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中居正広、平昌オリンピックで果たしたキャスターとしての役目 視聴者との“橋渡し”を振り返る

2018年03月01日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「絶対王者……みせてくれ」ーー男子フィギュアスケート、羽生結弦選手の試合を前に、中居正広はスタンド席から祈るように言葉を発した。


 2月9日から開幕した『2018平昌冬季オリンピック』。日本勢は一大会で最多となる13個のメダルを獲得し、25日に無事閉幕した。中居は『ピョンチャンオリンピック2018』(TBS系)のメインキャスターとして白熱した戦いと興奮を視聴者に届けてくれた。今回で8大会連続でキャスターをつとめた中居の仕事ぶりを振り返ってみたい。


(関連:中居正広、舞祭組に説いた“知恵を絞る”大切さ ラジオで語られたSMAP時代の経験


■8大会連続! 五輪キャスターを務めた中居正広


 開幕前に放送された事前番組に、ネクタイを締めてスーツ姿で出演した中居。北海道・苫小牧に足を運び、女子アイスホッケー「スマイルジャパン」を取材した。「アイスホッケーを見るのは初めてですよ」と、練習を見学。サプライズでの訪問には選手たちも喜び、中居を狙ってパックを打つなど歓迎ムードに包まれた。


 選手からの勧めで、人生初のアイスホッケーを体験。「上手い!」と言われて嬉しそうな中居だったが、いざゴールを狙って打ってみると「(パックが)上がらない!」とゴールはならず。


 「見た目では簡単そうに見えますが、私、素人にはもちろん難しいです」と漏らした。中居の動きを見ているだけでも、難しい競技であることは伝わってきた。スタジオでは、選手たちが思うように練習に打ち込める環境ではなかったことなど、チームや選手たちの環境にも着目して報告した。


 4年に一度の大会を前に、どの局のキャスターも相当な勉強を積んで現地入りしたことだろう。中居も同様、ダンボール箱に資料を詰めて現地入りしたことが報じられていた。


 ファンの間ではよく知られているが、かつて『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)で司会を務めたときも、分厚い台本を丸暗記して挑んだという逸話がある。デビュー前に遡れば、司会者になるべくノートを真っ黒にして勉強していたことをTOKIOの城島茂が明かしたこともあった。


 一見すると難なくこなしているようにも見えるが、中居の番組に対する準備は半端ではない。


■羽生選手、宇野選手から笑顔を引き出したインタビュー術


 中居による男子フィギュアスケートで金メダルを獲得した羽生結弦選手、銀メダルの宇野昌磨選手へのインタビューでは、両選手とも笑顔で応じた。


 羽生選手には祝福ムードで迎えながら、怪我からの復帰について掘り下げた質問をした。羽生も「もうこれ以上治らないと決めた瞬間がある」と覚悟を決めた時の心境を明かした。


 宇野選手には、取材が始まる前に「すごい出てるよ、眠そうな感じ(笑)」と冗談混じりに言葉をかけ、本番でも冒頭から「こんなに眠そうな宇野くんは初めてですね。銀メダル獲るとこんなに睡魔に襲われるのかって感じてるんじゃないでしょうか」と投げかけた。


 中居ならではの軽妙なトークにつられ、宇野選手は体を前後に動かしながら笑っていた。和やかなムードから徐々に核心に迫っていく。ショートでは羽生に負けていたが、フリーで自己ベストの214.97点を叩き出せば金メダルを狙えると考えていたのでは? と鋭い質問に宇野は「そうですね、考えてました」と率直な感想を答えた。


 本番直前、金メダルを下げた羽生選手に、「かっこいいよな~、(金メダル)自分でかっこいいと思わない?」と中居が聞くと、羽生も冗談まじりで「思います」とニヤリ。宇野選手にも「最後に、いま何がしたいですか?」と聞き、「寝たいです」を引き出したところはグッジョブである。


 舞台に立つまでの努力、苦悩、そして大勢の期待を背負って舞台に立つこと……それは中居が歩んできた道とどこか重なる部分もあるのではないか。アスリートに対する敬意と自身の経験が、選手とキャスターという立場を超えて、より踏み込んだ距離の近いインタビューになったのだろう。


■生放送で発揮する司会力


 選手に対する敬意があり、テレビの前の視聴者を置いてけぼりにしない細かな配慮、それが中居流だ。


 冬季の競技は野球やサッカーなどのメジャーなスポーツと異なり、普段報じられる回数は限られている。視聴者の中には「五輪だから観る」という人も多かったことだろう。


 どんな人にも伝わるよう配慮したのか、会話をすすめる中で、対戦相手の実績や近況など、観戦に必要な情報を的確かつ手短かに差し込んでいた。「なるほど、対戦相手は日本チームよりも格上なのか」とルールのわからない競技でも参加しやすくなるような視点を与えてくれたのはありがたかった。


 番組では試合の中継がメインであることから、キャスターや解説者らに割り当てられる時間は少ない。わずか数分つないではCM、少し喋っては再びCMと、小刻みな中継が続いた場面もあった。それでも中居は限られた時間の中で的確なコメントで場をつなぎ、特殊な状況に慣れていない解説者が同じようなコメントを繰り返したら、さりげなく別の質問を挟んで新たな言葉を引き出していた。トークのテンポも、難しい部分はゆっくり話すなど内容によって調節していた。


 生放送の場数を踏んでいることもあるが、尺にあわせたコメントで時間ぴったりに番組を締めくくる。正確な時間感覚による仕事はお見事だった。


 「メダルが取れなかったからといって、全てを否定してしまうことにはしたくない」と、メダルの有無に関係なく、常にフラットな姿勢を心がけていると会見で語った中居。アスリートに対する敬意、視聴者への配慮ーー中居を起用したプロデューサーが一貫した姿勢を高く評価していた。


 「この瞬間、きっと夢じゃない」、「Moment」など、かつて同局のオリンピック番組のテーマソングにはSMAPの楽曲が起用されていた。今回、番組中耳にすることができなかったのは残念だが、中居の仕事ぶりに<この一瞬のための何千時間>、<この一瞬のためだけじゃないんだ>と「Moment」の一節が浮かんだ。


 キャスターとしての中居がいる一方で、視聴者と同じように固唾を飲んで試合を見守り、時には勝利の喜びを隠しきれずに満面の笑みを浮かべるーー視聴者と同じ目線で楽しむ中居の姿に、五輪がより身近なものに感じることができた。


 世界的な大舞台とテレビの前の視聴者をつなぐ「橋渡し」。中居らしいスタイルで役目を果たしていた。(柚月裕実)