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瑛太がレクチャーする“偽札作り”はなぜ楽しそうなのか? 『anone』第7話の豊かな戯れ

2018年03月01日 14:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 辻沢ハリカ(広瀬すず)には、偽札は作りには関わらないと言った林田亜乃音(田中裕子)だったが、それはハリカを巻き込まないための嘘だった。夜勤で働くハリカに内緒で中世古理市(瑛太)と偽札作りをはじめる、亜乃音と持本舵(阿部サダヲ)と青葉るい子(小林聡美)。1000円札の偽札作りからはじめた亜乃音たちだったが、次第に不協和音が生まれ始める。


参考:『anone』瑛太はなぜ不気味なのか? 坂元裕二ドラマにおける“ヤバい他者”の役割


 紙野彦星(清水尋也)の手術代のためにお金を稼ごうとするハリカは、時給1800円の夜勤のアルバイトをはじめる。重労働のわりにたいしてお金にならないハリカの仕事と、成功すれば巨額のお金が入ってくる偽札作りの対比は、同じお金でもこんなに意味が違うのかと実感させられる。普通のドラマなら、悪いことをして手に入れた大金よりも、汗水流して手に入れたお金の方が、価値があるという展開になりそうだが、これだけ働いても少額しか稼げないという無力感の方が全面に出ている。


 ハリカが仕事中に同僚の浜口さんにお金を盗まれるエピソードも、他のドラマならもっと引っ張りそうなエピソードだが、「いいじゃないのよ、このくらい」と盗んだ金を足元に投げ捨てられる。盗んだ動機も「孫にプレゼント」と言うだけで、この程度の金額で責められちゃたまらないという態度が、ハリカの無力感をより際立っていた。


 そんなハリカと中世古が今回は本格的に対峙する。「願い事ってさ、星に願えば叶うと思う? 願い事は泥の中だよ。泥に手を突っ込まないと叶わないんだよ」と偽札作りについて語る中世古。『Woman』(日本テレビ系)に「星が綺麗だなって言いながら、足元の花踏みまくってる人のパターンでしょ」という台詞があったが、坂元裕二は希望としての星と、足元にある苦しい現実との対比を繰り返し描いている。


 ハリカは彦星と「もう一回、流れ星を見る」ために、偽札作りに加担する。一方、偽札作りの機械を希望だと語る中世古の真意はいまだ見えない。見ていて複雑な気持ちになるのは、持本が偽札作りにのめり込んでいく姿だ。自販機を騙すための磁気インクを塗る作業は、文化祭の準備をしているみたいで、明らかに楽しそうである。中世古に反発する青葉にしても、偽札を折って遊んでいる姿は美術の時間にふざけている生徒みたいで、文句を言いながらも、偽札作りに溶け込んでいる。


 そう見えるのは、中世古のレクチャーが見事だからだろう。偽札作りのための具体的な作業工程を最小限にしか語っていないのに、人をどんどんやる気にさせていく。おそらく社長だった時はやり手で、部下からも好かれていたのだろう。そのためか、単なる悪役と切り捨てることが、どうしてもできない。


 面白いのは持本が中世古と仲良くなる一方で、青葉が亜乃音と話すようになり、男グループと女グループに分かれてしまうこと。偽札作りは無理なんじゃないか? と中世古に詰め寄る青葉に対して、持本は偽札作りという「行為の面白さ」にハマっていく。


 中世古の登場によって『カルテット』(TBS系)で描かれたような、無意味だけど豊かな日常生活の戯れが全否定されるかと思えたが、偽札作りという異常な状況の中にも、無意味だけど豊かな戯れが生まれてしまう姿をみていると、これこそが坂元ドラマの本質なのだろう。


 一方、緊張感のあるサスペンスとなっていたのが、亜乃音が間違って花房万平(火野正平)に渡してしまった偽札を、花房が寝ている間に、財布から抜き出して、本物とすり替えるシーン。実は花房が起きており、今まで物語の外側にいた花房が、亜乃音たちの偽札作りに気付く伏線となりそうだ。他にも偽札でジュースを買ってしまう場面など、計画の破綻につながるほつれが見え隠れする第7話だった。(成馬零一)