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東京女子エロ画祭「すり減らないエロス」求め、女性の「商品化」に一石…神田つばきさんに聞く

2018年03月03日 09:32  弁護士ドットコム

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女性の「エロス」をテーマとした映像・画像作品からグランプリを選ぶアートコンペ「東京女子エロ画祭」が3月4日、東京都内で開催される。今年で5回目となる「東京女子エロ画祭」実行委員の神田つばきさんは「エロス本来の良さを感じてもらう実験の場。どの作品も『白紙の心』で見てほしい」と話す。女性の性が一方的に「商品化」されている風潮に一石を投じている。


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2011年に開かれた第1回「女子エロ画祭」は小規模なイベントで、酔っぱらい客が間違えて入ってくるようなゆるい雰囲気だったが、応募作品は「サブカル」といえないほどレベルの高いものになっているという。今回は、「東京女子エロ画祭」はじまって以来の応募数があり、その中からノミネートされた11作品は、アートとエロとエンタメの垣根を超えている。


神田さんは、AV女優やSM雑誌ライター、メーカー社長、脚本家として、いわゆる「エロ」の業界に深く関わってきた。近年のAV出演強要問題や「#MeToo」ムーブメントなど、女性をとりまく状況が劇的に変わりつつある中で、「東京女子エロ画祭」をつづける意義を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)


●「エッチな女たちが集まってる」という期待は裏切られる


(第1回グランプリは「拝啓、山田かまち」(矢崎望)が受賞した)


――今回、応募作品がこれまでよりも多かったということですが、どんな変化に気づきましたか?


第1回(2011年2月11日開催)の女子エロ画祭は、今よりもっとサブカル的なイベントでした。その1か月後、東日本大震災が起こり、作家の中には、あの日を境に作風が変わった人もいます。私自身もそのような心境の変化はありました。表現者が、切実に人間の生命と向き合うようになったのかもしれません。


最近、AV業界では、出演強要問題もありました。だから今回は、拳を突き上げるような作品がくるかもしれないと思っていました。もし、それがきたら、受け止める覚悟もありました。ただ、フタを開けてみると、選にもれた作品も含めて、「エロス」という言葉によって身体や外見だけを表現するのでなく、「女性の心」がテーマになっていました。作品の概要を読むだけでも、「自分の知らない女の人生がある」という発見がたくさんありました。


――なぜ「エロス」なのでしょうか?


「エロス」は本来、美しい言葉です。どうしてこんなに汚れてしまったのか・・・。開催にあたって、たくさんのメディアから問い合わせがありました。「エッチな女たちが集まって、何をしてくれるんだ!?」と期待を持たれたのかもしれません。そのような関心が悪いとは思いませんが、本来の「エロス」とはちょっと違う。私たちがやっていることは、女の人が表現したいことをそのまま出して、観客に見て、感じてもらうことなんです。そのために男性の来場も歓迎し、共感した作品に投票してもらっています。


――本来の「エロス」とはなんでしょうか?


男性と女性との間に発生する快い温度差、あるいは、人間そのものの美しさもそうですね。また、母体・母性がもつ豊かさも「エロス」といえると思います。他にも、いろいろな要素を持っています。人間は、なぜ生殖を目的としなくても「性」を求めるのかを考えたとき、エクスタシーやオーガスムが一つの要因ではないかと思うんです。人間は、宗教にも「恍惚状態」になる動物です。それもまた「エロス」の一部かもしれません。


●「AV業界は一般社会から見えるところで姿勢を示しては?」

――AV出演強要問題をどう考えていますか?


あまり語る立場にありませんが、娘を持つ母親の立場から思うことはあります。たとえば、ふつうの女性は、AVとピンク映画の違いなども知りません。AVの撮影現場が、どこまでの行為をしていて、それがどこまで流通し、消費者以外の人の目にどのように触れるのかも知りません。知る必要のないことだからです。


しかし、出演強要被害の問題を受けて、AVにまったく関心のない女性に対して、「何に気をつけたらいいか」を知ってもらう必要が出てきたと思います。そうでなければ、同じような被害がまた起きる可能性がありますよね。


業界内では「適正AV」や「統一契約書」といった枠組みができました。これは重要な第一歩ですが、業界外にいる女性たちにこそ、こういう仕組みを知ってもらうことが重要です。困ったことに陥ったときに、自分を守ってくれるルールがあることを女性たちが知らされていない、というのが問題なのです。


業界は、業界内にいる女性だけでなく、AVにまったく関心のない女性たちの目に触れるところに、このルールの存在を表す必要があるのではないでしょうか。AVを産業としてつづけていくために、業界が責任を果たすならば、一般社会の人から見えるところで、その姿勢を示すことがいいんじゃないかな、と最近考えています。


●女性が消費されるようなものはもうたくさん


(第3回審査員特別賞は「男想~男装×妄想」(山田はるか)が受賞した)


――セクハラ被害を告白するムーブメント「#MeToo」が世界的に広がっています。こういう状況の中、「女子エロ画祭」をどうしていきたいか?


「女子エロ画祭」の作品については、男性から「おかずとして成立しない」と怒られたこともありますし、逆に女性からは「すり減らないエロを作ってほしい」と励まされたこともあります。いずれにせよ、女性が消費されるようなものはもうたくさんなんじゃないでしょうか。男の人も「性」を愉しんでいいし、女性も愉しんでいい、そういうふうになってほしいです。


性にまつわるいろいろな場面で、女性たちは傷ついています。物心つく前から、老いてからでさえも、そういうことがあります。だからこそ、今後も「女子エロ画祭」をつづけていきたいと思いますね。「東京女子エロ画祭」が一石を投じているかはわかりませんが、女性たちの傷が少しは癒されるような存在としてありたいと思っています。


――課題はありますか?


女性が「エロス」を描くというと、どうしても勘違いされやすいですね。「どうやって俺たちを喜ばせてくれるのかな?」って。それはそれで自由ですが、そういう人男性が集まってきたときに、性的に傷を負っている女性は怯えてしまいます。もしくは、そういう気持ちがどこかで生じて、それをひた隠しにしてガマンしてしまう。そういうものをどうやって解きほぐしていけばいいのかと考えています。


そういう感情は、どんな女性でも少しは持っているような気がします。どうやって世の中や構造を変えていけばいいのか。理論・運動で声をあげる女性は一定数いるべきですが、一方で、男性向けの商品市場だけでは、表現しきれないものを、女の人が誰でも自由に表現できる場を小さくてもいいから作っていきたいですね。


●第5回 東京女子エロ画祭 ノミネート作品

・色男華(イラストレーション・1点)牧田恵実


・巡る(アニメーション・1分18秒)ふじたゆい


・A week(イラストレーション・1点)Nisiho


・roman(イラストレーション・4点)勝亦マキ


・改造(イラストレーション・1点)河又美茉


・曇り越しの彼女たち(映像・55秒)西片例


・あんっブレ裸(映像・6分49秒)しぼりみるく


・毛まみれヘブン(アニメーション・6分)やまだみのり


・死の対は生ではない、性だ。(素描・1点)香久山雨


・自撮りカレンダー熟女(写真・12点)マキエマキ


・Female or Mother(映像・2分24秒)菅沼絵美


なお、特別審査員で現代美術作家の柴田英里さんが当日、トークをおこなう予定。テーマは「“女”への自由、“女”からの自由」。「東京女子エロ画祭」の公式ホームページはこちら → http://www.tokyo-eroga.com/


(弁護士ドットコムニュース)