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西川貴教がアニソンシーンに示した新たな指標 『Fate/EXTRA Last Encore』主題歌から読む

2018年03月07日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年3月7日、J-POPおよびアニメソングのシーンに新たなメルクマールとなるだろう作品が誕生する。T.M.Revolutionの西川貴教が本名名義の新ボーカル・プロジェクトにて、人気作『Fate』シリーズのスピンアウト作品となるTVアニメ『Fate/EXTRA Last Encore』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマ「Bright Burning Shout」をリリースするのだ。T.M.Revolutionとして20年以上もの間、シーンの最前線に立ち、みずからの音楽性を研磨してきた彼が、なぜここにきて新たに本名名義で勝負に出るのか? そして西川が『Fate』シリーズの主題歌を歌う意義とは? ここでは彼とアニソンのこれまでの関係性を振り返りつつ、「Bright Burning Shout」という作品の魅力について考察していきたい。


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 西川がソロプロジェクトのT.M.RevolutionとしてCDデビューしたのは、1996年5月のこと。新人ながらも一定の注目を集めていたが、そこからさらにブレイクスルーするきっかけを作った楽曲は、実はアニメソングだった。それが『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』のエンディングテーマに起用された「HEART OF SWORD ~夜明け前~」(1996年11月リリース)だ。力強さと哀愁味を併せ持った同曲のスマッシュヒットによりチャンスを掴んだ彼は、その後に「HIGH PRESSURE」「WHITE BREATH」「HOT LIMIT」といったシングルを次々とヒットチャートに送り込み、人気を盤石のものとする。


 『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』と言えば、JUDY AND MARY「そばかす」や川本真琴「1/2」、SIAM SHADE「1/3の純情な感情」といったヒット曲を生み出し、いわゆるアニソン専業ではないアーティストがプロモーションの一環としてアニメのテーマ曲を担当する、90年代のアニメタイアップブームを牽引した作品として知られる。その中においても「HEART OF SWORD ~夜明け前~」は、主人公の緋村剣心の名前にあやかって曲タイトルをつけるなど、作品の世界観に寄り添ったアプローチが取られていた。これは西川がその頃から、アニソンというものの在り方に対して意識的だったことの表れと言えるだろう。


 そしてT.M.Revolutionとアニソンの関係を語る上で、さらに重要な作品が『機動戦士ガンダムSEED』だ。彼は本作の第1期オープニングテーマ「INVOKE -インヴォーク-」(2002年10月リリース)と挿入歌「Meteor -ミーティア-」(2003年3月アルバム『coordinate』収録)を、続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』でも第1期オープニングテーマ「ignited -イグナイテッド-」(2004年11月リリース)と挿入歌「vestige -ヴェスティージ-」(2005年8月リリース)を歌唱。オープニングでは疾走感のあるデジタルサウンドでアニメの始まりを熱く盛り上げ、挿入歌ではエモーショナルなバラードで劇中の複雑な人間模様を感動的に演出した。なお、「INVOKE -インヴォーク-」や「Meteor -ミーティア-」が収録された6枚目のアルバム『coordinate』には、『機動戦士ガンダムSEED』の世界観と共振するテーマが随所に散りばめられており、同アニメがT.M.Revolutionのアーティスト活動にとっていかに大切な作品だったかをうかがい知ることができる。


 その後も2005年に結成した自身がボーカルを務めるバンド、abingdon boys schoolでの活動と合わせて、多数のアニメタイアップ曲を歌ってきた西川。特に『戦国BASARA』シリーズのテーマ曲に起用された「FLAGS」「The party must go on」における和楽器を取り入れたサウンドは、彼自身のアーティスト性の更新にも繋がったはずだ。また、ニューメタル系のヘヴィーなバンドサウンドが持ち味のabingdon boys schoolで、『D.Gray-man』や『DARKER THAN BLACK』シリーズのテーマ曲を担当したことにより、その力強いハイトーンボイスは、陰のあるアクション作品とも相性が良いことを実証してみせた。


