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正規と非正規「格差是正」求める判決続く…今泉弁護士「司法判断、権利向上のために重要」

2018年03月03日 09:32  弁護士ドットコム

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正社員との業務内容の差が小さいにもかかわらず、通勤手当の支給額が異なるのは違法だとして、北九州市の海産物運搬業者に勤務する非正規社員4人が差額の支払いを求めていた訴訟で、福岡地裁小倉支部は2月1日、企業に約110万円の支払いを命じる判決を言い渡した。


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報道によると、4人は、正社員と同じ海産物の荷役作業をしていたが、通勤手当は正社員の半分の5000円だっただめ、正社員との不合理な格差を禁じた労働契約法に違反するとして、提訴していた。


判決では、手当の格差に「合理的な理由は見出せない」として、改正労働契約法が施行された2013年4月から、正社員の通勤手当を非正規社員と同じ額に削減した2014年10月までの間の差額分について、支払いを命じた。


最近、労働関連の裁判で、正規と非正規の不合理な格差を禁じた労働契約法(20条)について、耳にする機会が増えたが、どのような意味があるのか。今泉義竜弁護士に聞いた。


●何が「不合理な格差」なのか、条文は明確に定めていない


労働契約法20条で禁じられた「不合理な格差」とはどのようなものか


「どのようなものが『不合理な格差』に当たるのか、条文は明確に定めていません。労働契約法20条は、業務内容やそれに伴う責任の程度、人事異動などの配置変更といった事情を考慮して不合理と認められるような格差はダメですよ、とざっくりと言っているだけです。


通達では、具体例として『通勤手当』『食堂利用』『安全管理』などについての格差は原則として不合理とされています」



●象徴的な事例「ハマキョウレックス事件」「日本郵便事件」

過去にはどのような裁判が注目されたのか。



「貨物運送のドライバー業務に従事する契約社員に対し、正社員に保障される『無事故手当』『作業手当』『給食手当』『通勤手当』を支給しないという格差を不合理だと判断した裁判例があります(ハマキョウレックス事件・大阪高判平28.7.26)。


また、日本郵便の契約社員に対し、正社員には保障される『年末年始勤務手当』『住居手当』『夏期冬期休暇制度』『病気休暇』を一切保障しないという格差を不合理として、手当の6割から8割を契約社員にも支払うよう命じた裁判例があります。(日本郵便事件・東京地判平29.9.14)」


●日本郵便事件・大阪地裁判決では、さらに進んだ内容に


今回の北九州市の海産物運搬業者の通勤手当訴訟のように、格差がダメなら、正社員の手当を下げてしまえばいい、という発想になる可能性があるが、実際にそのようなことはできるのか。



「契約や就業規則で決まっている労働者の賃金や手当を一方的に引き下げることは原則としてできません。労働者の合意によって賃金を下げるという手法もありますが、使用者との力関係の差があるもとで、単に形式的に合意したからというだけでは労働条件の引き下げはできません(山梨県民信用組合事件最判平成28.2.19)。



また、就業規則の変更による労働条件の不利益な変更も簡単にはできません(労働契約法10条)」



今後、どのような展開になることが望ましいのか。



「今回のケースに続き、直近の2月21日には『年末年始勤務手当』『住居手当』『扶養手当』の全額支給を命じる日本郵便事件・大阪地裁判決も出されました。これは先ほど紹介した東京地裁判決よりもさらに進んで、『扶養手当』についての格差も不合理とした上、全額について契約社員にも支払うべきとしています。


このような、格差是正を命じる司法判断が積み重ねられていることは、非正規労働者の権利向上にとって極めて重要です。同様の格差を維持している企業は速やかに是正すべきです。有期労働者の格差是正に向けた取り組みがさらに広がってほしいと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
今泉 義竜(いまいずみ・よしたつ)弁護士
2008年、弁護士登録。日本労働弁護団事務局次長。青年法律家協会修習生委員会事務局長。労働者側の労働事件、交通事故、離婚・相続、証券取引被害などの一般民事事件のほか、刑事事件、生活保護申請援助などに取り組む。首都圏青年ユニオン顧問弁護団、ブラック企業被害対策弁護団、B型肝炎訴訟の弁護団のメンバー。
事務所名:東京法律事務所
事務所URL:http://www.tokyolaw.gr.jp/