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Do As Infinity×澤野弘之が語る、最新作『ALIVE』で表現した“命”と“未来”

2018年03月02日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2017年は第一弾シングルとなった『Alive / Iron Hornet』以降、3枚のシングルを通してアニメ『進撃の巨人』などを筆頭に数々の映画/ドラマ/アニメの劇伴で活躍するサウンドプロデューサー・澤野弘之とタッグを組み、エレクトロの要素なども大々的に加えながらグループの新たな可能性を追究してきたDo As Infinity。彼らが3年振りの最新アルバム『ALIVE』を完成させた。この作品では、引き続き澤野弘之が全面サウンドプロデュースを担当。「生きる」「命」といった壮大なテーマが描かれる全編の中で、シングル群で見せた変化の集大成とも言える新鮮なサウンドを形にしている。また、初回盤のアルバムジャケットはリスナーそれぞれが好きな場所を切り取って太陽の場所を決められる特別仕様になっており、ここには「自分の未来は自分で決める」という思いが込められているそうだ。今回はDo As Infinityの伴 都美子(Vo)・大渡 亮(Gt & Vo)と澤野弘之との対談形式で、一連のコラボレーションの様子や、その成果が結実したアルバムについて聞いた。(杉山仁)


■伴「まずは腹をくくるまでに時間がかかった」


Do As Infinity / 12th Album「ALIVE」teaser trailer – Sound Produced by 澤野弘之
――2017年6月の『Alive / Iron Hornet』からはじまったシングル3部作はみなさんそれぞれにとって新しい経験になったと思うのですが、その中でも印象的な変化というと、どんなものだと思いますか?


伴 都美子(以下、伴):すべてが印象的でしたけど、私個人で言うと、まずは腹をくくるまでに時間がかかったことですね。私は最初は今回のコラボレーションにとても慎重だったので。でも、実際にはじめてみると、今回のような制作の仕方は新鮮で、新しいチャレンジの連続で。今は「やってよかった!」という達成感や安堵感を感じているところです。


大渡 亮(以下、大渡):とにかく澤野さんが作る曲がいいから、僕もギターを弾くモチベーションが高い形で臨めるというか、ポジティブなものしか出てこなかった感覚ですね。僕はいち音楽ファンとしては洋楽ばかりを聴いてきたので、邦楽は自分が小学校3~4年生ぐらいの頃のものまでしか知らないんですよ。それもあって、今回のコラボレーションの話が持ち上がるまで、僕らは澤野さんがどんな仕事をしてきたのか知らなかったんです。だからまずは、澤野さんのように洋楽テイストを持った日本の方がいること自体が嬉しかったです。そして、その曲でギターを弾くことができるのが純粋に楽しかったですね。


――澤野さんとの共作以降、演奏や歌のアプローチに変化はあったと思いますか?


大渡:僕はあるかもしれないですね。澤野さんとタッグを組むようになってからは、ラウドな曲はよりラウドにしたりとメリハリをつけるような楽曲が多いので、僕もラウドな曲ではよりフラッシーなプレイを心がけたりと、曲に合うものを追究していきました。


伴:私はどちらかというと、むしろ、ニュートラルな状態で挑んで、単純に「いい曲だな」「難しいな」と思ったりしながら、最初に曲を聴いて自分が感じたものを咀嚼して、出していく作業だったので。ただ、コーラスを何層にも積み重ねているところはそうかもしれないですね。最初は「えっ、この本数を重ねるんですか?!」と思ったので(笑)。とはいえ、そこは的確な指示があって、澤野さんの中ですでに設計図が出来ていたんですよ。


澤野弘之(以下、澤野):はい(笑)。僕の方である程度は用意させていただきました。


伴:だから、そこは澤野さんを信頼していたし、とても楽しい作業でした。


――澤野さんも、これまでの仕事と比べて変化を感じる部分はありましたか?