 そんな彼が今回、西川貴教名義でオープニングテーマを歌う『Fate/EXTRA Last Encore』は、『Fate』シリーズから派生したPSP®用ゲーム『Fate/EXTRA』を原作とするTVアニメ作品。『Fate』シリーズでは、サーヴァントと呼ばれる強大な力を持った英霊と彼らを使役する魔術師が、どんな願いも叶う「聖杯」を巡って繰り広げるバトルロイヤルが物語の主軸となる。『Fate/EXTRA』も基本的な世界観はそれらに準じているが、シリーズの原点となる『Fate/stay night』とは世界軸を異にするパラレルワールドで、舞台も2032年の月面という設定。しかも『Fate/EXTRA Last Encore』では、『Fate』シリーズの生みの親である奈須きのこの脚本により、原作ゲームとも異なる新たな“月の聖杯戦争”が描かれているのだ。


 このように挑戦的な試みが取られた作品だからこそ、オープニングテーマにも過去の『Fate』シリーズのイメージを刷新するようなアーティストの起用が必要だったのだろう。過去にアニメ化された『Fate』作品(『Fate/stay night』『Fate/Zero』『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』『Fate/Apocrypha』など)は、いずれも女性歌手が主題歌を歌ってきたが(しかもタイナカサチ、LiSA、藍井エイル、春奈るな、綾野ましろ、ASCAら当時の新人の起用率が高い)、ここにきてもはや英霊クラスのベテラン男性歌手である西川貴教を作品の顔役であるオープニングに据えたのには、そういった意味合いもあるはずだ。


 加えてそれは、西川にとっての挑戦でもある。今回のシングルでは、過去のキャリアではクロスすることのなかった作詞家/作曲家と新たにコラボすることによって、アニメの作品世界とより密接にリンクしようとする試みがなされているのだ。まず表題曲「Bright Burning Shout」においては、同アニメの劇伴も担当している神前暁(MONACA)が作曲/編曲を務め、自身のバンド活動と並行して数々のアニソン制作に携わってきたUNISON SQUARE GARDENの田淵智也を作詞に起用。T.M.Revolution名義では一貫して浅倉大介に作曲を委ねてきた彼だけに、いわゆるアニメ音楽界隈で活躍するクリエイターとのタッグは極めて珍しい(編曲では過去に菅野よう子やTom-H@ck、kzを迎えたことがある)。


 そしてやはり、数々のアニソン名曲を生んできた両者との邂逅は、西川の音楽に劇的な変化をもたらした。「Bright Burning Shout」での重厚極まりないギターサウンドと壮大なストリングスが織りなすドラマティックなハードロックは、主役の歌声からかつてない程の熱量を引き出しているし、細かに上下しながらもストレートに刺さるメロディ、溜めを活かしたメリハリだらけの曲展開も、西川の圧倒的なボーカリゼーションがあればこその絶妙なバランスを保っており、聴き手にテクニカルな快感を与えてくれる。田淵の歌詞もいつになく真っすぐな言葉で、〈無情すぎる世界〉とその中にあって決して消えることのない〈信念の灯〉を表現しており、まさに“聖杯戦争”さながらの信念のぶつかり合いを彷彿させるものだ。


 カップリングの「awakening」もまた、『Fate/EXTRA Last Encore』に寄り添った一曲と言えるだろう。どこか哀切な表情を感じさせる優美なワルツから一転、サビで一気に激情感を増すパワーバラードを作曲したのは、表題曲と同じく神前暁。歌詞を書いたのは、アプリゲーム『Fate/Grand Order』の楽曲「清廉なるHeretics」などを手掛けた毛蟹で、〈喝采〉や〈赤い導き〉といった言葉に、本編の主役のひとりであるセイバーのイメージが重なる。悲壮感を纏いながらも力強く突き進む西川のその歌は、〈新たな夜明け〉をめざして戦い続ける彼女に向けたものなのかもしれない。


 このように『Fate/EXTRA Last Encore』という作品と真摯に向き合って楽曲制作に取り組むことにより、T.M.Revolutionにおけるデジタル志向のハードなサウンドとも、abingdon boys schoolでのミクスチャースタイルのヘヴィーロックとも異なる、新たなシグネチャーモデルを獲得した西川。それはかねてよりアニメファンとして知られ、公私を通じてアニメ文化に情熱を注いできた彼だからこそできたことなのかもしれない。従来の活動に固執することなく、常に新たな挑戦を続ける西川ならば、今後も名義を問わずさまざまな“革命”を実現してくれることだろう。


■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。