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号泣から挙動不審まで ピカイチな表情を連発する『海月姫』芳根京子の巧さ

2018年03月06日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 倉下月海(芳根京子)のデザインの才能に目をつけた実業家カイ・フィッシュ(賀来賢人)の登場により大きく揺れ動く人間模様。これまでハイテンションのまま猛スピードで駆け抜けてきたフジテレビ系月9ドラマ『海月姫』は、3月5日に放送された第8話でクライマックスへ向かう前の一時的な遷緩点を迎えた。


参考:写真と振り返る『海月姫』第8話


 稲荷翔子(泉里香)の計画通りに天水館の売買契約が成立し、立ち退きを余儀なくされた“尼~ず”。それを見た月海は、カイ・フィッシュからの誘いを受ける代わりに天水館を買い取ってもらうことを思いつき、デザイナーとしてシンガポールに旅立つことを決意する。天水館が守られても、仲間がいなくなる寂しさに悲しみに暮れる“尼~ず”。そして鯉淵蔵之介(瀬戸康史)は何としてでも月海を奪還しようとする。


 いつも通りキャラクターの個性の強さは発揮されながらも、弾ける雰囲気はなく、終始しおらしい雰囲気が漂った今回。笑いを生み出す役割を果たしたのは、日本で起きていることを知らずに悠々とヴェネチア観光を満喫している修(工藤阿須加)の姿と、彼が買って来たエンゲージリングの(あまりにも)ダサいデザインをけなす花守(要潤)や稲荷の姿にとどまった印象だ。


 しかしながら、天水館を失うかもしれないというピンチから解放されながらも、仲間である月海の存在の重要さを実感する“尼~ず”の姿には、彼女たちの結束感の強さを改めて実感させられるものがある。そして利害関係が一致し、まさかのタッグを組む蔵之介と稲荷の反りの合わなさも同様に。


 そんな全体的にしおらしいムードのエピソードだからこそ、月海を演じる芳根京子の演技のコントラストはより一層明確化する。序盤は天水館が売られるという不安と、修に連絡が取れない不安に駆られ、血相を変えながら鯉淵家を訪ねる月海。カイ・フィッシュの誘いを受けてからの彼女は、より一層おとなしさが増していくのだ。


 しかしながら、軟禁されているホテルに蔵之介が訪ねてくるシーンでの彼女だけは、これまでのこのドラマのテイストを徹底的に死守。まさにピカイチとも言える表情を連発するのだ。大量にルームサービスを注文している蔵之介に慌てふためく挙動不審な動きから、“尼~ず”の仲間たちを思い出して込み上げてくる感情を無理やり抑えながら「嘘ではありません」と、作り笑いまで。


 感情の転換をスムーズに行い、ナイーブな感情を露わにする場面とネガティブな感情が一切ないハイテンションさを切り替えて行く彼女が、風呂場で倒れた蔵之介を助けるときにメガネを外す瞬間の表情はまさにピーク。その後のラブストーリーの進展をうかがわせる場面と、ラストの号泣と比較すればなおさらに、ホテルの一室での彼女の喜劇演技は輝きを増している。(久保田和馬)