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深田恭子、視聴者の心に訴えかける苦悩の表情 『隣の家族は青く見える』の演技を読む

2018年03月01日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 コーポラティブハウスに暮らす4組の家族・カップルを描いた『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)。不妊治療に励む子供がほしい夫婦、子供が欲しくない事実婚のカップル、同性愛者のカップル、2人の娘を持つ家族、回を追うごとにそれぞれが抱えている悩みが露見していく。


参考:野間口徹が真飛聖を叱る!? 『隣の家族は青く見える』副音声に挑戦


 2月22日に放送された第6話での、不妊治療に励む主人公・五十嵐奈々を演じる深田恭子の演技に注目したい。


 前話で、奈々は夫・大器の妹・琴音の出産に立ち会った。そのとき、義母・聡子は「奈々ちゃん、子供のことでつらい思いをしてない?」と大器に話しかける。大器から不妊治療に励んでいることを聞いた聡子は涙を流す。大器は、奈々や家族を気遣って、「今まで通りでいてやってよ」と母親に頼んだ。


 第6話冒頭、赤ん坊のお宮帰りから帰ってきた五十嵐一家を、自宅へ向かい入れる奈々。琴音は出産の一件で奈々に信頼を寄せており、奈々にだけ自分の赤ん坊を抱っこさせる。事情を知っている大器と聡子は複雑な心境だ。奈々は赤ん坊を抱っこし、嬉しそうな笑顔を見せる。しかし視聴者である我々は、奈々が不妊治療に苦悩している様子が、少しだけ強ばったその表情で理解できてしまう。


 深田演じる奈々はとにかく優しい。コーポラティブハウスの住人ともよく話し、同性愛者であることをオープンにしている朔、事実婚で夫の連れ子と暮らすことになってしまったちひろの話を優しく聞き入れる。ちひろと犬猿の中である深雪にも変わらず声をかけ、挨拶する。しかし周りの人を優しく思いやる彼女の心を、不妊治療の悩みが蝕んでいるようだ。不妊治療のことが少しでも頭に浮かぶと、彼女は視線を落とし、顔を硬直させてしまう。


 度重なるリセット(不妊治療中に生理が来てしまうこと)に心身を消耗させている奈々は、洗面所で立ちすくむ。立ちすくみ愕然としているシーン自体は短い。直後に大器が洗面所へやってきて奈々に声をかけるからだ。しかし、大器と目を合わせることなく、奈々は返事をする。人は愕然とすると、どこか上の空に見える。何気ない深田の演技だったが、その心中が観ている側にも伝わり、とてもつらかった。


 視聴者の胸に刺さったであろう印象的なシーンは一番最後だ。複雑な心境を抱えたまま、お宮参りの写真を渡しに五十嵐家を訪れる奈々。そこには育児に疲れ、自信を失う琴音の姿があった。必死に琴音を励ます聡子と夫の啓太。しかし琴音は彼らが見ている前でこう言い放つ。


「子供なんか産みたくなかったよ!」


 奈々の事情を知る聡子は、思わず琴音の頬をはたく。奈々の事情を知っていることを隠してきた聡子だが、彼女は耐えられなかった。「あんたの言ったことは、子供がほしくても持てない人に失礼だ!」と泣く母親を見て、琴音も奈々の事情に気づいたようだ。


 聡子と2人きりになったとき、奈々は聡子に事情を話した。聡子は「子供を待ち望んでいる私たちのために、なんて考えなくていいからね」と奈々を励ます。このとき、奈々の口から溢れた言葉は「すみません」なのだ。もちろん、これは誰のせいでもないことで、謝る必要なんてない。当然聡子も「謝らなくていい」と言うが、奈々の口からこぼれ落ちた「すみません」は、彼女の苦悩がもう抱えきれないことを表している。奈々本人も謝る必要がないことは分かっているはずだが、彼女のこの一言は、不妊治療の大変さを物語っていた。このシーンでの深田の演技は、不妊治療に励む人の心に寄り添っただけでなく、すべての視聴者の心に訴えかけたことだろう。


 奈々は、他の登場人物と違って感情をあまり表に出さない。周りの人の悩みに寄り添い、話を聞いてあげる優しい女性だが、自分の悩みは限界に達するまで抱え込んでしまう。世間の不妊治療への理解は深まっているとは思うが、奈々のように、誰にも相談できず、全てを背負い込んでしまう人も少なくないだろう。回を追うごとに奈々の笑顔が少なくなっていく。どのような結末だとしても、奈々の笑顔を見ることができる最終話になってほしい。(片山香帆)