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アイドルネッサンスのラストライブに詰まっていた、“今この瞬間が永遠であってほしい”という願い

2018年03月04日 18:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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<アイドルネッサンスへ、「届けようとしてないのかもしれない手紙」。>


 クラスの中では決して目立つ存在ではないけれど、自分にとっては世界一かわいい、初恋の女の子。


(関連:アイドルネッサンスが初オリジナル曲を歌う意味ーー「交感ノート」お披露目ライブを観た


 教室の隅で文庫本を読んでいたあの子、通学電車の毎朝同じ車両で見かけていたあの子、合唱コンクールでピアノを弾いていたあの子。


 いつかどこかで出会っていた、幻想の中の初恋相手、アイドルネッサンス。


 夢は目覚めたら終わる、学校は誰もがいつか卒業してゆく。


 2018年2月24日、 横浜ベイホール、アイドルネッサンスラストライブ、『ヨコハマで感謝するネッサンス』。


 半袖夏服で迎える卒業式。最後の挨拶は卒業式の答辞を思わせたけれど、大袈裟なセレモニーはなく、ただただ「良い音楽」を届けること、シンプルに良いパフォーマンスすることに集中していた。


 古今の楽曲を歌とダンスで表現する「名曲ルネッサンス」をライブで披露するのもこの日が最後。彼女たちがパフォーマンスすることによって楽曲は生まれ変わる。


 名曲たちの歌詞も、最後のステージではさらに特別な意味を帯びる。


 「太陽と心臓」(東京スカパラダイスオーケストラ)、<百年後には絶対俺たち神様になれるきがするよ>、前日の原田珠々華ちゃんのブログを思い出す。


「神様。


 どうして私はもっと早く先輩たちやスタッフさんやみなさんに出会えなかったんですか?。


もっともっと、一緒に過ごしたかったです。


そうしたら神様は、人は大切な時に大切な人と出会うって教えてくれた。


まずは出会えたことに感謝しなきゃだね。


やっぱり神様は偉大です。」
(参照:公式ブログ「アイドルネッサンス原田珠々華423」)


 いがらしみきお『I(アイ)』を読んだことをきっかけに、私は最近ずっと「神様」について考えていた。


 10代の女の子たちにとって、「神様」とは何なのだろう。


 珠々華ちゃんが書いている「神様」は他の存在のことかもしれないけれど、きっと彼女自身の内に居る「神様」の言葉を聞いたのだろうと思った。


 二次元世界の登場人物のように線が細くおとなしそうに見えた女の子たちが、歌い踊り始めた瞬間に物凄い躍動感を放ち、輝く汗と紅潮した頰が立体的に迫ってくる。


 彼女たちの声で歌われ、肉体が表現することによって、「ああ何ていい曲なんだろう」と、改めて、本当に素直に思えた。最後のステージで、楽曲たちにもう一度新しい命が吹き込まれていた。


 演劇的な振り付け、ミュージカルのように空間が大きく使われるダンス。


 古宵ちゃんのオデコが前髪で隠れていて(前髪のある髪型もとても可愛いらしいけれど)、「ああもうあの大好きだった輝くオデコが見られないのか……」と少し残念に思っていたら、ライブで激しく踊るので結局前髪は崩れて、オデコが段々と姿を現してくれた嬉しさ。


 ボタンもスカートも全てが真っ白なアイドルネッサンスの衣装は、シンプルだけど細かいところが凝っていて毎回とても素敵だ。会場にも歴代の衣装が展示されていて、8人がそれぞれ8種類の歴代衣装で登場。中でも、ゆめかちゃんと珠々華ちゃんは加入前のシングル曲「Funny Bunny」(the pillows)と「YOU」(大江千里)の衣装をそれぞれ着ていて「(自分達が着たことのない衣装だったから)着てみたかったんだ、うれしい!」という言葉、アイドルにとって「衣装」がどれだけ特別なものであるか。


 一人一人の挨拶、そして最後の石野理子ちゃんの言葉。


「アイドルネッサンスのコンセプトゆえに、自分たちの青春はどこにあるのだろうと悩んだ時もあった。皆で何度も話し合った。けれど、青春は作るものじゃないということに気づいた。それぞれの新しい道を歩き出そうとするこの今の時間も、青春なのだと思う」


 過ぎていく時間こそが青春そのものなのだということに、少女の頃に気づけた理子ちゃんとアイドルネッサンスの皆が羨ましい。


 理屈の上では知っていても、私がそれを実感できたのは大人になってからだった。心の中に思い浮かぶ風景ではなく、この目で見た「アイドルが歌う、踊る、その一瞬の美しさ、一瞬の空気」を、残しておきたくて絵に描き始めてから、時間を切り取ろうとする行為によって逆説的に「時間を切り取ることはできない」と、実感した。


 残すことは決してできないけれど、どうしても残したいと思ってしまう心、永遠に続くものは存在しないとわかっていても、今この瞬間が永遠であってほしいという願いが、アイドルネッサンスのライブには詰まっていた。(松村早希子)