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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ブラックパンサー』『15時17分、パリ行き』

2018年03月02日 21:02  リアルサウンド

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リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


●『ブラックパンサー』


 リアルサウンド映画部のブラックロンゲー・宮川がオススメするのは、『ブラックパンサー』。


  2016年に公開された『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に初登場したブラックパンサー。『キャプテン・アメリカ』シリーズ第3作ではあったものの、ハルクとソーを除いたアベンジャーズの面々がアイアンマン派とキャプテン・アメリカ派に分かれて戦いを繰り広げた『シビル・ウォー』では、同じく初登場だったスパイダーマンに話題が集中し、ブラックパンサーは影の薄い印象だった。そのため、当初は単独作品にもそこまで期待していなかったのだが、蓋を開けてみればMCU史上1、2を争う大傑作に仕上がっていた。


 言葉にすると陳腐な表現になってしまうが、とにかく全てが“カッコいい!”の一言に尽きる。冒頭で描かれる、簡潔でありながらも観客をグッと引き込むワカンダについての説明から、物語の重要なきっかけとなる1992年のカリフォルニアでのシークエンス、韓国で大々的にロケが行われたカーアクションシーン、そして最先端のテクノロジーによって生み出されたガジェットの数々やワカンダの世界……。“国王”と“ヒーロー”という2つの使命を持ったティ・チャラ/ブラックパンサー(チャドウィック・ボーズマン)をはじめ、実はヒーローとしての側面もあるただのヴィランではない悪役のキルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)、最強の女戦士オコエ(ダナイ・グリラ)、ティ・チャラの妹シュリ(レティーシャ・ライト)、ティ・チャラの元恋人であるスパイのナキア(ルピタ・ニョンゴ)、『シビル・ウォー』に続いて登場するCIA捜査官のエヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)など、登場人物と各キャラクターを演じる役者たちにもそれぞれ重要な役割と見どころがあり、観客を全く飽きさせることがない。


 そして何よりも巧みな脚本がそれを決定づけているのが本作のすごいところだろう。王としてヒーローとしてのティ・チャラの葛藤や、ティ・チャラとキルモンガーの対立構造を軸に、政治的な視点や難民問題、そして音楽をはじめとしたブラックカルチャーまで、この映画にはあらゆる“今”が詰め込まれていると言っても過言ではない。ヒーロー映画が新たな境地に達した瞬間がここにある。


 MCUの次作品『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の公開まで既に2ヶ月を切っているが、そこで『ブラックパンサー』に登場したキャラクターたちはどのような活躍を見せてくれるのか。今から楽しみで仕方がない。


●『15時17分、パリ行き』


 横浜(DeNA)ベイスターズファン歴23年目に突入の石井がオススメするのは、クリント・イーストウッド監督作『15時17分、パリ行き』。


 最新作が公開されるならば、出演者やあらすじなどはさておき、間違いない作品が待っていると思える貴重な監督のひとり、クリント・イーストウッド。イーストウッドが最新作の題材に選んだのは、2015年、アムステルダム発パリ行き高速列車タリスで起きたテロ事件。大量虐殺になりかねなかったこの凶悪事件を、スペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラーの3人の若者が未然に防いだという奇跡の物語だ。


 『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』に続く、アメリカ人英雄譚としてイーストウッドが題材に選ぶのは必然だったとは言える。しかし、過去の2作品との大きな違いは、英雄となる3人の若者を、事件の当事者である本人たちが演じているという点だ。


 彼らの幼少期から、大人になり事件へとつながるヨーロッパ周遊旅行まで、映画は丹念に映し出していく。しかし、彼らが英雄となった背景として、「過去にこんな理由があったから」という声高な主張は描かれない。奇跡へと繋げるための特別な伏線が何か張られるわけでもない。加えて、主人公となる3人には演技経験がないため、彼らが楽しみはしゃいでいる姿は、一体何を観ているのだろうという不思議な気持ちに陥ってくる。


 だが、そんな日常を観続けたからこそ、事件の結末を知っているにも関わらず、彼らが直面する非日常が観ているこちら側にも同じ感覚で突然降り注いでくる。自分がここに居合わせたらどうするのか、非日常に直面したときに何ができるのか、彼らと同じ勇気を持つことができるのかと、イーストウッドは否応なく突きつけてくるのだ。


 94分というタイトな上映時間にも関わらず、鑑賞後はものすごく大きな重荷を背負わされたような感覚だった。本人たちが演じているからこそ、最後は実際の記録映像とドラマが巧みな編集によってつながっている。彼らは幼少期からサバイバルゲームとして銃を扱い、軍人として“敵”を攻撃することに何の躊躇いもない。幼少期から『はだしのゲン』を読み込んできた筆者にとって、彼らの姿にまったく違和感を覚えなかったと言えば嘘になるが、映画の完成度に圧倒されたことは間違いない。(リアルサウンド編集部)