澤野:僕の場合サウンドプロデュースの他に、ボーカルプロジェクト(SawanoHiroyuki[nZk]名義など)もやってはいますけど、そこは自分が作りたいサウンドを作る場所なので、最終的には自分が考える完成形に持っていく意識が強いんですよ。でも、今回のように他のアーティストの方とご一緒すると、その方たちの力に乗っかれる部分を感じます。曲自体は普段通りの自分を出そうという感覚で作りましたけど、そこにお2人が乗っかることで、やっぱりDo As Infinityの音になることも印象的でした。たとえば大渡さんだと、色々な音色の作り方やギターソロのアプローチから、これまでどんな風にギター面からDo As Infinityの音を構築してきたかが分かってすごく新鮮でした。伴さんの場合も、僕はボーカルによって楽曲の雰囲気が変わる部分って大きいと思っているんですが、伴さんの声が乗ると伴さんならではの歌の広がりが生まれるということをどの曲でも感じました。伴さんの歌には、たとえバラードであっても優しさの中に「かっこよさ」や「強さ」を感じます。


――制作中は、みなさんで好きな音楽の話をする機会もあったんですか?


大渡:いや、それがしていないんですよ(笑)。ただ、シングル3部作の中で「次はどんな曲にしよう?」と考えていくときに、ガイドとなるような楽曲を渡したりはしましたね。


澤野:でも、スタジオで会うときに、大渡さんがどんな曲を聴いてきたかという話をしたりはしましたね。「Coldplayの楽曲では、昔よりも今のサウンドの方が好きだ」とか。


大渡:ああ、Coldplayは「Alive」のときだよね。最初に「Alive」を聴いたときに、「この人は近年の(エレクトロの要素も取り入れたバンドサウンドを鳴らしている)Coldplayも聴いている人なんだな」と思ったりしたので。


伴:私は途中から、自分が気に入った曲を「これ聴いてみて!」と澤野さんにメールで送ったりもしていましたよ。今って本当に色々な音楽を聴くことができるので、かっこいいな、素敵だなと思う曲を見つけたらそれを伝えていって――。


大渡:「次はこういうものをやってみたい」と言ったりしてね。


澤野:その中には僕が知らない曲も多かったんですよ。でも、送っていただいたものの中で、僕が「うーん……」と思うものはなかったです。知らなくても「ああ、かっこいいな」と思える曲が多かった印象でした。


――なるほど、どこかで琴線に触れるものが似ている部分があったのかもしれませんね。


大渡:僕としては「Alive」を最初に聴いたときにそれを感じましたね。「この人は、もしかしたら目線が同じところにある人なのかもしれないな」と。


大渡:それに、たとえばAメロからサビまで向かうときのダイナミクスというか、Bメロで一度へこませてサビで盛り上げるまでの距離の取り方も、僕らがこれまでやってきたことに通じる部分を感じました。その距離の取り方に親近感を感じたというか。


――そして最新アルバム『ALIVE』でも、澤野さんが全編サウンドプロデュースを担当されています。短期間の間に、ふたりの澤野さんへの信頼度が上がっていったということですか?


伴:そうですね。確かに、最初はコラボレーションに慎重だったことを考えると、「一体何があったんだろう?」という感じかもしれない。


大渡:今話した、気に入った音楽を伝えるようになった辺りから、僕らの中でグワーッ! と盛り上がっていきました。その作業を経てリリースした楽曲が「To Know You」で、これが2017年の9月リリースなので、具体的にはその少し前、去年の6~7月ぐらいからですね。


大渡「デジロックを思い浮かべながらギターを弾いていた」
――アルバムを作る際、みなさんで共有していた全体像のようなものはありましたか?


伴:そのあたりは、楽曲をひとつひとつ作りながら見えてくる感じでしたね。


大渡:澤野さんは他のお仕事もされている中だったので、時間がある限り一緒に曲を作って、「あわよくばアルバムも一緒に作りたい」という感じで。


澤野:そうですね。最初のシングルになった「Alive」を作って、そこから少し期間が空いてカップリングの曲を作って、という風に、本当にひとつひとつの楽曲を進めていった感覚でした。ただ、これまで出したシングルやカップリング曲をまとめて最終的にアルバムを完成させるときに、「アルバム用にこういう曲がほしい」というリクエストがあって、それをもとにアルバム用の新曲「GET OVER IT」と「火の鳥」を作りました。アルバム制作に際して「アップテンポのギターリフがメインで入る曲がほしい」「あともうひとつ、澤野弘之が考えるDo As Infinityを表現した曲がほしい」という、2つの提案をいただいたんですよ。


