2018年03月06日 10:32 弁護士ドットコム
「詰め将棋アプリをつくりたいんですけど、書籍やネットの問題を掲載したらダメですか」ーー。こんな質問が弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。
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誰かがつくったものを「パクる」なんてもってのほか、と思うかもしれないが、この話題は意外に厄介だ。というのも、著作権法で保護されるのは「創作的な表現」であって、「アイデア」は対象外だからだ。
詰め将棋はどちらにも当たりそうで悩ましい。保護の対象になるかを伊藤雅浩弁護士に聞いた。
そもそも棋譜自体は、著作権法で保護される「著作物」ではないという見方が強い。「対局者の思想感情が表現されたものではない」(伊藤弁護士)からだ。
そのため、新聞や書籍にある棋譜をネットに再現しても著作権侵害にはならないと考えられる。「ただし、棋譜と一緒に掲載されていたコメント、解説などを無断で掲載すれば著作権侵害になり得ます」
ネットでは、将棋の「実況」が行われることもある。2017年には「朝日杯将棋オープン戦」で、主催の朝日新聞が「棋譜中継(編注:実況)は権利の侵害に当たります」と実況の中止をツイッターで呼びかけて話題になった。
「著作権侵害には当たらないでしょうが、対局の中継は、スポンサーと日本将棋連盟との間の契約によって独占的に許諾されたものであると考えられます。そのような法的地位を害するということになれば、不法行為責任を問われることはあり得ると思います」
では、「詰め将棋」はどうだろうか。「対局の棋譜と異なり、著作物性が認められる可能性は高いと思います」と伊藤弁護士。
詰将棋そのものの著作物性について判断した裁判例は見当たらないそうだが、パズルの著作物性が争われた裁判例(東京地裁平成20年1月31日判決)が参考になるという。
「著作権法は、表現を保護する法律であって、アイデアは保護しないとされますが、パズルの場合、アイデアの部分も多くを占めているため、なかなかその区別は難しいと思います。
この裁判例では、天秤のつり合い状態から物の重さ順を答えさせるという定番のパズルにおいて、問題の創作性を認めました。モチーフとなる連立方程式の組み合わせ(出題可能性)は無数にあれども、特定の連立方程式を採用してビジュアル化(出題)したということについて、表現の幅があると判断したのです。
これを詰将棋になぞらえていえば、初期状態の駒の配置は無数に考えられますが、その中で一定の作者の意図(合い駒、捨て駒等)に見合った形を選択していることから、全体として作者の個性が表れた創作的なものだといえるでしょう。
もちろん、詰将棋の中にも、超定番となった基本形のようなものがあり、そうしたありふれたものについては著作権が認められないと思います。ですが、それは音楽など他の表現についても同じです」
それならば、詰め将棋アプリで他人の問題を使いたい場合はどうしたら良いのか。
「本人の許諾を得る必要があります。作者の許諾を得ていない場合、著作権侵害と評価される可能性が高いことに留意しなければなりません。
すでに、詰将棋アプリとしては『スマホ詰将棋パラダイス』が有名ですが、こちらは詰将棋作家からの投稿が基本であり、作家から許諾を得て採用しています。
また、全日本詰将棋連盟は、詰将棋の引用・転載についての指針を公表していますが、これは同団体の指針に過ぎないので、あらゆる詰将棋について、この指針に従えば問題ないというわけではありません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
伊藤 雅浩(いとう・まさひろ)弁護士
工学修士(情報工学専攻)。アクセンチュア等の約8年間コンサルティング会社勤務を経て2008年弁護士登録。システム開発、ネットサービス等のIT関連法務を主に取り扱っている。経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」研究会メンバー。
事務所名:シティライツ法律事務所
事務所URL:http://citylights.law/