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小瀧望、作品引っ張る役を演じ切る“強さ” 青春を駆け抜けるような『プリンシパル』の構成を紐解く

2018年03月07日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 累計発行部数150万部突破の人気少女漫画『プリンシパル』(集英社)が、旬の若手キャストを迎え実写映画化された。本作では、ヒロインの住友糸真役を黒島結菜が、その友人の国重晴歌役を川栄李奈が演じている。友人同士という役柄の黒島と川栄は、TBS系ドラマ『ごめんね青春!』でも同様に同級生役を演じており、息の合った演技でクライマックスを盛り上げた。川栄は、『ごめんね青春!』からは雰囲気の違う役柄での黒島との共演ながらも、恋が絡む女同士の友情の切なくゆらぐ様子を体当たりで演じ切っている。黒島もそれに対し、誠心誠意応えようとする演技で女優としてのポテンシャルの高さを感じさせた。


参考:【インタビュー】黒島結菜×高杉真宙が語る、同学年キャスト集まった『プリンシパル』の裏側 「小瀧さんに引っ張ってもらった」


 主人公の糸真は、東京の高校に馴染めず逃げるように北海道の高校へと転校。そこで出会った俺様系の舘林弦(小瀧望)とゆるふわ系の桜井和央(高杉真宙)と仲良くなるが、学校イチのモテ男の2人と距離が縮まることで、また女子から距離を置かれてしまう。一方、転校初日から仲良くしてくれていた晴歌も弦に恋心を抱いており、弦たちと距離を縮める糸真を快く思わず2人の間には亀裂が入る。


 作品の導入部分では、糸真が弦の強気な態度に反発しながら、優しく穏やかな和央に惹かれていく様子が描かれていく。それは弦と和央の友情、始まったばかりの糸真の小さな恋心しか絡まない些細な日常であった。しかしその後、意図せず和央との恋のタイミングがずれて弦と糸真の友情が育ち始めてゆく。それは和央から借りたマフラーを直接本人に返せなかったり、晴歌からのいじめで心を痛めていた糸真を弦が慰めたりなど、小さなタイミングだった。しかし恋愛においてこのちょっとしたタイミングは恋の舵を大きくきることとなる。


 糸真は気がつかないうちに弦に惹かれていくようになるのだ。それが恋なのか、友情なのか、定かではないままに想いは募る。しかし弦の姉・弓(谷村美月)のピアノの発表会やキャンプでの出来事で次第にその想いは浮き彫りになっていくのであった。


 糸真が惹かれていく弦というキャラクターは、実は演じることが非常に難しい役だったのではないだろうか。言葉の強さのせいで、どうしても印象が悪くなってしまいそうに思えた。しかし小瀧は、語気の強さやそっけない態度とは裏腹に、愛情深く誰も傷つけないようなまっすぐな人である弦という役を好演した。時に寂しそうに、時に心を痛めたような顔をしながら、和央とも糸真とも晴歌とも、まっすぐに接してきた。弦は本作の中で、実は誰よりも多くのことを受け止めた役であり、弦を演じた小瀧は、初主演でありながらしっかりと全体を引っ張る役を演じ切る強さを見せた。


 このように役者の強さにリードされながら、本作は、恋に落ちて、自覚するまでの描写が丁寧すぎるほど綿密に描かれていた。人は誰かを好きになってすぐ、大好きだと自覚するわけではない。嫉妬したり、焦れったく思ったり、ふとした生活で思い出したり、そんな些細なことを繰り返して強く惹かれるようになる。本作はその様子を糸真の家庭環境や、高校内での人間関係を器用に絡めながら、1本の糸にしていくように糸真の真実の気持ちへと導く。そこでは弦自身が、そして和央や晴歌など周りを取り巻く友人たちが時にそっと手を取り導き、時に強引に背中を押してくれる。まさに青春を駆け抜けるような作品である。


 また、物語の中盤では、糸真が気持ちを伝えても、物語は彼女が思うように進展しない。そして最後の最後にやっとお互いの愛を確認し合うような構成である。これは従来ディズニーがプリンセス映画で使ってきたお約束の展開と類似しており、『リトル・マーメイド』でのアリエルとエリックや、『塔の上のラプンツェル』のラプンツェルとフリンなど、真実の愛にたどり着くまでに紆余曲折を経ている。王道のプリンセス映画の構成を使用した本作はまさに、多くの女性にとってもより魅力的に映る。


 北海道の大自然の中でみずみずしく描かれ、素直になれない弦と糸真を応援する周囲の人たちの愛情は、高校生という若さならではの勢いと強さがある。恋が始まるところ、そして結ばれていく様子が丁寧に描かれ、春の訪れに似合う爽やかな作品になったのではないだろうか。


(Nana Numoto)