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『トドメの接吻』は過去の恋愛ドラマとどう違う? 山崎賢人を取り巻く多角関係の異質さ

2018年03月04日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「キスなんて所詮、ただの道具だ。偽りの愛を振りまいて、俺は成り上がる」。これは『トドメの接吻』(日本テレビ系)第1話で、旺太郎(山崎賢人)がためらいなく放ったナレーション。だが第7話で「あなたの役に立つ道具になる」と伝えた宰子(門脇麦)に返したのは、「俺はお前のこと道具だなんて思ってない」というセリフ。愛を知らなかった旺太郎に、変化を見た瞬間だった。


参考:【画像】『トドメの接吻』第9話で変貌する新田真剣佑


 ドラマの初回、突然トイレから出てきて「あなた、死ぬ」と、旺太郎にキスをした宰子。「男に嫉妬した女が自分の口に毒を塗り、キスで男を殺した」ニュースというミスリードもあり、『トドメの接吻』は恋愛ドラマとはほど遠く完全なるホラードラマだった。それが、ここに至るまでに切なさまでをも詰め込んだ恋愛ドラマへと転身。とはいえ、『トドメの接吻』には、今までのラブストーリーの型に当てはまらないおもしろさがある。その異質さは、一体どこにあるのか。


 旺太郎が一貫して手に入れたいと願うのは、並樹グループの令嬢“100億の女”こと美尊(新木優子)。物語は、この美尊との結婚=巨万の富を得るために、宰子とのキスを使ってタイムリープを繰り返しながら進んでいく。


 ドラマでは、その美尊を巡る旺太郎と尊氏(新田真剣佑)、そして旺太郎を想い始めた宰子の4人の恋愛模様が描かれてきた。ホストで鍛えたモテテク、さらにはタイムリープをも駆使した旺太郎に落ちない女などいるはずもなく、初めは嫌悪感を示していた美尊も「やっと本当の愛を見つけた」と旺太郎と人生をともにすることを決意する。


 一方の宰子は、旺太郎に唇のカサカサを指摘されて以来、健気にリップクリームを塗るなど彼に恋心を抱き始めていた。第5話では、旺太郎の母親を助けるためにキスをするのだが、そのとき彼女の手は彼の背中にまわるなど、ホラー感満載だった“ハジメの接吻”とは何もかもが違っていた。だが宰子は、旺太郎が幼いときに巻き込まれた海難事故で、自分を助けたために弟を失った少年だという事実を知る。そして、旺太郎の幸せを願い自分を犠牲にする覚悟を決めるのだった。


 一般的な恋愛ドラマの三角関係は、どちらかが“あざとい女”であることも多く、「主人公はこっちを選ぶべき」とわかりやすい。けれども、旺太郎を愛するのは、彼が財産目当てであることに気付かない純粋なお嬢様・美尊、そして自分の気持ちを抑えながら、旺太郎が幸せになれるようにとキスを繰り返す宰子。どちらもピュアな少女であり、そこに旺太郎の本音と過去が複雑に絡むことで、観る者の中にやるせなさが募っていく。


 布袋(宮沢氷魚)に刺されて死んでしまった旺太郎を救うため、美尊にキスをした宰子が「あなたへの思いを残したまま会わせてあげたかった」と告げ、旺太郎が宰子を抱きしめたシーンは、とりわけ切ないものだった。あれほど繰り返してきた“キス”ができないもどかしさ、そして、そこに本当の愛を感じたからである。ドラマ開始時、旺太郎と宰子の“キスのないハグ”に切なさを感じるなんて、誰が想像しただろう。そのトキメキと心苦しさは、まさに『トドメの接吻』でしか味わえない不思議な感情だった。


 今までにない恋愛ドラマとして、じわじわと魅力があぶり出されてきた『トドメの接吻』。美尊に愛され、目的達成まであと一歩に迫る旺太郎だが、並樹グループ社長の座は、彼にとって幸せのゴールなのか。それが実現したとして、旺太郎はその先にある何を手に入れようとしているのか。ここに来て悪役を一手に引き受ける、尊氏の本音と思惑も予測不能。さらに、命を狙われケガをしながらも、誰よりも一途に美尊を愛し続ける長谷部(佐野勇斗)の逆転ホームランはありえるのか。


 王道パターンに当てはまらない物語は、ドラマの結末はもちろん、どんな結末がハッピーエンドなのかすらわからない。その不透明さもまたラブストーリーとしての異質さであり、視聴者を惹き付ける大きな理由といえそうだ。


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記


(nakamura omame)