興行持続力で早くも歴代トップ10作品(現時点で歴代9位)となった『ブラックパンサー』が、歴代6位の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』や歴代5位の『アベンジャーズ』を抜くのも時間の問題だ。


 『ブラックパンサー』の歴史的ヒットは、その勢いに少しでもあやかるために、既に発表していた『アベンジャーズ』最新作『インフィニティ・ウォー』の全米公開日をディズニーが急遽1週早めるという事態にまで発展している。マーベル最強のカードはヒーロー大集合の『アベンジャーズ』シリーズ、単独ヒーローで最も興行価値が高いのは『アイアンマン』シリーズというマーベル・シネマティック・ユニバースにおける長年の不文律を、シリーズ1作目ですべて引っくり返してしまった『ブラックパンサー』。日本でも着々とファン層が広がってきたマーベル作品だが、実は近作の世界興行はどの作品も頭打ちの状況にあった。その停滞感を完膚なきまでに打ち破った今回の『ブラックパンサー』、そして少し気が早いが来年3月に公開される女性ヒーロー作品『キャプテン・マーベル』(ブリー・ラーソン主演)の登場で、マーベル・シネマティック・ユニバースは激変していくことになる。今回の『ブラックパンサー』がどれだけ日本でヒットするかが、今後の日本におけるマーベル作品の命運を分けるといっても過言ではないだろう。(宇野維正)