2018年03月03日 10:42 弁護士ドットコム
トルコの少数民族クルド人の女性たちが、法務省入国管理局の施設に収容された家族が深刻な人権侵害を受けているとして、助けをもとめる声をあげている。支援グループは「収容施設の環境は、食事や衛生面の観点から非人道的だ。しかも家族が引き裂かれている」と批判する。
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来日して17年近くになるクルド人女性、ハティジェ・トーマさんの長女(22)が昨年11月、突然、東京入国管理局(東京・品川)に在留資格がないため、強制収容された。
ハティジェさんは今年3月2日、長女と面会した。パニック障害を患う長女は、ふだんトルコで販売されている薬品を使っているが、収容施設内での使用が禁止されており、薬が飲めていない。そのため、大きなストレスを抱えているという。この日の面会時も、長女は壁で手を打って、血を流すケガを負っていたそうだ。
ハティジェさんは2001年、夫ともに来日し、翌年、2人の娘を呼び寄せた。支援グループの柏崎正憲さんによると、トルコで迫害されたとして、法務省に難民認定申請したが、認められていない。ハティジェさんは、長女との面会後、東京・有楽町の外国特派員協会で会見を開いて「うちの娘を外に出して」と訴えた。長女は昨年結婚したばかりだったという。
この日の会見に同席したクルド難民弁護団の大橋毅弁護士は「ハティジェさんの娘さん(長女)は悪いことをしたわけでもなく、逃げようとしたわけでもない。ある日、仮放免(編集部注:一時的に収容を解かれる不安定な立場)が打ち切られた。仮放免が更新されなくなった理由もない」と述べた。
収容施設のあり方についても、「難民の保護施設でなくて、拘禁施設です。オーバーステイ(不法滞在)だけでなく、イリーガルエントリー(不法入国)、刑事犯罪をおかした後に連れてこられた人が一緒に拘禁されている」と批判を加えた。
大橋弁護士によると、ここ数年、仮放免の難民申請者やその家族が、強制収容されるケースが増えているという。法務省が難民申請者に対する強硬な姿勢をとっていることから、今年はさらに収容される人数が増えるのではないかという予想もある。
この日の会見の壇上にはのぼらなかったが、ハティジェさんのほかにも複数のクルド人女性が会場近くで、夫や息子らが収容されている状況に涙を流した。だが、トルコからの分離独立を展開してきたクルド人が、日本で難民認定申請しても壁がある。その背景には、親日のトルコ政府に対する配慮があるとされている。
「法務省は定期的に、トルコ治安当局とテロ対策で協議をおこなっている。トルコの治安当局が、テロ対策でおこなっている措置について、法務省は協力する立場にある。そちらが法務省の本来の仕事で、トルコ治安当局がやっていることを人権侵害として認定したら協力関係にヒビが入る」(大橋弁護士)
日本も加盟する難民条約では、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人びとは難民と定義されている。だが、日本の難民認定はクルド人にかぎらずハードルが高い。
そのため、法務省から難民認定部門をわけるべきだという専門家の意見が根強くある。大橋弁護士は「もし仮に、まったく別の独立機関が難民認定の判断をしていたら、違う結果が出るだろう。法務省は本来の仕事のために、クルド人を難民として認めることができない」と話していた。
(弁護士ドットコムニュース)