――アップテンポでギターリフがメインで入る曲は、「GET OVER IT」のことですね。


大渡:そうです。この曲はまず、7弦ギターを使っているのが特徴ですね。7弦ギターを使うと従来のギターよりも下の音域もカバーできますが、これは制作中に澤野さんが「7弦ギターはお持ちですか?」と聞いてきてくれて用意したものなんですよ。


澤野:僕がロックの曲を作るときは低音重視の音にすることが多いので、普段から僕の曲ではダウンチューニングにするか7弦ギターを使って制作することが多いんですよ。それもあって、今回もそういう形でないと出せないギターサウンドになっていたんです。


――「GET OVER IT」はアグレッシブなギターサウンドが印象的で、同時にクラブミュージックのプロダクションを通過した感覚もあって、The Prodigyあたりを連想しました。


大渡:デジロックですよね。僕も今回、そういう音楽を思い浮かべながらギターを弾いていました。KORNやLimp Bizkit、Linkin Parkのようなニューメタルよりの音にも通じるところがありますよね。あのあたりの曲の雰囲気があるというか。


澤野:僕自身、そういう音楽が好きで影響を受けているんですよ。それこそ、プロディジーはスタジオで大渡さんとお話したときに挙がりましたよね? カニの(ジャケットの)……。


――『The Fat of the Land』(1997年)ですね。


大渡:澤野さんはまだカニを聴いたことがないという話だったので、「カニいいっすよ」って言ったりしていて。


澤野:僕もキツネだったかオオカミか(『The Day Is My Enemy』/2015年)は好きで聴いていたので、そういう意味でも共通するテイストがあったのかもしれないです。あと、アップテンポでギターリフが印象的な曲というと「Alive」もそうだったと思うんですが、あの曲はあくまでバンドサウンドを意識していたので、「GET OVER IT」ではよりシンセを加えてみようと思っていましたね。


――そして「火の鳥」が、澤野さんが思うDo As Infinityを表現した曲なのですね。


澤野:そうです。もちろん、全体を見渡して「これぐらいのテンポの曲があった方がいいのかな」と考えた部分もありましたけどね。あと、実は「火の鳥」のメロディって、結構前に作ったものなんですよ。それこそ僕がまだ20代のときに作ったもので。「そういえば、この曲は形にしてなかったな」とふと思い出して、改めてアレンジして楽曲に仕上げました。僕がこの曲を作った20代の頃はDo Asさんが「Yesterday & Today」などを出されていて、僕もそれをリアルタイムで聴いていたので、今思うと、だから無意識的にこの曲を選んだ部分も、もしかしたらあったのかもしれないです。


伴&大渡:へええ、そうだったんだ!


伴:「火の鳥」は最初に聴いたときに、Bメロからサビに行くところがすごく好きで、「何これ?!」と思ったのを覚えています。曲自体にすごくグッとくるものを感じました。


大渡:「僕たちっぽい曲だな」と思ったよね。アコースティックなリフが入っていて、無条件に伴ちゃんが歌う曲としてスッと入ってくれる感じがあって。だから、そういう裏話があったとは驚きですね。この曲と「Silver Moon」に関しては、「澤野さんがDo As越しに見てくれている音なのかな」という感じがしました。他の曲は「澤野印」ですけどね。


■澤野「どんな曲でもDo As Infinityの色になる」


――また、今回「~ prologue ~」「~ epilogue ~」という2つのインスト曲がアルバムの冒頭とラストに収録されています。これはどんな風に出てきたアイディアだったのでしょう。


伴:これは私から提案しました。「澤野さんと一緒だからこそできることは何だろう?」と考えると、やっぱり劇伴の要素だと思ったので。私自身も劇伴はすごく好きですし、Do As Infinityは今までそういうアルバムを作ったことがなかったので、今回新しい要素として興味がありやってみたいな、と思ったんですよ。


澤野:「~ prologue ~」は2曲目の「Alive」に繋がるという流れが先に決まっていたので、その繋がりを意識して作りました。一方で「~ epilogue ~」は、「~ prologue ~」をシンセを使ったサウンドにしたこともあって、より生の要素を前面に出して、大渡さんをはじめとするミュージシャンの方々のその場のアイデアを生かしたい、と思っていましたね。


