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「8時間のインターバル規制では足りない!」バス運転手、睡眠4.5時間の過酷勤務

2018年03月03日 09:32  弁護士ドットコム

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「残業時間を規制することも一理ありますが、自分的には、自動車運転者の勤務間インターバル規制を強化してほしい」「一瞬の判断ミスで事故につながるのがバスの運転業務。体力もさることながら、神経の集中力と持続力が求められる」


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2017年11月に労災認定された観光バス運転手の男性に関する弁護士ドットコムニュースの記事に、現役の路線バス運転士だという40代の男性からこんなコメントが寄せられた。


バス運転者を含む自動車運転手の休息時間については、厚生労働省が「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)を定めている。待ち時間や仮眠時間などを踏まえた労働時間管理が必要なため、労働基準法とは別途定めたものだ。


この基準では1日(始業時刻から24時間)の休息時間は継続8時間以上(9時間未満となる回数は1週間につき2回が限度)とされている。


「継続8時間以上」とは言うものの、多くのバス会社では人手不足のため基準ギリギリの勤務が続いている。現役路線バス運転手に話を聞いてみると、皆口を揃えて「8時間では足りない」「睡眠不足」と訴えた。


●「休息時間は10時間以上にしてほしい」

関東圏の民間バス運転手である柏崎さん(仮名・20代男性)は、「休息時間8時間は少なすぎる」とこぼす。バス運転手になり約5年。友人には会うたびに「やつれてるぞ」「顔色が悪い」「白髪増えたね」と言われるようになった。


担当する路線によるが、早い時には午前5時前に出勤し、遅い時には午前1時前に退勤。公共交通機関が使えないため、通勤はいつもマイカーだ。担当する営業所が変わって、通勤に約1時間かかるようになってしまった。


「寝ることしか頭にないので、帰ったら何もしないでまず寝て、朝起きてからシャワーを浴びたりご飯を食べたりするようにしている」


睡眠時間は基本4時間半で、5時間寝られればいい方だ。昨年の春には、日付を回った0時半ごろに車で帰宅していたところ、ガードレールにぶつかる自損事故を起こした。原因は疲労による居眠りだ。幸い怪我はなかったが、車は廃車になった。


それ以来、翌日の勤務まで10時間を切る時には必ず営業所に泊まるようにしている。泊まらないと次の日起きられないし、何より自分の身が危ないからだ。事務所でシャワーだけ浴びて、仮眠室で眠っていると「泊まり勤務をやっているような感覚」になる。


「少なくとも休息時間は10時間以上にして欲しい。それが無理なら、通勤時間を除いたものにしてほしい。それだけでも随分変わると思う」


●追い討ちをかける、人手不足

シフト表では5勤2休が基本で、月8~9回の休みがついているが、その通りに勤務が進むことはない。たいてい休日の数日前になると運行管理者から「どちらか、もしくは片方だけでも出られないか」とお願いされる。シフト表は「あってないようなもの」だ。


運転手は月に2~3人は辞めていく。加えて1月中旬にはインフルエンザが流行り、3~4人が欠勤した時には、柏崎さんも13連勤せざるを得なくなった。1日の拘束時間が16時間になることも週2回はあった。



「自分も疲れてはいたけど、公休も全部潰しました。自分が休んだら大変なことになってしまうから、使命感だけでやるしかない。嫌だけど行くしかない。


運行管理者の人もなるべく13連勤はさせたくないという感じでした。最大限に気を遣ってもらってこういう状況なんです。会社に『もっと休みくれ』と言いたいけど、事情もわかっているから、なかなかそうも言えない」


給料の問題も頭にある。基本給は15~6万円程度で、休日出勤手当と時間外手当を抜くと手取りは10万円を切る。「もう少したくさんもらってたら1~2日休むけど、満足な給料を得られないから働かざるを得ないところもある」とこぼした。


●国の基準が変わらないと…

首都圏の民間バス会社で働くバス運転手歴20年の笹原さん(仮名・50代男性)も「一番しんどいのは、睡眠時間が短いこと」と嘆く。


笹原さんもマイカーで40分かけて通勤しているが、朝の通勤ラッシュが悩みのタネだ。午前8時台の出勤の場合、午前6時をすぎると道路が混み合うので余裕を持って午前5時台には自宅を出る。だから午前4時に目覚ましをかける。休息時間8時間は、どんどん削られていく。


「うちの会社は業界全体を見るとまだいい方」と言うが、先月の時間外労働時間は100時間にまで膨らんだ。8年前までは観光バスの運転手だったが、「路線バスは勤務が不規則で、運転しながら乗客の様子にも神経をすり減らすのでなかなかしんどい」と話す。公休はしょっちゅう潰され、疲労は溜まりに溜まっている。


会社は毎年運転士100人を採用しているが、半分は辞めていくという。昔よりも経営者が従業員に対して思いやりがなく、ドライになっていることも痛感する。なかなか待遇が改善する兆しも見えない。


「家族や知人にバス運転手の仕事は絶対に勧めない。よくさ、子どもたちが乗って来る時に目を輝かしてこっちを見てくるんだけど、この仕事はやっちゃダメだよって言いたくなるよ」と苦笑する。


「勤務間の休息時間をもっと長くしてくれと言ったところで、会社は国がこのように基準を定めているんだから国の基準に沿ってやっているという態度を取るだけ。もう国の基準を変えてもらうしかない」


●インターバル規制「国際的には連続11時間が標準」

バス事業に詳しい東京海洋大の寺田一薫教授は、インターバル規制について「国際的には連続11時間が標準」と話す。


「例えばEU規則では、24時間に対し11時間が基本で、特例として週3回まで9時間に短縮が可能となっています。そのため日本の休息時間8時間というのは、EU規則と比べるとかなり短いと言えます。


一方でEUの場合は、連続運転時間の規制が4時間半と日本より30分長い。これは11時間の休息が担保されているからでしょう。日本では4時間に対して休憩が30分与えられていますが、その休憩は10分以上で分割が可能となっています。


ただ、10分という休憩はあまりに短すぎて何もできません。日本でも休息時間をEU並みの11時間にし、連続運転時間を多少長くする方式にするのも手だと考えます」


●働き方改革における「インターバル規制」

退勤から出勤までに一定の時間を設ける「勤務間インターバル」については、バス運転手の問題だけではない。


働き方改革の一環としてもインターバル規制は議論のテーマになっており、政府が今国会に提出する予定の働き方改革関連法案で、インターバル規制は努力義務となる見込みだ。日本経済新聞(2月26日)によれば、民進党と希望の党は対案として勤務間インターバルの義務化を目指しており、今後も議論になる可能性がある。(弁護士ドットコムニュース・出口絢)


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