大渡:この曲は4曲録りの最後にレコーディングした曲でした。だから、取り掛かる時点で、すでに脳が疲労した状態になっていたんですよ。それでもう、「エイッ!」という感覚で弾いたものが使われています。


――大渡さんのかなり本能的なプレイが収められている、と。


大渡:それもあって、音色的にも「ファズで汚す」という遊びを加えました。澤野さんの楽曲は洗練されたイメージがあるので、そこにジミ・ヘンドリックスやFunkadelicにも通じる要素を加えたら面白いんじゃないかと思ったんですよ。


――先ほど「澤野さんならではの映画の劇伴のような魅力も加えたかった」と話していただきましたが、そもそも今回の一連のタッグの第一弾となった「Alive」は、先に用意したプロットをもとに音楽を作っていくという、新しい方法でできた楽曲だったそうですね。


大渡:『Alive/Iron Hornet』はそういうアイデアではじまったものでした。アルバムは最終的に、そこだけには縛られ過ぎないものになったかなとも思うんですけどね。


――そのプロットというのは、どんな内容のものだったんでしょう?


伴:結局は「自分の未来は自分で選択しよう」ということですね。今をどう生きるかで、その未来は変わるわけですから。それに個人的にも、ここ数年は「生きる」ということや「命」といったテーマが、頭の中でずっとぐるぐるしているような数年間でした。


――伴さんの場合、お子さんが生まれたことも大きかったのかもしれません。


伴:大きかったと思います。それに、昨年はDo As Infinityとしても南米ツアーを筆頭に色々な経験をさせてもらって、「生きててよかった」と実感することや刺激がたくさんあったんですよ。だから本当に、『ALIVE』というアルバムタイトルはこの作品に相応しいなぁ、と。


――アルバムを完成させた今、今回のコラボレーションはみなさんにとってどんな経験になったと思っていますか? また、今回のアルバムはどんな作品になったと感じますか?


澤野:僕にとっては、すごく新鮮に感じる瞬間がたくさんある経験になりました。それに、繰り返しになってしまいますけど、やっぱりお2人が歌ったりギターを弾いたりすると、「どんな曲でもDo As Infinityの色になる」ということをすごく感じましたね。


大渡:今回の『ALIVE』は、僕らのアルバムの中でも一番洋楽っぽい作品になったと思っているんです。もちろん、これまでも作家さんにオーダーをしたり、洋楽的な要素が感じられる楽曲を選んだりしてきましたけど、今回はよりその雰囲気が強まったというか。それはやっぱり、澤野さんならではだったのかな、と。


伴:今回は曲のもとになるプロットが音楽よりも先にあって、そこから「Alive」という楽曲が出来て。でも同時に、アルバムには言いたかったこともしっかりと入れることができたので、そういう意味では、リアルとファンタジーが一緒になっているような感覚もある作品なのかもしれないです。その上で、新しいチャレンジができて、今の自分たちを表現することもできて、全体的に平均温度の高いアルバムになりました。


大渡:コラボレーションがはじまって、曲に手応えを感じて、またお願いして、「よかった、また引き受けてくれた」ということの繰り返しで。そのやりとりの中で伴ちゃんもポジティブになってきて、そこから新しいアイデアがどんどん出てくるようになって。たとえるならまるで川の水が大海に流れていくような、その中でどんどん前に(船の)帆が進んでいくような、そんなイメージだったと思います。いいソングライターと知り合えて、いい音楽が作れて、「ああ、いい一年間だったな」という気持ちですね。


――そうした期間の集大成が、今回のアルバム『ALIVE』なのですね。


伴:澤野さんにとっては新しいチャレンジになったかもしれないですし、私たち自身も、このアルバムにすごく満足しています。死ぬまで音楽をやっていくという意味では、その自信に繋がるような作品にもなったような気がしています。


――この相性のよさでいうと、またコラボレーションがあるかもしれないですね?


大渡:ねえ(笑)。それは僕らも期待していますし、またリクエストさせてもらえたら嬉しいと思っています。(澤野さんに)いいアルバムを本当にありがとうございました!


澤野:いえいえ!


伴:いえ、これは本当にそうですよ! 私たちにとってもすごく楽しい期間になりました。(杉山仁)